update:2008/7/19
細心かつ不敵な空き巣狙いについてのリポート/2008-7-19

犯人の靴跡1 犯人の靴跡2 犯人の靴跡3
犯人の靴跡4 犯人の靴跡5
(兵頭 二十八 先生 より)
●細心かつ不敵な空き巣狙いについてのリポート/2008-7-19/兵頭 二十八

 平成20年7月16日の朝6時半過ぎから、7月17日の夕刻5時頃まで、函館市美原地区の自宅を空けていた。夏休み直前で、旅費等が「オン・シーズン」価格になる前のタイミングである。出るときにうちの女房は、台所の窓の施錠を、しっかりしていなかったようだ。
 16日の昼頃、宅配便(光人社からのゲラ)が配達されたものの不在であったために、不在通知のスリップが、郵便受けに半分差し込まれた。〔あとできいたところ、『完全に投入されるとわかりづらい』という客からのクレームが多いために、常にそうしているのだとのことです。〕
 自宅には玄関スイッチの自動点灯装置がないために、16日の暮から就寝時刻にかけ、普段は点灯する玄関前の蛍光灯は、消灯のままであった。屋内にも灯火なし。そして玄関前の駐車場には、いつもの軽自動車なし。またいつもの子供の騒ぎ声もなし。
 16日の深夜、ひとりの男がやってきて、針金とプラスチックのメッシュで構成されたフタ付きの軽量ごみ袋置き箱を踏み台にして、かねて目をつけていたトイレの窓から浸入しようと試みた。このトイレの窓は、夏は、深夜でも数センチ、開けていることがあるのだ。犯人は、それを事前に見ていたのだ。
 〔我が家は袋小路にあるのでストレンジャーが通りすがることはない。つまり男は夜間に自転車などで町内を巡回しつつ、かなりな遠距離から、家々の窓の施錠状況を目視し、記憶しているのか、あるいは近所の日常に溶け込んでいる、深夜徘徊常習者である。出撃拠点は安アパートと考えるのが自然だろう。〕
 しかし、トイレの窓の鍵はしっかりかかっていた。犯人の期待は裏切られた。〔このとき、ごみ袋置き箱は、男の体重で屈曲損壊した。よって以後は「犯人」と呼ぶ。〕
 次に犯人は、台所の窓の施錠状態を確認した。なんと、鍵はかかっていなかった。
 そこで犯人は、屋外灯油タンクの下に置かれてあった幼児用の三輪車を持ち出して、それを台所の窓の下の花壇に据えて踏み台とし、台所の窓から屋内に侵入することに成功した。〔この貸家を管理している不動産屋さんいわく、もし鍵が完全に閉まっていた場合には、窓をカットして入ったかもしれない、とのことです。そのような浸入盗はもはやめずらしくないとのこと。〕
 犯人はダイニングルームのサイドボードの最上段に置いてあった5つのポチ袋(お年玉入れ)に目をつけた。なぜ夏のいまごろそんなものが存在するのかはうちの女房しか知らないのである。ポチ袋の中には千円札が1枚づつ入っていた。犯人はご丁寧にもその千円札を抜き取り、ポチ袋を元通りに戻しておいた。きっと犯人の身長は170センチ以上あるだろう。さもないとこのポチ袋の存在そのものに気付きにくいと思うのだ。〔わたしはちょうど170cmだが、ポチ袋があったなんて知らなかった。〕
 次に犯人は、電話台となっている半透明の引き出し付のクリアケースの引き出しの中を、ひとつひとつ、確認してみた。そこには名刺入れなどがあったが、現金は無かった。犯人は、引き出しを元通りに閉めたが、子供のいたずら防止用のフックは、外したままにしておいた。
 次に犯人は隣の座敷(寝室)に向かった。箪笥の上に、事務用の透明なプラスチックの引き出し付きの整理ケースが鎮座している。いかにも『この中には通帳、印鑑、現金、へそくり等が収納されていますよ』とささやきかけているようである。
 犯人は周到にも、まず、座敷の窓の施錠を内側から外し、2重窓をそれぞれ数センチ、開けておいた。これは、もし誰かがやってきたときに、即座にそこからエスケープするための道を、準備したわけである。プロである。
