update 2015/11/14


救荒植物改良のための荒地基礎観察 2015年度報告

(兵頭 二十八 先生 より)
 政府は、ますます少ない労働者が、ますます多い老人を養う近未来が待っていることを危惧し、コーホート人口の少ない青年層〜壮年者男女の生産効率をせめて最大限化するべく、「1億総活躍社会」などとブチ上げている。
 しかし蟻の巣の観察をしたことがある者なら、その方向では、まずうまくいかぬであろうことはピンと来る。
 むしろ、「国民の1割は超活躍することが可能で、国民の9割は働かなくとも食べていけるアルティメット蟻社会」を目指さなければならないだろう。
 わたしはそのためのブレイクスルーは「山林の豊饒化」にあると目をつけ、「寒冷地の山野で放任増殖する有用植物のかけあわせ候補」を絞り込むために、わが借家の近辺の荒地を利用してさまざまな植物観察を続けている。
 しかしなにしろ相手は「宿根草」や潅木だから、簡単な結果成績を記録するためだけであっても、最低3年は観察をしなければならない。
 それでも、このようなリポートを公表しておくことによって、同憂同好の士が各地に増えれば、「クラウド実験」となり、話は速まってくれるであろう。
 以下には、既に1回以上、函館周辺で越冬している株の一部をご紹介して行きたい。
 日本の寒冷地レベルで越冬できない植物を救荒植物として研究しても、無駄であろう。地球は数万年のサイクルで、公転軌道が太陽から離れたり近付いたりを繰返す。今は離れ始めているときにあたっているので、これから1万年以上も、地球は確実に寒冷化する。
 短期的に予想外に暑い年がやってきても農業の実害は少ないだろうが、その逆は惨憺たる結果を招くはずだ。
 来年は、さらに今回に倍する種類の結果報告ができる予定である。たとえば、秋に実をつけ、それが冬の野鳥の餌となるような低木だけで「木の実パーラーの森」をつくる「トリパラ」(鳥のパラダイス)実験。アキグミ、ウメモドキ、サワフタギ、ムラサキシキブ、マユミ、ハマナス、ズミ、クロマメノキ、ガマズミ、白ヤマブキ……etc。いずれも植えるのは簡単でも、1年目は移植苗はすぐに実をつけてはくれぬ。2年目か3年目の様子を見なければ、なんとも言えない。しかし唯一の例外は早くも発見された。植えたその年から雌木一本で多量に結実してくれるベニシタン(コトネアスター)である。


写真(クリックしてください) キャプション
1・エニシダ

 この株は熊本のショップから取り寄せてこれで2年目。花後に刈り込んで、ポプラ樹のように姿を整えておくと、そのまま常緑樹が雪中に屹立しているような風情で越冬して面白い。バーネット女史作『シークレット・ガーデン』にもエニシダがあることになっていた。ところでバーネット研究家のアンジェリカ・シーリー・カーペンターによれば、バーネットは二度目の夫ステフェンから虐待を受けていたそうで、それが『ザ・シャトル』の姉の描写に反映されているんだと。だが待て。その前に、『シークレット・ガーデン』に出てくる監禁状態の男の子こそ、バーネットが受けた虐待とやらに近かったんじゃ……? まあその真相はともかくとして、辛い実人生を歩んだ著者が、あくまで作中では「他者」たちの幸福のために脳髄を絞る、その姿勢が偉いのだ。わたしはもし『次郎物語』とか『路傍の石』が児童文学全集に入っていたなら、その巻はまずゴミ箱へ叩き込んでから、わが子に全集を与えるつもりである。

2・ベロニカジョージアブルー
 とにかく耐寒性のあるGCP(グラウンドカバープラント)であることは、この目で確かめさせてもらった。春先に早々と満開になるのも嬉しい。ただ、花期はすぐに終わってしまって、その後、領地を旺盛に拡げ、周辺の他のGCPを葉で覆い尽くそうとする。おかげで頑健なシバザクラも半滅。ピンクのマツバギクも、完全日蔭から至急救出移植せねばならなかった。

3・ヒューケラ
 このヒューケラには驚かされた。前年は木陰の地面でくすぶっていたので、築山の東斜面に移植しておいたところ、爆発的に成長。花期も滅法長いものなのだと知った。「IEDエクスプロージョン」と勝手に命名したいほどである。手前の細葉の株はラッキョウで、これも放置しておけば秋に花をつける。

