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活字市場の「B層化」は止まらない

 B層保守相手の雑誌販売の現在の勝利者は『WiLL』だそうだ。
 売り上げ競争では、月刊『正論』は『WiLL』のはるか後ろにおいてきぼりにされた状態らしい。差は逐次に開いているという感触がある。

 ただ、わたしの自宅には残念ながら『WiLL』は送られて来ないから、本屋で立ち読みする習慣をなくして久しいわたしとしては、その内容を把握せぬ。ゆえに『WiLL』が良いとも悪いとも言えないのだ。想像できるのは、B層相手の販売の勝利者なのだろうな、ということのみ。

 じゃあ月刊『正論』が売り上げを挽回するにはどうしたらいいんですか――という意見を仮に求められたとした場合、プロ・ライターは、なかなか答え難いんだよね。
 だって、いちばん言いたい意見は、「このライターさんやあの記事、あのコーナーは、つまらないし、古臭いし、もう打ち切ったらどうですか?(代わりにオレが長いものや面白いものを書くから仕事くれ)」なんだから。

 しかしそれを口にしたとたん、編集者のその日の気分しだいでは、「そう言うお前の記事は、じぶんで面白いと思ってるのかよ?」という話に急展開してしまい、天に唾する藪蛇になっちまわんとも保し難い。「よし、それじゃクロスラインなんてなくしてしまおう」とか「新人に交替してもらうことに決めたので、来月号で最終回にしてください」なんてことになったら大弱りさ。だから、そんな意見は誰もおくびにも出せませぬわい。

 ひとつ言えることは、B層相手に何か読んでもらおうと思ったら、長い話はダメさ。文字量に比例して面白さも濃いことが要求されるはずですよ。それが月刊『正論』の現状では、逆の比例法則が成り立っていませんかい? 短いものほど面白く、長いものほどつまらないという……。
 そいでもって短いものほど原稿料が少なく、長いものは字数に比例して稿料が多いのだから、ライターの方としちゃあ、「つまらなくてもいいから長く書いてやれ」というモチベーションしか生じない(短い原稿を面白く書いている人は、金銭的には酬われない)。この構造を放置していては、B層から拒絶されるのは自然ではないですかい?

 10月下旬発売の『別冊正論 第16号』では、雑誌用としては久々に長目の話を書いてみたので、ご一読ください。幕末の館林藩の「家老」の話だから、そっち系の歴史に興味のない人には、面白いかどうか分からない。
 1万字を「長い」と思わせない文章に書き上げられぬとしたら、オレもプロ・ライターを廃業して近くのセイコマートのバイトでも探さねばならん。

 旧幕時代の「家老」は、現代の政策官僚です。
 代々の家老の家に所属していないと、藩士は藩の政策形成に口出しもできなかった。それが、薩・長など一部の藩以外の、二百余の諸藩を、時代遅れにさせたわけです。

 12月の『【新訳】戦争論』も待っていてくれ。日本におけるクラウゼヴィッツ理解の歴史は、これをもって画期とされるようになるだろう。限度ページ数を派手にオーバーしちまったんで、印税率を下げてもらうことで、増ページを確保した。前の『【新訳】名将言行録』は、テキストを刈り込みすぎてつまらなくなり、売れなかったと思う。だから今回はその逆をやる。とにかく新書1冊で、『戦争論』はぜんぶ頭に入る。それどころか、毛唐の理解度よりも高く深く『戦争論』を把握できるよ。長い文章を面白く書いているから、集中力が中断せず、読み切るのには一晩しかかからない。B層の松下政経塾あたりが読めば、一晩で「オレは只今からナポレオンになった!」と錯覚するだろう。これなら1万部以上は売れる。われながら、面白すぎるわ。

中西氏はもう引退した方がいんじゃね? テスト販売は書泉とジュンク堂でやってるよ

 『Voice』11月号に中西輝政センセが「エアシー・バトル」について書いておられるのだが、ひでーもんだよ。
 センセは、かつての「エアランド・バトル」構想を「詳しく研究したことのある人間」なんだそうだが、その把握が間違っているんだから参った。トシを取ると、昔いっぺん理解したつもりのことでも記憶が変形してしまうことがあるというサンプルかもしれんな。人間の思い込みは、記憶よりも強し。自戒、自戒……。

 以下、オレの理解を述べる。
 エアランド・バトルの眼目は、西ドイツを焦土化させることではなくて、逆に、「西ドイツの焦土化をどう防ぐか」にあった。
 それにはWP軍(実態はソ連軍)の第一梯団ではなくて、その後続の第二、第三梯団をこそ、先に空から叩いてやることが、スーパー・ソリューションになるだろう、と米陸軍は数学的アプローチによって気が付いたんだ。
 第一梯団の撃破だけに集中していると、いつまでも味方の最前線にかかる敵の圧力が減じない。それどころか、逆に、増して来ちまう。そこで、後続梯団を叩く効果を計算してみて、この戦術上の大発見に至った。

