●”■×”(数字)  『13番目の陪審員』

没シナリオ大全集 part 4


Part 2:事件


○拘置所から裁判所に向かう護送車の中
 裁判用の身奇麗なスーツを着用、車内で揺られている○”■△”
 ○”■△”、逮捕に至るまでの経緯を振り返る。

○依頼の場・回想
 ゴア副大統領に良く似たゴームレー副大統領が、○”■△”を前に密室で仕事の依頼中。

○”■△”「俺を動かすリスクを冒すほどの件とは?ゴームレー副大統領」

ゴームレー「私は学生時代から車よりもコンピュータに興味があった。そして将来メディアの革命について構想を練ってきた」

○”■△”「…」

ゴームレー「そしていま権力の地位に就き、誰がそのためのキー・パースンかもよく見えている(写真を二枚出す)」

○”■△”「…」

ゴームレー「ナッシュビルのオプタクメ社長ドハティと、日本のフジヤマ電研の社長だ」

○”■△”「デジタル画像の信号圧縮技術で凌ぎを削っているライバル同士だな」

ゴームレー「そうだ。特にフジヤマは、郵政省や業界合意に背くようなリーダーシップをも敢えて取れる男だ。もし彼の会社がオプタクメの走査線規格で双方向デジタルTVを共同開発してくれれば、世界を今後十年、米国特許の植民地にできる。…その時大統領になるのが私だ!」

○”■△”「日米は将来テレビの走査線数では意見を異にしているようだが…?」

ゴームレー「ところが、フジヤマはこれを見て納得してくれた」

 と、ゴームレー、壁に近付き、何やらコントロールパネルをいじくる。
 すると、壁面に二つの画面が現われる。
 一方は普通のテレビの縦横比、もうひとつはハイビジョン画面のブラウン管で、同じ映像でも鮮明さが歴然と異なっているのが示される。

ゴームレー「米国現行のNTSC画面と走査線1125本のNHK規格の画像だ。確かに日本方式は印象的だが…」

 ゴームレー、壁のパネルのもうひとつのスイッチを入れる。
 すると、ハイビジョン画面の隣りに、それと大きさの等しいもうひとつの横長画面が現われる。
 それは、奥の映写室から、70ミリ映画フィルムの動画をハイビジョンテレビのサイズに小さく映写したもので、隣りのハイビジョンより数段鮮明な映像である。

ゴームレー「どうだい!映画用の70ミリフィルムをテレビサイズに投影してみると、まるで映像というよりは実物がそこにあるようだろう」

 ○”■△”、三つの画面を見比べている。

ゴームレー「…つまりだ。たとえ走査線を三倍四倍に増やそうが、所詮テレビは光学フィルムの再現力に及ばないのだ。だったら少ない走査線数で妥協し、早くデジタル化を図った方が利口ってものだよ」

○”■△”「より少ない走査線のオプタクメ規格が米国デジタルTVの標準規格になれば、オプタクメが出しているあんたの選挙資金も、以後は天井無しだな」

ゴームレー「…しらけさせるな。デジタル・メディアこそアメリカ最後のフロンティアだといいたいのだ」

○”■△”「フジヤマはそれで納得したのか」

ゴームレー「ああ。あとは○月×日のオプタクメ本社での調印を待つばかりだ。ところが…」

 ゴームレー、○”■△”に封筒入の紙片を示す。
 紙片には活字の切り貼りで“○月×日 I will shock you all”としたためてある。

○”■△”「脅しか?」

ゴームレー「(かぶりを振って)部外未公表の日付を知ってるんだ、明白なテロの予告だよ」

○”■△”「差出人の目星は?」

ゴームレー「私の“メディア・フロンティア構想”をねたむすべての勢力が疑われる。…白昼堂々プレスの前でフジヤマが負傷でもしてみたまえ。もう国内の非難を受けてまで我々に協調しようとする日本メーカーなど現われまい」

○”■△”「この紙片を預かりたいが…」

ゴームレー「そ、それでは…調印式をガードしてくれるのだなっ、○”■△”(数字)!?」

○元の裁判所行きの護送車の中・現実
 ○”■△”は護送車の中で相変わらずガタゴト揺られている。
 ○”■△”、再び回想の続きにふける。

○合意書調印式の式場・○”■△”の回想
 ナッシュビル市郊外のオプトエレクトロニクスメーカー、オプタクメ社本社ビル。
 付近にはこのビルに相当する高層ビルはない。
 ビルの横手には駐車場がある。
 “OPTACME”の巨大表札のある正門をくぐって、黒塗りの高級車が続々と一階入口車寄せに参集している。
 そのビルの最上階の窓のアップ。
 大会議室が調印式の会場に変えられていて、関係者がひしめいている。
 壇上では、すでにオプタクメ社長のドハティ(48)とフジヤマ社長(51)がヒナ壇に着席しており、プレスを前にドハティが合意文書を読み上げている。
 フジヤマは、同時通訳用のヘッドフォンを装着している。

