●”■×”(数字)  『(タイトル不明)』

没シナリオ大全集 Part 5.6


Part 3:ブレイン・サージェリーの術式


(夕方の英国サンドハースト陸軍士官学校。兵士のラッパ吹奏とともにユニオンジャックが掲揚塔から降ろされ、儀式的に仕舞い込まれる。国旗に敬礼していた将兵たちが解散し、三々五々兵舎に戻って行く。その営庭の一隅に、レントゲン診断車が駐車している。車の前には警衛の若い兵士が一名武器を控え銃にして立哨している。兵舎のコーナーを曲がって制服の少佐が、軍用セーター姿でM-16入りの黒いキャリングケースを下げた●”■×”を案内しながら現われる。)

少佐
「説明はあのレントゲン診断車の中で、武器教導隊のパイル中尉が行ないます。MI-5出向から戻ったばかりの王立兵器廠の逸材ですよ。では私はこれにて帰ります。」
(イギリス式の挙手の敬礼をし、立ち去る。)

(●”■×”、レントゲン診断車に向かう。歩哨が銃礼する。●”■×”、診断車に乗り込む。内部に椅子に腰掛けた人影。かろうじて眼鏡をかけているのが分かる程度。車内に上がりこんだ●”■×”は、持っていた鞄を体の前で抱えるようにしてその人影に向き合う。)

パイル中尉
「おや、防弾材でしつらえたガンケース…しかも拳銃抜き出しポケット付きとお見受けしました。噂通りの人物ですね、●”■×”(数字)。」
(回転椅子の向きが変わるとライトがパイル中尉の全身と顔を包む。中尉はキビシイ顔つきの若い女性士官であることが分かる。)

●”■×”(鞄を体前に持した用心の姿勢は変えず)
「この車もただのレントゲン診断車ではないな。大馬力のトレーラートラクターを改造し、装甲用鋼板で完全に覆っている。」

パイル中尉(立ち上がって)
「フフフ…。いかにもこれは移動小火器試験装置。かつまたあなたをグロス=ネット・サービス社電算機センターへ送り届ける特急バス。(前部操縦席に)…アンディ!」

インターホンからのドライバーの声
「イエスマム!」

(入口が遠隔操作で閉じられ、レントゲン診断車はエンジンを吹かすや、立哨していた兵卒が見送るなか、走り出す。)

(パイル中尉の手が、M-16のフロントハンドガード下に装着できる特殊アタッチメントに電池箱のようなものを装填する。その手先のアップ越しに●”■×”の顔が見える。)

パイル中尉
「あなたのM-16用に取り付ける特殊アタッチメント。これはアイソトープのパワーサプライからパルス状X線メーザーを励起するもので、民間型のシリコンチップに照射すれば一瞬で破壊できるものよ。」

(●”■×”、装置を受け取って検分する。)

●”■×”
「メモリーチップは日本製だろうからこれで簡単に壊せるだろう。しかしメドウズ・システムズはペンタゴンにも機器を納入している軍需メーカーだ。当然…」

パイル中尉
「…心臓部は米国製の軍用CPUだってことね。そう、たしかに軍用のガリウム砒素系チップは核爆発の強力な電磁パルスや急激な温度上昇にも抗堪するわ。となると…」

(別の箱から先のアタッチメントに更に追加できる擲弾発射筒と弾薬を取りだし、作業台の上に置く。)

●”■×”
「グリネードランチャーのようだが」

パイル中尉
「擲弾の頭部にはガリウム砒素を融かす強力な溶液<←※ルビ:ソリューション>が充填されているわ。ウチの研究室では“超溶液”<←※ルビ:スーパーソリューション>と名付けたけど…」

(中尉、●”■×”に近寄り、手で彼の股間をまさぐる。)

パイル中尉
「…MI-5に統合された旧MI-6の事情通の評価では、あなたこそが国際問題のスーパー・ソリューションだそうだけど…(*)」

(※欄外註:「スーパー・ソリューション」とは本来、数学的問題に対する「鮮やかな解法」を意味する。ちなみに冷戦が終了した1992年、英国の諜報機関は整理・合理化を受けた。)

