AK−93
●”■×”(数字) 連載25周年記念脚本大賞 応募作品
Part 3:モスクワの一夜
(モスクワ市内、ほとんど外国人が利用する、とある四星ホテル。ロビーでたむろしている、西側基準でも良い身なりをした娼婦たち。その一人が、ホテルの入口をはいってきたアンドレイを見かけて驚く。)
娼婦A
「アンドレイ、あんた、大丈夫?ユーリーを刺しちまって警察に追われてるんじゃ…」
アンドレイ
「その件なら済んださ。もう大手を振って歩ける。それより…」
(中にいるか、と尋ねるサイン)
娼婦A
「ナターリアなら昨日から、ある日本人の男に”買い切り”だよ」
アンドレイ
「日本人…?」
娼婦A
「氷のような目をした男さ。アンタが来てるってことは、わたしから部屋に電話で伝えておいてあげるから、表の露店で一杯ひっかけて待ってれば?」
アンドレイ
「そうか…たのむ」
(回転ドアからホテルの外に出る)
(ホテルの一室。●”■×”とホテル娼婦ナターリアがベッドで同衾中。)
ナターリア(髪はブルネットである。ベッドサイドに腰掛け、100ドル札を20枚以上も数えている。)「合い金はコンドームなしだと絶対しないんだけど、半日でこれだけいただいちゃあね。…ねぇ、日本人はよく金髪の娘を選ぶんだけどさ。アンタがわざわざ私を指名してきたのはどういう訳?常連さんでもないのにさ。アンタはじめて見る顔だもん」
●”■×”
(葉巻でひと呼吸をいて。)
「英語はどこで習った…」
ナターリア
(マルボロを一本吸い始める。)
「アレの関係のセリフはアメリカ製ビデオみて覚えるのよ。さもなきゃ、お客が何をしてもらいたいのか理解できないじゃない?」
●”■×”
「…」
ナターリア
(フーッと煙を吐き出して。)
「でも、モスクワ大学を出てなきゃ、こんなに流暢に話せないのはたしかね。ロシア人の90%は、どんな外国語もダメ。ほんの1割の特別な人間だけが、直接言葉で外国との接点を持てるのよ。」
●”■×”
「おまえはチャリヤビンスクのはずれの生まれだと、他の”レディ”から聞いた」
ナターリア(驚き)
「あんた、ロシア語も話せたの?」
●”■×”
「1年半前、おまえは同郷で遠縁のある少将のコネでモスクワ移住に成功したのだったな…」
ナターリア
(真剣な表情になり)
「ちょっと…」
●”■×”
「おまえが21年間暮らした”田舎”について聞きたいことがある。
できれば、おまえのアパートでがいい
(さらにドルの札束をベッドの上に投げ出す)
ナターリア(札束を凝視したまま)
「話だけ…?」
(電話が鳴る。)
(アンドレイが春の夜の寒空の下、ホテルの出口の路上に立って震えて待っていると、
ナターリアが●”■×”(数字)と腕を組んで出てくる。)
アンドレイ
「ナターリア、俺だよ!」
ナターリア
「聞き分けのない人ね。電話でいったように、この上客と”ビジネス”の最中だってことがわからないの?」
(と、通りすぎようとする)