4・ローンデイジー
 タンポポよりはさすがに遅れるが、球根ではないGCPとして春一番に開花する。たとえば左上隅のシランは、まだ地面から葉が出たばかりという段階である。ゆえに、ごく小さいのにもかかわらず、庭で目立つこと、この上なし。写真右上の小株(3輪)は、昨年のこぼれ種による増殖だ。メヒシバがはびこりまくりの、小石混じりの地面でも、この通りである。

5・ユーフォルビアキパリッシアス
 放任増殖力という点からは、ユーフォルビアの中では、こいつが一番強いんじゃないかと思っている。この地面は、これまでいくつもの植物の苗をあっけなく死滅させてきた、とびきりの悪土。北海道では宅地の造成に産廃土を使っているようなところがいくらでもあるようで、ここも、ちょっと掘ると、ゴムホースだとかガラス瓶の破片だとかネジ・釘類が、次々に出てくる。しかしキパリッシアス君は、御覧のようにここで越冬した上、勝手にこぼれ種で増殖しているのだ。


6・リナリアプルプレア白  写真のいちばん左端の株を2013年春に苗で購入。それが、こぼれ種によって、2015年春にはこんなに増えた。こいつの種シーズンの卓越風は、南西風なんだということもわかってしまう。なお、写真中のピンク〜赤の花は、いずれも実生のヒゲナデシコが増殖したもの。本年初登場の野生のヒメマツヨイグサも生やかしてある(ロゼットの外観を写真で覚えて、保護するように努めたのだ)。
7・プルモナリア  大手通販ショップにて2013年秋に買い求めたプルモナリア。耐寒性・耐陰性はすばらしく、年々株が大きくなってくれるのもうれしいのだが、高勢ではな いゆえ、まだ花が終わらぬうちから、周囲のヒゲナデシコの密林中に埋没してしまう。ヒゲナデシコは、早い株は前年秋から写真のようなロゼット姿で次の春を 待っており、それが春とともにロケットのように高速成長するのだ。なお、プルモナリアが球根より早く開花すると書いてある書物があるが、それは北海道の データだとは思えない。すくなくともここでは5月にならないと咲きません。
8・ホタルブクロ  日蔭でくすぶっていたものを昨年秋に日なたへ移植しておいた。それを忘れていたので、幼葉が出てきたときは、何だか分からずに、判定に悩んだ。この写真の中央には、実生のシャボンソウも写っている。ジフィーを1箱使って、たった1株の実生が得られたものだ。左手前にはリアトリスの実生越冬株が見える。右手前には赤花除虫菊。白花は、野生のフランスギク。
9・セイヨウノコギリソウ  2年目の株だが、今年は巨大化・高勢化したので驚いた。テラコッタ色の花色がつき始めている。写真とは別な場所に、赤色の西洋ノコギリソウもあり、そっちは、ここまで高勢化せぬかわりに、花後に切り戻せばまた咲く元気を見せる。しかるにこっちの方は、日蔭をなくそうと、強剪定をしすぎて、切り戻されたまんま、冬休み態勢に入っちまった。左手前はコモンセージ。いちばん奥の青いのは実生のオレガノ。
10・ユキザサ
 毎年土手に勝手に生えてくる。春の食用になるらしいのだが、地下茎による増殖を阻害してはいかんと思い、まだ一度も試食してない。

11・ヤナギラン 咲き始め
 昨年は高勢化もせず開花もしなかったヤナギランは、今春は地下茎によって多数の芽を出し、次々と高勢化して開花し、にぎやかであった。種は綿毛で飛散するらしい。けれども、このように放置しておくと、冬が来ててもまだそのままくっついて残っている。飛散を焦らないのだ。漠然と想像をするに、このタネを晩夏に即座に強制的に地面へ撒いたとしても、その実生は翌年は開花しないだろう。もし自然放任であったならば、実生の次世代株が開花するまでには最速でも3年かかるのではないかと思う。寒冷地の宿根草は、最短でも2年計画でライフサイクルを考えていて、実生は、栄養生殖できない場合の保険の位置付けなのだろう。春に地面に出てきたヤナギランの芽を人為的に他所へ移植した場合も、その株はその年内には高勢化しない。冬までずっと、地下茎の充実にだけ、エネルギーを使い続けているように観察される。
12・ヤナギラン 咲き進み
13・ヤナギラン 花後
14・クリムソンクローバー
 実生でしかも一年草のはずなのだが、この株だけ、毎年同じ場所に蘇る。しかも大株である。どうも「多年草化」しているのではないかと疑われるのだが……。

