interview with ─── vol.3


管:具体的にどうなることが「成熟」なんでしょうか。

兵:これが学会だったら、どの情報源、どのオピニオンの引用元もハッキリとしていて、知識のヒストリーとしての「索引」が完成されているものです。ところが、そもそも洋書のパクリからスタートしている戦後の日本のミリタリー専門書業界では、その「索引」がほとんど整備できてない。パクリの連鎖の元をたどっていくと、洋書かどこかに行き着くわけだが、その洋書の信憑性がまず不明だったりするのですよ。だから誰もジャッジ不能。この調子では、あと半世紀たっても、日本の研究は毛唐に勝てません。索引の完備している学会でも、日本人の研究は遅れているんだから。

管:大目的として、外国に勝つということがあるのですね?

兵:もちろんです。おそらく私の本の間違いを指摘してくれる人の6割くらいは、日本が強くなり、日本が戦争に勝てる国になることを願っている人たちだ。ということは、「戦前の日本はどうしようもないだめな悪い国で、負けて当然だった」という司馬史観のアンチであるという点で私と立場は何も違わないじゃない。仲間よ、大いに頑張ってくれ、とエールを送りたいですよ。惜しむらくは、もっと核技術や宇宙技術や通信電子技術について共に語れる人が増えてきて欲しいね。戦車の話はかなりもう終ってると思うよ。後から勉強した諸君にはちょっと不憫ですけどね。誰も手をつけてない分野を、人に先んじて研究しな。老婆心ながら。さもないと毛唐に勝てねえぜ。

管:経済や政治の話が、これからは大事なんですか?

兵:「これからは」じゃない。最初から最後まで大事です。私の「おっかけテーマ」は知ってるでしょ。「権力」の問題ですよ。国の権力。人の権力。それは技術が左右することもあるが、政治はもっと左右する。たとえば、核物理学者たちが原爆を作ったんじゃないんだ。F・ローズヴェルトが原爆を作ったのです。あの主だった学者たちのうち、最初から米国籍だった者はほとんどいないのですからね。ところがこれを「米国だから原爆が作れたんだ」という人たちが、まだまだ日本には多い。つまり「日本には原爆は作れない」と言いたいわけです。これが戦後の「腐った精神」なのです。そしてそれは、司馬史観ととても近い。腐った精神から軍事技術を語る腐った軍事オタクを、見破らなければなりません。もっとも、そいつらは自分で頼まれもしないのに長い文章を書き、機会あるごとに自白してるんですけどね。

管:「腐った軍事オタク」は、矯正できるんでしょうか。

兵:できません。討議は成り立たないのです。言葉というのは便利なもので、永久に自説以外の他説を否定し続けることもできる。それはネットの歴史に詳しい貴方には、よくご存じじゃないですか? ただしディナイヤル(否認)によっては権力はとれない。いつまでも隅っこでクダまいてるだけ。それが日本国にとっては、僅かに救いです。

管:長々とありがとうございました。また読者の疑問なんかをぶつけたいんで、こうしたインタビューをお願いしても良いですか?

兵:いや悪いけどもう勘弁してよ。写真とか、いろいろやったじゃない。君たちに一を与えると次には十を要求してくるから困る。生活費をくれよ。そんなに私の時間をムダな、非生産的などうでもいい世間話に拘束したいなら。次の単行本がぜんぜん止まったままだよ。この調子じゃ、メシの食いあげだぜ。……というわけでスマンが、これからしばらく、調査と思索と執筆に専念したいから。質問等は控えるように。オレも人が善いから、質問されるとつい、答えてしまいたくなるんでな。じゃあね〜、バッハハ〜イ、ギロギロギロバチ(こんなん知らないか)。

管:本当にありがとうございました。私くらい幸運な兵頭ファンはいないと思います。

おしまい


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