ドハティ「…ここにオプタクメ社とフジヤマ電研の両社は、デジタル画像圧縮特許に関する相互の提訴を取り下げるとともに…」

 プレスのカメラマンに扮した○”■△”、デカ玉レンズで場内をくまなく見渡している。

○”■△”『怪しい素振りの人物は見当たらない。…テロがあるとすれば、仕掛け爆弾か…』

 ○”■△”、大口径望遠レンズで、フジヤマの椅子の脚、マイク、同時通訳用ヘッドフォンなどを、一つ一つなめるように観察する。

○”■△”『(レンズで上記物体の表面を拡大しながら)人体に密着して爆発させれば微量の火薬でも殺傷力を発揮する…』

ドハティ「…オプタクメ規格の双方向デジタルTVを数年以内に共同開発することで合意した」

 ドハティとフジヤマ社長、立ち上がって握手する。
 関係者、拍手し、カメラのストロボが焚かれる。
 ドハティ、莞爾として合意文書をフジヤマに手渡す。

ドハティ「(秘書からペンの入った箱を受け取り)…では歴史的サインは“メディア・フロンティア”構想の提唱者であるゴームレー副大統領から贈られたこのペンで…」

 ドハティ、紙箱を破ってペンを取り出す。
 ○”■△”の望遠レンズ、そのペンに焦点を合わせる。

○”■△”『キャップの接合部に火薬粉…!』

 ドハティ、フジヤマに渡す前にペンのキャップを外そうとする。
 そこに銃弾が飛来、ドハティの手にしたペンを真ん中から折り飛ばす。
 飛び散ったペンの破片、空中で花火のように火を吹き出す。

ドハティ「うわーっち…!」

フジヤマ「(唖然として)…!」

声1「テロだ!」

声2「ペンに火薬が仕掛けられていた!」

声3「狙撃者もいたようだぞ!」

 会場騒然。
 ○”■△”、一番離れた壁際の置物の陰で発射したサイレンサー付チーフスを懐のホルスターにしまいながら素早く会場全体を一瞥。

○”■△”『不自然な表情の列席者はいない…。ホシは現われなかったか…』

 ○”■△”、騒ぎに紛れ、会議室を出る。

ドハティ「皆さん落ちついて!このような妨害があろうと、調印は予定通り行なわれます!」

○ビルの非常階段
 ○”■△”、ビル内の非常階段を降り行く。

○ビルの外
 ○”■△”、通用出口を開け、地上に出る。

○”■△”「…!」

 周り中パトカーと警官である。
 最前列のパトカーからシェリフのバーナードが降りて警官達に指示を飛ばしている。

バーナード「いいか、犯人はプロのテロリストだ。機先を制して射殺しろ!生け捕りにしようなんて思うなよ!」

○”■△”『このリスポンスタイムは…早すぎる』

 ○”■△”、姿勢を低くして駐車場へ向かう。

○”■△”「…!」

 ○”■△”、遠くの物陰に隠れてこの模様をこわごわ見ている30代後半の若ハゲの男(十三番目の陪審員となる男)がいるのに気付く。
 しかし警官が歩いてきたので急いで用意してあったマスタングに乗り込み、駐車場の出口へ。
 一警官、これに気付く。

警官1「おい、誰もこの敷地内からは出られんぞ!」

 ○”■△”、急加速して二台のパトカーの間をぶつけて突破する。

警官1「(マスタングを指さして走り来たりながら)バーナード保安官、見ました!事前情報通りの怪しいカメラマンが乗ってます!」

バーナード「表口から堂々とか!よし、全員おれに続け!」

 脇道も、隠れる地物もないテネシー州のインターステイトハイウェイで、冒頭シーンのチェイスが始まる。
 運転している○”■△”の顔から護送中の○”■△”の顔にOLし、○”■△”の回想終る。

○護送車の中・現実時間
 キキーッという音がして、車が停まる。

護送の看守「ついたぞ。テネシー州地区裁判所だ」

 後部ドアが開けられると、そこはナッシュビル市内にある地区裁判所正面口の石段で、弁護士のサラが待ち受けている。

サラ「(○”■△”のスーツ姿を見て)その格好もイカすわね、ジョン・ドーさん。弁護費用の前払い分は確かにチェックで引き落としたわ」

Part 3

戻る