AK−93

●”■×”(数字) 連載25周年記念脚本大賞 応募作品



「まったく・・・。私もとうとうその売買を商売にするまでになりまして・・・」

アルバトフ
「お国の台湾にはまだ視察に出掛けたことはありませんが、
ここにあるような多種多様の各国の武器のコピー販売が繁盛しているそうですな」


「これは手厳しい(苦笑)しかし私どもは外国製のデッドコピーではなく、独自の改良を加えて生産しております。イスラエル軍制式のガリル・ライフルだって、ソ連のAK−47[※戦後東側軍隊の主力自動小銃]の倒錯のようなものですが、そのことを道徳的に非難することはできない。優れた武器だからこそ模倣されるのです。」

アルバトフ(うなづきながら、ある銃を手にとり)
「これを、むろん御存知でしょうな。」


「ペンタゴンがテストしながら採用しなかった試作自動小銃、AR−10ですね。」

アルバトフ
「作用。結局制式となったM−16の前身なのに、作動は初期量産型のM−16よりずっと確実。しかもM−16の5.56mmより重さのある7.62mm弾を発射する。弾頭が重いと、横風の影響が少なくなり、より狙撃に適する・・・。
他人事ながら、私は米軍はこちらを採用してもよかったのでは、と思っています。どうです、あなたの御意見は?」


「台湾国軍の小銃もM−16なので私も個人的に改良の研究をしたことがありますが、施条のツイストをきつくし、弾芯に比重の大なタングステン合金を使って重くし、装薬の粒形を特別なものに変えたりして念入りな改造をほどこせば、携行性と連射性も備えた狙撃銃にカスタムできることが判明しています。もっともそんなぜいたくな改造をしたら、調達単価が重機関銃を上回ってしまい、軍用小銃にはなりませんがね。」

アルバトフ(AR−10を元にもどし)
「軍隊は常に予算不如意ですからな・・・」


「それにわたしが歩兵ならば、やはりすこしでも軽い火気を選ぶでしょう。これは陸軍経験者なら誰でも同意すると思われますが・・・」

アルバトフ
「左様。小火器の軽量化と遠射性能・・・この矛盾・背反するスペックを両立させることができれば、歩兵戦術の革命になりましょうな」


「しかし最近、遂に一人の天才武器設計家がそれを実現したらしい・・・と、伝え聞いております」

アルバトフ
「やはり今回の購入希望リストの筆頭はそれですか」


「そうです。私の真の目的は、その噂の確認と、ライセンス契約の可能性を探ること・・・。・・・さあ、もうそろそろいいでしょう。拝見させてもらえませんか。今世紀最後の小火器の革命とまでささやかれているあなたの”AK−93”の実物を!」

アルバトフ
「AK・・・93・・・。ほう。西側にもそう伝わっているのですか。これは面白い。」(笑)


「何がおかしいのです、少将?」

アルバトフ
「よろしい。私も我が社の新製品を、世界に販売網を持っているあなたに取り扱っていただければ、願ったりかなったりというものです。これからシューティングレンジに出掛け、そのAK−93の試射をお目にかけましょう。」

黄(喜色をたたえて)
「本当ですか?」



(荒野のシューティングレンジ。標的との間は谷になっている。アルバトフ、黄、アンドレイの3人が立っている。かたわらにランドクルーザーが駐車している。)

アルバトフ
「この谷越しの特設試射場は最低レンジが900mで、しかも今の時刻、弾道コースの途中には常に横向きの谷風が強く巻いています」

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