パイル中尉(さらに太股を●”■×”の腰に絡めて)
「私の中ではどんな化学変化を起こすのかしら?…あなたの“溶液”は」

●”■×”(視線を合わせず)
「…ある種の化学実験室に長く勤務した男女は、不妊または女児しか生めない体になってしまうこともあると聞く…」

パイル中尉(怒った真顔になり)
「そうよ!でも私だって普通の女性のように感じられるはずだわ。じ、実験させて、●”■×”(数字)!」

(とっぷりと日の暮れた街道をひた走るレントゲン診断車。)

(車の中ではいま1ラウンド終ったばかりの裸体の●”■×”とパイル中尉。)

パイル中尉
「か、感じたわ!こんどは私の名前を呼びながら、きて!」
(と、求める)

●”■×”
「お前の名前は」

パイル中尉
「…ダニエル」

(疾走する車。暗闇にほの見える風景は地方都市の郊外。)

(車内。女の両足が宙空でぶるぶる震えている。)

パイル中尉(声のみ)
「おおーーっ!」

(レントゲン車がゆっくりとブレーキをかけ、路の端に停止する。ここは某地方都市の中心街区、長いフェンスで囲われた敷地に面した路地だ。門構えがあり、その表札が、敷地の奥のビルがグロス=ネット・サービスLtd.の電算機センターであることを示している。)

●”■×”(車内にて既に身なりを整えて立ち、M-16を組み立てながら)
「予定どおりに到着したな」

パイル中尉(まだ床の上にしどけなく座り、周りの自分の下着をかき寄せながら)
「…初めての男で、5回もいってしまうなんて、おかしい女だと思う?」

●”■×”
「俺は自分を特別な男性とは思っていない。また…お前も含めて格別変わった女がいるとは思わん、ダニエル。」

(運転手の遠隔操作により、音をたててドアが開く。)

●”■×”(ドアの前で一瞬立ち止まり)
「発信器は外しておいた。アタッチメントは仕事が終った後、安全な方法で返送する。」

(むしり取った跡のある小さいボックスをパイル中尉の方に放り投げ、暗闇の中に走り出ていく。床をころがってきた発信器がパイル中尉の膝の前で止まる。)

パイル中尉
「…●”■×”(数字)…」

■Part 4:病人は死んだ

(同時刻のイングランド銀行本店・頭取室。蔵相、頭取、テダーその他数人の男たちが待機している。隣りの部屋から秘書風の男が飛び込んでくる。)

秘書
「“スキッパー”から連絡が入りました!2020時、“Gは往診を開始”したそうです。」

テダー
「よしっ、今から1時間、我が銀行の電算システムをダウン(停電)させ、その間に指示したモジュールをすべてフォーマット済みの新品と交換しろ!」

数人の男たち
「はいっ!」
(数手に分かれてかけだしていく)

蔵相
「大丈夫だろうね、頭取?」

頭取
「私はシステム責任者のネイサン・テダー君を信用しています、蔵相。」

(蔵相と頭取、テダーの顔を見る)

テダー(窓の外を見ながら)
『たのむぞ、●”■×”(数字)…!君の神の如き精確な手技(*)で、国家と個人の膨大な財産を蝕む電子の悪疫を取り除いてくれ!』

[※本作では、「術式」「手技」など要所要所で外科用語を使っております/作者]

(電算機センターの入口前で警備員があくびを噛み殺している。鈍い音。警備員が前のめりに倒れる。そのすぐ後ろに銃の台尻を横に構えて立っている●”■×”(数字)。●”■×”、次にドアの横のIDカード読み取り装置に、くだんのX線メーザーを遠くから照射する[近くで射つと反射した時危険である]。警報装置のインディケーターランプが消える。●”■×”がドアに近寄り、手をかけると、電子ロックが切れており、難なく手動で開いてしまう。●”■×”の後には複数の警備員が気絶して倒れている。)

[※註:メーザーは、レーザーと似た原理で、単に波長が異なるだけ。]

(イングランド銀行本店。再び秘書がとなりの部屋から血相変えて走りくる。)

秘書風の男
「グロス=ネットの内装工事をしたという者から、やっと警備システムに関する情報がとれました!」
(と、ファックスを渡す)

(テダー、ファックスを手に取る。他の2人ものぞきこむ)

テダー
「フム、高度な無人セキュリティシステムか…?(顔のアップ)なに…こ、これはっ…!」

(グロス=ネット社の無人の廊下を小走りに進む●”■×”(数字)。廊下の角からうなり音がする。●”■×”、それに気付き壁際に張り付く。音が近付く。●”■×”の驚きの表情。ショットガンのようなものを持した、小型の装甲車の形をした警備ロボットが現われる。)

