AK−93

●”■×”(数字) 連載25周年記念脚本大賞 応募作品


PART 5:中央と地方の確執


(夜の野外。駐車したランドクルーザーのそばで立ち話ししているアルバトフとアンドレイ。近くの地面に大スコップが突き立てられている。)

アルバトフ
「・・・話はわかった。ご苦労。荷物を降ろせ」

(アンドレイ、後席から大きな袋を地面に投げ落す。袋の口紐を解くアルバトフ。額を撃射ち抜かれて死んでいる男の顔が出てくる。)

アルバトフ
「これでわがAK−93の人体実験も見せてもらった・・・」

アンドレイ
「もうしわけありません、将軍。小型通信機のようなものでどこかと交信していたので、捕獲の余裕は無いと判断し・・・」

アルバトフ(死体の荷物であったスパイ用カメラからフィルムを引出しつつ)
「それでよかったのだ、アンドレイ。こやつは中央の放った密偵に違いない。あのクレムリンの飲んだくれどもは、わしのしようとしているような大がかりなビジネスが気に入らんのだ。だがわれわれはこうして、モスクワの官僚システムの干渉を断固排する意思を示したのだ」(と、死体袋を掘られたばかりの穴のなかに蹴落とす。中には冒頭シーンで殺されたグレチコ大佐の死体袋もある。そこに折り重なる新しい死体袋。)「宣戦布告だ。」

アンドレイ
「これからどうしたらいいですか」

アルバトフ
「この密偵のようなやつが表れたら今日のように始末しろ。モスクワはこの二人の消息を探るためにまた新しい犬を放つだろうからな」

アンドレイ
「ハイッ!」

アルバトフ
「では研究所に戻ろう、(車に乗り込む。)明日の朝、町のホテルにあのチビのタイワンスキーを迎えに行ってきてもらうが、ついでに、例の少数民族運動の中心人物にも伝言してきて欲しいのだ。わしが会って話したいことがある、とな」

アンドレイ
「最近独立運動のデモを過激化させている、あの連中のリーダーにですか?」

アルバトフ
「そうだ、彼らを利用して、モスクワにわしの力を思い知らせてやろうと思って菜。連中にも特になるビジネスの話だ、と切り出すんだ」

アンドレイ
「かしこまりました」

(車、走り去る)



(モスクワのロシア共和国政庁。メリツィン大統領と少数の閣僚が机を囲んでなにやら鳩首協議している。テレビではトランス・ウラル地方の武器使用デモを実況中継している。ビルゼンスキー入室。)



ビルゼンスキー
「遅れて申し訳ございません、大統領閣下」

メリツィン(顔だけドアの方に向けて)
「ビルゼンスキー君、どうしたらよかろう、また私に深酒を強いるようなニュースが増えたよ」

ビルゼンスキー
「えっ・・・?」

閣僚A
(ビルゼンスキーに向って)
「トランス・ウラルの少数民族自治区に、大量の最新武器を用いた反乱暴動の兆しが見えるのだ。最近民間企業に転換した一兵器開発局が裏で後援している気配が濃厚だよ」

閣僚B
「あのいまいましいタタール人やエスキモーどもがまた何かの騒ぎを起こせば、君がせっかくとりまとめたアメリカの石油会社による大規模開発も先送りになる。そうなれば先行出資しているアメリカ人がうるさく君を問責し、君は困った立場に立たされるかもしれんぞ」

閣僚A
「それに近くの軍需コムプレクスが騒動に巻き込まれて操業停止に追い込まれたりすれば、我が国はますます諸列強から侮りを受け、赤軍の政府への信頼も揺らぐのは必定!」

(この間、ビルゼンスキーは終始青い顔で。)

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