15・ラムズイヤー
 この巨大草本が、じかまきのタネから2年で開花株になるのだとは、想像もできなかった。というか、そもそも播いた覚えもないので、何かのミックス袋に入っていたのだろう。1年目は、モウズイカのロゼットのようなものができて、その姿で越冬。そして2年目にこうなる。茎の先にやがて小さい赤い花が多数付く。葉がビロード状であるのに比して、茎は硬くて「メイス」を印象させる。左の白花はリクニスホワイトロビン。こぼれ種の実生で、花期は短い。右のセントーレアモンタナは、多年草ながらやはり実生。花期は長い。中央にはシャボンソウが埋没している。奥の黄色いのは「センダイハギ」といい、マメ科なのだが、牛や馬はこれを嫌うゆえに放牧場はこいつの天下になるという。毒はないように見えるが、人の腕力で茎や地下茎を引き切ろうとしても無理なぐらいに頑丈。そしてまた地下茎は2m以上も拡がる。日蔭が出来てこまるので、花後には地際から刈る。それでも来春には復活する。

16・バーベナハスタータ青
 前年、木陰で元気がなかったのを、日なたへ移植してやったら、のびのびと育った。手前の黄色いのは、宿根+タネでパンデミック的に増えるダイヤーズカモミール。これにくらべたら野生のコレオプシスの方がずっとゆっくりしているように見えてしまう(実生新株は僅かだし、しかも開花まで2年くらいかけている)。右手の球状ピンク物体はやたら元気なシレネファイアーフライで、今年は「株分け」を試みたので、来年は、その調子の如何も報告できるだろう。

17・セントジョーンズワート
「聖ヨハネの薬草」という名前がついているのは、古来、西洋の教会が薬草園内にこいつを植えていたためのようだ。「野生化して困る」というほどの増え方は、いまのところは、見せていない。後方のラムズイヤーには、花が付いている。その奥はスイセンノウ=フランネルソウのよくある赤。植えて1年目は咲かず、2年目に咲いた。こぼれダネで増えるのかどうかは、来年に確かめられよう。

18・シャボンソウ
 一重咲きで高勢のソープワートは、かなりタフで、株もどんどん拡がる――とは聞いていたが、この寒冷地では、ちょっと日蔭になるともう調子は悪い。1ダース以上の株を植えて試してみた結果、ほぼ消滅してしまった株が3つくらいある。咲き始めは夏。そのかわり11月までも僅かづつながらしぶとく開花し続ける。その下の青いのはゲラニウムのジョンソンズブルー。これは春から、降雪するまでの長期間咲き続ける。ゲラニウム/フウロソウは、北海道にはよほど適しているのではないかと、3年くらいもしてやっとわたしは理解するようになった。ゲラニウムのロザンネイは、たまたま場所が良いと盛るが、場所が悪いと、消滅してしまう。

19・チコリー  チコリーは、超高勢になってくれるのは面白いのだが、周辺に高勢の雑草が繁茂していない土地では、やがて強風で横に寝てしまう。青花は2日間くらいで次々にしおれ、そのひとつひとつが多数のタネをつくる。このタネを人工的に撒布したらどのくらいはびこるものか、実験結果は来年以降に判明するであろう。左手の黄色いのはリナリアブルガリスで、宿根草ながら実生によってその年のうちに子株をつくってしまう。日なたでさえあるなら、どこまでも支配面積を拡げて行く。ただしチコリーと違ってこっちは食べられない。
20・ヤブカンゾウ
 ノカンゾウなのかヤブカンゾウなのか、わたしには判定ができない。夏になると、土手のあちこちに勝手に生えてくる。残念ながら、ユリの親戚らしくて有毒。手前の下草は、バーズフットトレフォイル(セイヨウミヤコグサ)で、実生。日蔭だとこの程度で、開花もしないが、日なただと開花し、しかも延びまくった茎があたかも「刺のない鉄条網」のように、足のつまさきにひっかかる。その茎を引き切るには相当の力が必要である。


