AK−93

●”■×”(数字) 連載25周年記念脚本大賞 応募作品


マクレーガー
(まったく感情を表さずに目をとじて)
「君も新進官僚としてこれから一国の国策に深く参画するようになれば、いやでも”G”の実在を思い知ることになる。そして、君の疑問に対する答えは、2つあると思う。まずこの世界で常に誰かが”G”を必要とし続けていること。
もうひとつは”G”という男の性格・信条にあるに違いないが、これは本人以外には誰にもわからぬこと…。」

ビルゼンスキー
「…」
(やや真顔になってマクレーガーに注目する)

マクレーガー
「そのデータの末尾に添えられた調査官のコメントは示唆的だったよ。いわく、『武装した複数の射撃のプロと正面から撃ち合うこともある、ファイター型のテロリスト…』」

ビルゼンスキー
「ファイター型のテロリスト…???」

マクレーガー
「わからんかね、その最後のセンテンスに”G”の捉え難い正確の一部が捉えられているかもしれない。…近距離でこちらの弾が当たる状況では、同じに相手の弾も当り得る。それは君、自分の命をかける五分五分の運試しをしているようなものだよ。職業的な暗殺者がそんな割に合わないリスクを繰返して冒す理由は…。」

ビルゼンスキー
「お、おっしゃるとおりのそんな男が実在するとしたら、たぶん、きっと、そいつは生まれつきのテロリストかアナーキスト・・・」

マクレーガー
「…かもしれん、あるいは我々の想像を絶する事情があるのかもしれん。もちろん”G”本人の口からその説明を聞ける日は永久にこないと思うが。」

ビルゼンスキー
(マクレーガーを指さし)
「どうやら、あ、あなたは、その魔弾の射手───●”■×”(数字)を、実際に雇ったことがあるのですね?」

マクレーガー
(大きく目を開き)
「いかにも。”G”は、その後苦心の末コンタクト方法をつきとめた私の目の前に実際に現れたし、今もどこかに居るのだ。そして、わしが、彼の口座に50万ドルを振り込んだ7日後、誰も射点のわからない一発の銃弾が発射され、わしに磁気テープをプレゼントしてくれた男の眉間に命中した。その結果わしは一人の友人を失ったが、当時中堅だった我社はライバル企業連合のTOB[※株式公開買付け]とマーガー[※乗っ取り]から生き延びることがで、今日までの躍進が可能になった。」

ビルゼンスキー
「…そ、そしてあなたは、わたしたちロシアの新官僚にも、はやく”G”のようなカードを切れるようになれ…と。」

マクレーガー
(うなづきながら立ち上がって、テンガロンハットを被る。もう普通の顔で。)
「知っとる筈だ。一体ポリティクスとは何だ?君たちが使わなければ、この地上のどこかにいる”敵”が使うかもしれん。しかし君たちが先手、先手をとって必要なカードをうまく切っていけば、この国のカントリーリスクは低減し、西側の投資も増えるかもしれんよ。」
(念書の入った鞄を取り、握手の手を差し出す)

ビルゼンスキー
(両手で握り返しつつ)
「貴重なお話の趣旨はオヤジ、いや、ロシア共和国大統領メリツィンに、この私から確実に伝達しておきます。」

マクレーガー
(ドアに向かい歩きながら振り返り、渋くウィンクして)
「今後も世話になるからな、相棒[←ルビ=”パートナー”]」

(マクレーガーが出て行ったあと、ビルゼンスキーは眼鏡を外し、片手の2本の指で目蓋の上を圧してうなだれ、深く考え込む様子。やがて顔をあげ手を降ろしたビルゼンスキーは、口に不敵な笑みをたたえ、目が妖しく光っている。)

ビルゼンスキー
「ミスター・マクレーガー、あなたは本当にすばらしい解決策を示して下さいましたよ!」


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