 そしていよいよ、ささやきかけている整理ケースの中を確認にかかった。犯人はその中にあった複数の事務封筒の中を覗いた。合計6万5000円前後の札が見つかった。犯人は上機嫌になったであろう。現金だけ抜き取ると、丁寧に封筒と引き出しを元通りに戻した。
 ところでわたしは今回の旅行の途中で宿の払いに当てるためにわざわざ数万円のキャッシュを青森県の銀行のATMからおろすという面倒なことをしなければならなかったのだが、寝室に常時こんな大金が置いてあるのならば、なぜ女房氏はそれを持ってくることによってわたしの手間を省いてくれなかったのであろうか? その理由も、女房しか知らないのである。〔17日の帰宅直後、女房はそこに何万円置いていたかを把握していなかった。17日夕方の被害届け額は総計2万5000円で、18日に近くの交番に追加の届けを出した。〕
 この犯人は現金以外にはまるで興味がないようであった。カードや書類や現金以外の物品などからは足がつきやすい。また路上で現行犯逮捕されたときに動かぬ証拠となって即OUTだと分かっているのであろう。絶対にアマチュアではないのである。
 次に犯人は2階に向かった。そこには兵頭氏の仕事場があった。倉庫と化している押入れの引き戸は開けっ放しであった。その中に整理用の引き出し付きクリアケースがある。犯人はまず兵頭氏の蛍光灯スタンドの自在アームを高々と上に伸ばしてスイッチを入れ、クリアケースの中をのぞき、分厚い封筒の中身を確認したが、すべて古い手紙等の束やメモ帖であって、現金は無かった。犯人は、80円切手のシートにも興味を示さなかった。またパソコンのUSBにも興味を示さなかった。
 なぜこの部屋で蛍光灯スタンドをつけるという大胆なことができたかというと、この部屋は、1階と違ってカーテンが閉められていたからである。
 この2階の部屋で犯人は、物音を立ててしまった。兵頭氏が肩たたき用に買っておいた軽量な丸木の棒を、押入れの中間の棚の縁からフローリングの上へ落下させてしまったのだ。現金にしか興味がない犯人は、兵頭氏の部屋には現金の匂いがしないと的確にも判断し、そろそろ汐時と考え、1階に降りて玄関から出て行くことにした。
 ここで犯人は、予期せぬ事態に直面した。なぜか、ドアが、玄関の内側から、開けられないのだ!
 パニクった犯人は玄関脇のトイレにかけこみ、窓のカフェカーテンを引きむしった。しかし、なぜか犯人はそこでまた考えを変更し、そのカフェカーテンとレール棒をにぎりしめたままトイレから出て、トイレのドアを閉め、玄関のタタキに立って慎重に2重ロックを操作した。〔考えを変えた理由は、犯人のガタイがデカいからだと思う。トイレの窓は、身長170センチで体重63キログラムの兵頭氏には容易にすりぬけられるサイズだが、胴まわりがもっと大きければ、ためらうであろう。〕
 じつは、この貸家は建て付けが悪いのか、玄関ドアの2重ロックの1つが、外側からは、通常の力では、かけられない。そのため兵頭氏は、しばしば、1つのロックしかかけずに外出し、今回もそうであった。〔ちなみに警察官氏によれば、このドアロックはピッキングには強いタイプだということです。〕犯人はそんな戸別事情は知らぬから、2つのロックを旋回させた。すると、1つは外れるが、1つは逆にかかってしまい、内側から玄関ドアが開かないという理解不能な状況に陥るのである。しかしベテランの犯人は、落ち着いて考えてついに真相に気付いたのであろう。
 玄関を出た犯人は、台所の窓を閉め、窓の下で踏み台にした三輪車をきちんと元の位置に戻した。ところがカフェカーテンとレール棒をトイレに戻す気にはならなかったと見え、トイレの窓の下、ごみ袋置き箱の脇に、そのカフェカーテンとレール棒を投げ捨てて、現場を立ち去った。
 さて17日夕刻に帰宅した兵頭氏は玄関のカギが開いているので変だなとは思ったが、この家には盗むような価値のある金品はないと日頃からタカをくくっていたので、空き巣にやられたと最初に気付いたのは女房氏であった。それは台所のカフェ・カーテンが横にひきよせられており、なおかつ窓近くの物品も移動させられていることから、浸入されたと感づいた次第であった。〔人から聞いた話ですが、窓を出入り口にする泥棒は、窓の周囲のゴチャゴチャした物品が嫌いなのだそうです。よって読者の皆さんには、「水の入った倒れ易く割れやすいガラスの鉢植え」などをやたらたくさん並べておくことをオススメいたします。〕