※追記:これは「ノカンゾウ」で、毒は無いだろうという指摘を受けた。
21・宿根アマ  冬に地際から刈ってしまうべきかどうか迷ったので放置しておいたら、古い茎の先からも春に新芽が出る場合のあることが分かった。衣料用の繊維が採れるのは一年生の亜麻であって、こっちではないと聞いている。
22・ナワシロイチゴ  野生の雑草。いちどその実を賞味してみよう、と念じてはいるのだが、行って見るとすでに野鳥が食べつくしたのか何も残ってない……ということが多い。
23・クズとアピオ
 今年も花期が重ならず、自然交配実験は失敗した。というか、葛の方が開花してくれないのだ。写真のアピオスの手前には、「クコ」の裸になった細枝が見えている。クコはその実だけでなく葉までが食用になるというので試しにこの春に植えてみた。しかし北海道は寒すぎると見え、たちまち落葉してしまった。それでも地際に新しい葉が出ていて、しぶとく生きてはいる。越冬できたなら、またご報告するであろう。そのさらに手前、越冬はするものの株は衰弱するばかりのバーベナボナリエンシス(三尺バーベナ)の集合花が見える。こいつは来年は消滅するかもしれない。

24・宿根ヒマワリ
 正式にはヘリアンツス・ムルティフロルスというのかもしれない。こうした八重の花はタネをつくらないのだろうと思い込んでいた。大違いであった。地面が最悪の産廃土壌であるにもかかわらず、今年の春に、親株の周辺に実生の幼葉が多数出てきて、わたしはすっかり感心した。たった1株だったのが、2年目にして、はやくも群生状態だ。右手は、ジフィーを地面に定植してみたチコリー。


25・ミヤギノハギ
 熊本のショップから買った苗が、これまた絶好調。毎年冬に、地際から刈ってしまっても、来春には、地面からまた生えてくる。「生えてくる木」なので「ハエギ」→「ハギ(萩)」と転訛したそうだ。とにかく管理がめんどうくさくなくていい。マメ科なので肥料もいらない。借家の庭にはうってつけではないか。

26・白ボルトニア

 昨年夏、親切な方からいただいた株。おそらく日本では諏訪郡の富士見町グリーンコテージガーデンというショップでしか通販されていないものではないかと思う。一般的な(ただし当今はおそらく何かくだらぬ理由によって流通してない)青花ではなくて、白花。しかもやたら高勢に育つ。「Boltonia asteroides var. latisquama」で英文検索したら、商品名は「スノーバンク」、俗称は「偽アスター」だと。自生地は北米メイン州までとある。耐寒性は十分だろう。向こうでは湿地に野生しているそうだが。ちなみにボルトニアという名は18世紀の英人植物学者のジェイムズ・ボルトンに由来。3地点に植えてみた。当年のインパクトは、さほどでもなかった。が、すべて越冬し、しかも株の広がりがすばらしい。そして本年は、いちばん陽当たりの良い場所の株が早々と人間の身長を越えた。開花は青花種よりも遅く始まる。そのかわり11月になっても一部は咲き残る。開花後は支柱(または吊り縄)は絶対に必要であろう。写真株元のチョウジソウと比べてみてください。米国では高さ1mにしかならぬと英文ネットに書いてあるのは、嘘ではないか? 花後にはタネがバラバラと落下する。しかし実生で増えるのかどうかは来年にならぬと分からない。ところでわたしは、人が何も手助けもしないのに、道南の山の中にもオムニプレゼンスにちゃんと生えている宿根野草の「ノコンギク」(タネは綿毛で広範囲に飛散する)を見るにつけ、こういうのこそが真の放任増殖植物の手本であり、これに比べたらば同じキク科の青ボルトニアなど、北海道で野生をちっともみかけぬ以上は、気候激動時の生き残りポテンシャルだってずいぶんと劣るはずだと思うようになった。いつか、比較観察もできるであろう。


(管理人 より)
こんにちは。
2012年より始まるこの企画。草花である。

私は練馬区に住んでいる。

23区でも屈指の緑の多さだと思うのだが、別に食べられる草花が生えているわけではない。

函館でも食べられる草花が育つのなら、それより南の庭はまさに豊穣の地ではないか。

庭に食べられる植物が本当に生え続けるなら、こんなに心強い事はない。

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