 だから、「エアシー・バトル」の採用と日本の焦土化とは、話はつながらない。専制第一撃のイニシアチブがシナにあり、シナが核武装国である以上、米軍が何ドクトリンを採用したとしても、日本は常に焦土化の危機にある。それを抑止しているのは、東京都に常時9万人も暮らしている米国籍人だろう。米空軍や海軍が日本から後退してもこの9万人はすぐには退避できない。水爆炸裂で9万人を殺したら、長崎以上の話になる。

 エアシー・バトルについての適当な日本語解説がなくてお困りの人は、来週発売の兵頭二十八著『極東日本のサバイバル武略』を読んでほしい(都内なら書泉とジュンク堂で現在テスト販売中)。そもそも「エアシー・バトル」の想定戦場は南支那海であって、東支那海ではなく、台湾有事でもない。そしていったん開戦となればシナ軍には万に一の勝ち目もないのだ。

 米海軍は「海軍だけでシナには勝てる。空軍にも少しは協力させてやるが」という、予算削減の嵐を乗り切るための巧妙なコンセプトとしてエアシーバトルを提案した。受け太刀の空軍はとっさにこれに対する反論ができずに、1本とられた格好なのだが、もちろん「空軍だけでシナには勝てる」と主張したくてうずうずしている。ただ、主張の仕方をまちがえば、空軍予算を削減すべき根拠として逆手に使われてしまうから、金縛り状態なのだ。

 シナ人はどう見ているか。荀子いわく。「吾れの短なる所を用[も]って人の長ぜる所に偶[あた]ること無かれ。」

新刊についての超極秘情報!

 『極東日本のサバイバル武略――中共が仕掛ける石油戦争』は、東京都内のごく一部のミリタリーに強い書店さんで、すでに昨日からパイロット販売されているという噂です。お近くの方は、お確かめください。

◎「読書余論」2011-10-25配信予定号の内容予告

▼大糸年夫『幕末兵制改革史』S14
 これは資料価値の高い一冊。

▼前田清志「幕末期における大砲の穿孔について」1993

▼藤田嗣雄『明治軍制』1992

▼『最後の鉄砲鍛治』
 大正10年から戦後までの、散弾銃屋の話。

▼『上杉鉄炮物語』

▼大隈三好『切腹の歴史』H7-9
 磔刑の前には首縄で絞め殺しておいたこと。大量の武士を牢内斬首させた安政大獄は、前例の無い非常識な行政テロであったこと。

▼岡谷繁実『館林藩史話 館林叢談』歴史図書社、S51
 岡谷繁実の基礎資料。しかし工藤三壽男氏の研究とつきあわせると日付は違いまくりだ。「家老」とはどういう人たちだったかを知るに好適。また「領地替え」「屋敷替え」は、幕府が気軽に実施した刑罰だったのだと知られる。

▼田山花袋『時は過ぎゆく』新潮社、大5-9
 田山兄弟がさんざん世話になった岡谷繁実の描写が貴重。作中では「岡田繁行」。

▼田山花袋『東京の三十年』イワブン1981、初版は大6-6
 天保銭は、1銭には2厘足りず、うつけの暗喩だった。
 荷物用の川舟が「ニタリ」である。
 日清戦争の舎営地ではシナ人スパイが読めぬカタカナで表札を出した。

▼田山花袋『田舎教師』イワブンS6

▼『子母澤寛全集 12 行きゆきて峠あり 狼と鷹』S48
 子母沢が新撰組を調べるまでは、近藤勇はただの人殺しと思われていた。近藤が自分の刀の目釘を普段どうしていたか、という貴重な情報もあり。

▼金子功『反射炉』I、II
 高島は青銅砲のつくり方しか知らず、鋳鉄砲は江川が工夫しなければならなかった。

▼石川迪夫『原子炉の暴走 SL-1からチェルノブイリまで』1996

▼東 幸治『薩英戦争』若松書店、大正元年
 これは古老にインタビューできた最後の資料ということになろうか。

▼高橋一美『会津藩鉄砲隊』S63

▼北方謙三『草莽枯れ行く』1999
 相楽総三の話。子母澤の文体に一度慣れると、この類は苦痛だ。

▼伊藤芳松『統帥心理学』M42-9
 言説よりも、言説者の威信が、庶民を納得させる。

▼津田元一ed.『訪暹経済使節報告書』S11-11
 タイはイタリアからも軍艦を買っていた。

▼吉原吉彌・秋山 秀『明治三十七八年戦役 騎兵第二旅団戦史』S10

▼高橋義夫『怪商スネル』S58

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 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)

 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。

 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。

 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
 過去のコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
http://www.budotusin.net/yoron.html
 で、タイトルが確認できます。

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