●”■×”(数字)  『EXTRACTION(エキストラクション)』

没シナリオ大全集 part 4.8


Part 2:世界を変える液体


○マサチューセッツの港町、リン市

ネーム『−−マサチューセッツ州、リン市−−』

○バイオクラット社・研究所
 港町リン市の郊外にある超近代的建物。
 “BIO−CRAT Lab.”の看板あり、庭には白衣の研究員が往来している。

○同建物の中の一研究室
 チェーレンの研究所とは大違いの、倉庫のように高い天井のスペースに大型試験装置や測定装置が林立している。
 その一角で洗濯屋の業務用脱水機のような遠心分離器が、うなりを上げている。
 うなりが止み、若い研究員aが蓋を開けて一本の試験官を取り出し、指先ほどの沈殿物と上澄みに別れている液体を光に透かして見る。
 三人の研究員がいるが、いずれも痩せ細っているか、背が低く、ヒッピー風の者もいる。

研究員a(26)「間違いありません。“タシュティギン”です」

研究員b(30)「これを二万単位も皮下へ擦り込まれたんじゃ、ひとたまりもなかったですね、主任」

研究主任(36)「毒と薬はいつも紙一重さ。…ニオイ分析は?」

研究員a「バイオセンサーで、魚臭との一致ピークがあります」

研究員b「それじゃノルウェー・チームは歯鯨の脳も…?」

研究主任「当然だ。自国のミンクだけでなく、アイスランドからナガスとイワシ、台湾からはマッコウを集めて調べている。我々が米国法に従う限り、とても追い付けん」

 バタン。
 いっせいに振り向く。
 デブの研究所長(44)が、タフガイ然としたベドフォード上院議員(47)を伴ってズカズカ入ってくる。

研究主任「これは研究所長、いま報告に上がろ…」

研究所長「(遮るように)研究主任、ジョンソンの傷口からエキストラクション(抽出液)は分離できたか?」

主任「たった今」

所長「すべてストックに加えるんだ。一滴もおろそかにするな!」

主任「分っております」

研究員a「(小声で)チッ、上院議員のたいこもちが…!」

所長「諸君にベドフォード議員からお話がある」

 ベドフォード上院議員が勿体ぶった様子で三人の前に進み出る。

ベド「…いよいよわがアメリカは国家プロジェクトとして調査捕鯨に乗り出す!」

 驚く顔の三人。

主任「それじゃ大統領は遂に…!?」

ベドフォード「次のIWC総会に自ら乗り込み、米国が世界の海洋資源の管理人となることを宣言する。その真の理由はここにいる者だけが知っている」

研究員b「タシュティギンを米国がすべて掌握するため…」

ベドフォード「そうだ。捕鯨は米海軍により一元的に行なわれ、ノルウェー、ロシア、日本、ブラジルなどの捕鯨船は見付け次第に拿捕・撃沈されるであろう!」

研究員a『…喜ぶのは軍縮不況にあえぐベドフォードの地元造船所だけだ…』

ベドフォード「既に戦いは始まっている。CIA職員L・A・ジョンソンはノルウェーの研究水準を捜査中、貴い犠牲の第一号となった」

 三人、先ほど遠心分離器から取り出した試験管を見る。

ベドフォード「そこでだ。…今から君達も軍の保護下に入ってもらいたい。…所長」

 ドアから防弾装備に身を固めた州兵の武装兵5人がワラワラと入ってきて、研究員を包囲する形に。
 ベドフォード、研究室を出ていく。

所長「これから輸送機で西海岸の海軍研究施設に移って貰う!」

研究員たち「な、なんだって!?」

所長「無名の失業研究員の諸君らを、単純な分析のためだけに高給で抱えると思っていたか?」

下士官「バスが待っている。急げ!」

 あっけにとられている三人の研究員を武装兵が連行して退場。

所長「(ベドフォードのあとを走って追いかけ)あ、上院議員、すぐ車を出します…!」

Part 3

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