 女房氏が110番通報すると、5分か10分くらいで2人の制服警察官がやってきてくれた。またそのあとから続々と、証拠採集の警察官氏数人と刑事までがやってきてくだすったのには、恐縮した。たまたま珍しく他に事件が起きていい日だったのだろうか? わたしは「被害はお恥ずかしいような小額です。他の重大事件でお忙しいところ、申し訳ないです」という正直な気持ちをその場で伝えずにいられなかった。これは本心である。
 わたしは今の日本の警察が人手が足らず、住民のわがままもあって非常に多忙であって、現場の警察官諸氏は心身ともにヘトヘトだと聞いているから、『まあこの程度のコソ泥事件では、1人か、よくて2人の警察官氏が、かたちばかり指紋採取をして、被害届けだけを受理し、そのままお宮入りとなるのだろう。それでも有り難いと思わなくては』と覚悟していた。けれども、そんな予断は間違っていた。北海道警察のモラール(士気)は、すくなくとも函館に限れば、尋常でなく高いと実感させられた。
 なにしろ体格がすばらしい。まるで選りすぐりだ。しかも、あきらかに長年、剣道や柔道で鍛えないとこういう手にはならないだろうなという手をしている。組織文化の厳しさは、やっぱり陸上自衛隊よりはずっと上だ〔話には聞いていたが、間近で観察する機会はいままでは得られなかったのです〕。
 若い警察官氏がキッチリと被害届けを作成した。先輩の警察官氏がその書式を指導していた。「このひとたちには大学院卒並と同じくらいの月給を支払ってやってくれ。定員も最低2倍以上に増やすべきだ」と、わたしは心から願うものである。
 コソ泥がつかまりにくい理由も、今回、呑み込めた。被害者が被害に気付いたときに動転してしまい、的確に「ここを触られていますから、ここの指紋を採っておいてください」と、警察官に指示できないわけである。警察官の皆さんも忙しいから、やってきてくれるのは、まず当日の1回きりだ〔うちは例外的に18日にも2名の警察官の方をわずらわせてしまった〕。
 あなたは110番通報をしてから約10分間のあいだに、自宅の外と内側を自分で丹念に見回って、泥棒の「動線」を再現することができますか?
 ここにおいて、なぜ犯人が封筒や引き出しや、浸入した窓を元通りにして去るのかも、理解できるのである。それはふだんボーッとしている被害者が被害に気付くのを遅らせ、また、被害に気付いたときの混乱を大いに助長する効き目があるのだ。そのため、浸入盗犯が証拠をいくつか残したとしても、その証拠を警察官が確保できる率は、すこぶる悪くならざるを得ないのだ。
 今回掲載する写真は、8月16日夜に函館市美原の兵頭の留守宅に侵入し窃盗を働いた(おそらくガタイの大きな)男が残していった明瞭な靴底の跡です。これをわたしが発見したのは18日の午前で、まったくの偶然からだった。
 この靴跡は18日に警察官氏がわざわざ写真を撮影し、かつ、泥も採集してくれましたが、初回通報のときではありませんから、わたしとしては、これが捜査の資料にはならずに無駄になってしまう可能性を懸念いたします。それで、わたしが独自に撮影したフットプリントを、地域の皆さんへの警報として、公開したいと思いました。
 手際の良い犯人も、これを拭き取ることは考えなかったようです。ちなみに、なぜか室内には泥はほとんど落ちていませんでした。

(管理人 より)

自宅に入った空き巣狙いの足跡をup。それが高度情報化社会に生きる者の心意気なのである。うそだが。
そうはいっても、私は遥か大阪から、函館で絶対に許されぬ事をしでかしてしまった犯人が、捕まって懲役600年くらいになると良いなと祈っているのである。

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