●”■×”(数字)  『地殻への登攀』

没シナリオ大全集 Part 5.5


Part 2:ミッション深度1000


(ヘリコプターの後部座席。ナッソー老人が耐圧型ドライスーツを拡げて、向かい席の●”■×”に説明している。)

ナッソー老人
「これは水圧をダイバーの体に伝えない耐圧ドライスーツだ。従来のアクアラングシステムと違い、深度に応じた送気の加圧が不要だから潜水病の心配もなく、誰でも数百メートルの海底の散歩を楽しめる。最初の発明者の名をとってジムスーツという。」

●”■×”
「何気圧まで使える?」

ナッソー老人
「わが社の改良型の安全範囲は800気圧だ。しかし実験では1200気圧まで持ちこたえている。“ツナミ7000”が着底しているのは深さ950から1000メートルの間だから、限度ギリギリだ。」

●”■×”
「冷却システムは付属しているか?」

ナッソー老人
「スーツに長さ900メートルの耐圧チューブを接続し、送気と同時に全身の冷却も行なえる。ただし最後の50メートルはチューブを外し、携行ボンベのみで行動しなければなるまい。」

●”■×”
「深海では太陽光線は届かないし、噴出物で光の透過も悪い。確実に遭難現場に到達できる保証は?」

ナッソー老人
「スーツに超音波同期ピンガー(発信機)と受話器がついている。上の船で相対位置をモニターし、音声によって遭難現場へ誘導する。ただし君からの送話はできない。」

●”■×”
「艇まで到達できたとして、どうやってからまった漁具を解き外す?」

ナッソー老人(ジムスーツの外装ベルトの弾嚢からごそごそと何か取り出して)
「このクリップ型のプラスチック炸薬を使ってくれ。耐水性で、どんなケーブルでも切れる筈だ。」

(●”■×”、炸薬を検分して再びジムスーツの外装ベルトにしまう。)

ナッソー老人
「漁具さえ外れれば艇は自分の浮力で上昇する。君もウエイトの入ったベルトを脱すればスーツの浮力で自然に浮上し、帰還できる。」

(●”■×”の鋭い目付きのアップ。)

(●”■×”の目。ただし、彼は既に改良ジムスーツを着用し、そのガラス越しの目である。ここは支援船“サイゴン6”の甲板上。●”■×”の周りには船の乗組員、ナッソー老人、その部下らがとりまいている。前部甲板にはシュペルピューマ大型ヘリが止まっている。太陽はすでに夕日になっている。)

(ジムスーツの手先の球のアップ。つまりドラエモンの手のように指はなく、替りに金属製のマジックハンドを球の中の手で操作するようになっている。2本指のマジックハンドの一端はピッケル状になっている。)

老人
「耐圧グローブは工作不可能なので、マジックハンドだ。深度800で崖に着底したら、あとは氷壁登山のダブル・アクス(*)の要領で前進してくれ。」

[※註:ピッケルとアイスハンマーを両手に持ち、雪の急斜面に交互に突き刺しながらカマキリのように登っていくテクニック。]

船上係員A(ジムスーツのノズルにエア・チューブを結着しながら)
「900メートル点に達したら連結環を外して下さい。自動的に内臓式ボンベに切り替わります。」

船上係員B
「潜水前全項目ダブルチェック完了!」

(●”■×”、船尾に進み出る。)

ナッソー老人(すぐ後ろにつきそいながら)
「これは深海へのアルピニズムともいうべき前人未到の挑戦だ。しかし君ならやってくれるだろう。成功を信じている!」

●”■×”
「あとは息子に、取り乱してスラスター(*)を稼働させたりしてバッテリーを無駄使いしないように言え。照明が灯らなければ発見はできんからな。」
(とびこむ。)

[※註:潜航艇を上下左右に移動させることのできるバッテリー駆動のダクト付きプロペラ。なお、深海潜航艇は前進でも最高2.5ノット前後のパワーしかない。]

Part 3

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