AK−93

●”■×”(数字) 連載25周年記念脚本大賞 応募作品


アルバトフ
「もうじきここの『マネージャー』という肩書になる身だが、おまえにはずっと『将軍』と呼ばれたいものだな。

(アンドレイ、死体を袋に詰め終わる。)

アルバトフ
「どうだ、アンドレイ・セミューノフ元スペツナズ伍長。マフィアの用心棒として安酒と刃物沙汰にあけくれるのと、このわしの秘書として世界の武器市場に乗り出すのと、どちらがロシアの男として誇りを持てるか?」

アンドレイ
「論外の質問であります、閣下。将軍は私をみじめな監獄行きから救ってくださったばかりか、そのような将来の大きな夢までわたしに…。この感謝の気持ちを軍隊用語で表現できないのが残念でありますっ!」

アルバトフ
「ウム、わしもおまえのその若さとやる気、武器を扱う専門的技量に大いに期待しておるぞ、アンドレイ。さて、そのゴミを始末しおえたら、またすぐこの所長室に来なさい。来週、ある極東のお客様を、モスクワ空港まで迎えにいってもらわねばならんのだからな。」

アンドレイ
「かしこまりました、閣下」

アルバトフ
(袋を肩にかついで退室するアンドレイを見送った後、ウォッカをグラスに満たし、レーニンの肖像を見上げつつ)
「製品の発明者が第一に利益を得る。西側では当然のことだ。間違ってるかね?これからロシアは西欧風に変わるって話だ、同志イリイチ[※レーニン]。」(飲み干す。)

Part2:”G”を薦める男

(モスクワ市内の官庁建物の一つ。その最上階の一つの部屋で、グラスを傾けながら懇談する男2人。ひとりは細縁のメガネをかけているが若く熱血漢風のロシア人官僚ビルゼンスキーで、もう一人は初老、テンガロンハットを脇に置き、歴戦の風格のあるいかにもやり手そうなアメリカ南部の石油企業家、マクレーガー。)

ビルゼンスキー
「今日は既に調印済みの予備契約書に添えて欲しいとお申し越しの、『大統領念書』の浄書作成が間に合ってホッとしております。これはまったく異例のことでして…」(と、”ボリス・メリツィン”とオートグラフサインのある念書を手渡す。)
「これでトランス・ウラルの政令第2257〜2261鉱区に関する原油の開発権および採掘利用権は貴社単独のものとして向こう99年間絶対確実に保証されましたから、すぐにでもどんどんボーリング調査を着手していただいてよい訳です、マクレーガーさん」

マクレーガー
「おっとっと、大深度ボーリングをそんな気軽なものとお考え戴いてはこまりますな。むやみやたらに孔を開けて試してみる、お宅流のやり方でいったら、アメリカのどんな石油会社でも資金が持ちませんよ。ワハハハ…」(と、1杯あける)
「…資源探査衛星と我が社独自の解析ソフトによって、アラビアンナイト級の原油が出る場所の見当は絞り込んであるのです。あとはしばらく開始の時期を見ようと思うのですよ」

ビルゼンスキー
(驚いて)
「なんと、それでは貴社はすぐには開発を始められぬと仰るのですか?───なぜ?」

マクレーガー
(また注いで)
「それはあんたがたロシア人がよく御存知だ。相棒[←ルビ=”パートナー”]。
トランス・ウラル鉱区は少数民族の自治区と境界が微妙に入り組んでいる。
現地、そしてお国全体の政情の安定化を、この目とこの肌で確かめてから高価なボーリング資材を搬入せねば、ちょっとした、リスクが懸念されるでしょう。しかしまた、その地域的リスクが西側に広く認知されているおかげで、このような有利な契約も得られた訳だが…」

ビルゼンスキー
(気色ばんで)
「しかし、当該地域の安定も我が大統領が断固保証いたしますぞ!」

マクレーガー
(また飲んで)
「さて、その大統領ご自身の安定もどんなもんですかな。お若い書記官。」
(ニヤリと笑う)


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