●”■×”(数字)  『フォール・ライン』

没シナリオ大全集 part 4.6


プロット


○フォール・ライン

 早春のカラコルム山脈の深い谷に、ビジネスジェット機が不時着した。
 機内にいた南洋化工建設の部長がラップトップに報告書を打ち込んでいたため、その電磁ノイズで操舵コンピュータが狂ったのだ。
 部長はひとり奇跡的に助かり、自力で下山しようとしたが、谷筋をそのまま下ろうとして、途中で餓死したものと判断された。
 東京の本社は青くなった。
 実は湾岸からカシミール経由で中国の黄海の積み出し港まで天然ガスパイプラインを引くという今世紀最大のUNIDO(国連工業開発機構)の事業を、南洋化工では狙っていたのだ。
 部長はその現地調査の帰りに事故にあったのだが、部長のラップトップには、この計画の細部見積りが既に入力されていた。
 もしこの見積りが沿線各国や融資元の世銀に知られれば、工事請負価格との巨額の格差が明らかになり、一千億円以上の損失が予想される。共同事業者の現地政治家などのバックリベートもフイになる。いや、すでに事業予備費や調査費用を注ぎ込んでいる会社は、そうなったら倒産を免れないのだ。
 役員会から、ラップトップ破壊の厳命を受けた同プロジェクト担当専務は、日本から沢登りのベテランを選び抜き、カシミールの学術調査の名目でパキスタンに派遣した。
 パイプラインはパキスタン領を通り、中国の海岸地帯まで達するものだが、墜落地点は、人跡未踏の谷だが、インドが強く領有を主張する地域の辺縁にあたる。あくまで秘密裡に捜索しなくてはならないことと、領土係争地に近いので、ヘリコプターは使えないからだ。
 一行三人は、現地でガイドと合流、インダス河をゴムボートで溯行、そこから徒歩での沢登りに移った。その一行の中には、カラチで沖仲仕をしていたという男−−○”×▲”も、シェルパとして雇われていた。
 沢登りというのは、日本で特異的に発達したお家芸である。沢は必ず里に通じているが、地形的には滝やガレ、ゴーロ、ヤブなどの連続で、ワラジを履いて水中を歩き、シャワー・クライムや滝壷泳ぎ、しばしばロッククライミングを繰り返さねばならない。専門のプロだけが可能な登攀技術なのだ。
 残雪も残る人跡未踏の谷に入渓した一行は、『クリフハンガー』のように、数々の技術を見せて難所を越えていく。ところが、目的地に近付くにつれ、事故が起きるようになった。ザイル切れ、雪洞の崩落、急流に流されるなどのアクシデントが続き、とうとう目的地を目前にして、先頭のガイドと、最後尾をついてきたシェルパの○”×▲”だけになってしまう。
 そして二人は遂に部長の死体とラップトップを発見する。
 その時、突如、ガイドが○”×▲”を殺そうと…!
 実はこのガイドこそが、専務の密命を受けていたのである。難所を過ぎて用済みになった沢登りのプロ達を、彼は秘密保持のために次々と抹殺していたのだ。
 ○”×▲”はガイドと決闘の末、倒す。
 ところで何ゆえに○”×▲”はここにいるのか。彼を雇ったのはだれか?
 実は、このパイプライン計画のために日本の資金が使われてしまうことと、マレーシア海峡の重要性が低下してしまうのを恐れたアセアンが、共同で○”×▲”を雇ったのであった…。
 やや詳しく書くと……
 「山の素人は、下山しようとして沢筋に降りる。しかしそれこそ自殺行為。確かに沢は里まで通じているが、断崖、激流、滝など難所が連続し、途中で進退極まって餓死を迎えるのがオチなのです」
 中印両国に知られずに近付く方法は、最も危険な“沢のぼり”によるしかない。
 それも春先の最悪のコンディションの中をだ。
 かくして日本から“沢のぼり”のプロ数人が、送り込まれた。
 その中には、現地のガイドと、カラチの沖仲仕を名乗るシェルパ、○”×▲”も混じっていた。「ガキの頃はよく海岸の岩場で鳥の卵を取ったもんだよ」
 パーティは難所を乗り越えて目標に近付く。
 しかし、目的に近付くにつれ、一人、また一人と謎の犠牲者が…。
 雪トンネルが落ちてきたり、転落したり…。
 実は、グループの一名は、秘密保持のため、ガイドらも殺せと指示されていたのだ。
 しかしそいつは逆にガイドに殺されてしまった。
 「とうとう二人だけになっちまったな」
 遂に雪渓の上で死体発見。
 「○○○というのは俺だよ」
 ガイドの口から恐るべき陰謀が語られ、ガイドは○”×▲”を殺そうとする。
 ガイドはアイゼンを付けているが、○”×▲”は鞋履きなので足元が滑って不利。
 しかし○”×▲”は岩の影から登山靴だけ見えているガイドのアイゼンのかかとの金具を一本折り、ガイドを滑落死させる。


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