ロボット(拡声器からの合成ボイスで)
「止マレ、サモナクバ射ツ」
(声と同時に車体正面の電光ボードにFREEZE!の文字が点滅する)

(●”■×”、廊下に転がりさまにM-16の5.56ミリ弾を発射。効かない。ロボットがショットガンを発射する。すごい音がして床に黒いサイコロ状のゴムペレットが飛び散る。)

●”■×”
『ゴムペレット…しかし当たれば無事では済まんやつだ!』

(●”■×”、こんどはX線メーザーを照射。ロボット、ピーという音を出しながら麻痺する。)

(あちらこちらの廊下にもこのピーという音が到達する。すると、各所に分散して警備していたロボットがそれを鳴子の合図のようにゾロゾロと蝟集してくる。)

(廊下を走り抜けようとする●”■×”。しかしいつのまにか前後左右の廊下からロボットたちに包囲され、絶体絶命のピンチ。最も近いロボットが警告ののちゴムペレットを発射。スレスレでかわしながらそのロボットの背後をとった●”■×”、“人質”ごしの射撃で捕手方を全滅させる。無数のピーという音を後に残し、更に奥の間へ向かう●”■×”。)

(テダーによる口頭説明の回想シーン。)

テダー(●”■×”に対し)
「メインコンピューターは緑色のドアの部屋だ」(回想シーン終り)

●”■×”(一つのドアに注目し)
『ここか』

(X線メーザーで電子錠を破壊、ぶ厚い金属ドアを押し開けて中に入る。なかは千畳敷の大ホールで、電算機群がアンコールワットのようにそびえている。)

(回想シーン)
テダー
「室内の機械は次の順番で“手術”してくれ。手順を間違えると自己防衛用プロセスが起動し、ウィルスに冒されたデータを他所のコンピュータに退避させてしまう。そうなったらもうおしまいだ!」

(現実シーン)

(一つの機械に狙いをつける●”■×”(数字)。そのコマに、回想のテダーの声がオーバーラップする。)
テダーの声
『まず横に長いやつだ。床に近いところに黒い制御器が等間隔で付属している。それを片端からX線メーザーで麻痺させる。ただし間を1秒以上おいてはいかん。』

(●”■×”、その通りに射撃。)

テダーの声
『これで全メモリーの約半分に対して、狂った制御器が白紙フォーマット命令を無限に繰返す。どんなウィルスもフォーマットをかけられた直後は存在できない。(機械のインディケーターランプが癲癇を起こしたように点滅。)その間に、大きな机と一体になったようなミニコンを探す』

(●”■×”、それに銃を向ける)

テダーの声
『モジュール交換パネルが並んでいるが、ひとつだけサイズの違うものがある。それにたっぷりとX線メーザーを照射してやる』

(●”■×”、その通りに実行。)

テダーの声
『これでメインコンピューターの9割がダウンし、外部へのデータ転送はしばらくできなくなる』

(部屋の中央に屏風のように並んだスーパーコンピュータ…有り体に言うとクレイ・リサーチの形…がある。その辺りを払うような雰囲気からメインコンピューターであることが分かる。その周辺部からランプが消えていく。)

テダーの声
『インディケータランプが消えずに残っている部分が、中枢制御装置だ。そこは米国製軍用CPUが使われており、日本製チップのように電磁パルスでは壊れない。スーパーソリューションを撃ち込め。それで君の仕事は終る。』

(●”■×”、擲弾の発射準備をする。とその時、一箇所だけ生き残っている中枢制御部分がウィーンとうなり出す。更に部屋中に警報音が鳴り響く。振り向くと、先ほど押し開けたぶあつい金属製ドアが自動で閉じていく。そして、部屋の奥の方から何かガスのようなものが吹き上がり、次第に室内全体を満たそうとしている。)

●”■×”
『ネズミ捕り…!!』

(ここで1コマ解説:「電算機がネズミに配線をかじられると大きな故障につながる。そこで一部の施設ではいろいろな仕掛けを凝らしている。なお野ネズミ駆除用の殺鼠ガスは軍用神経ガスと近似成分で、鼠と器官相似のヒトにとっても有害なため、今日では使用を規制している国が多い。」)

(●”■×”、扉がしまらぬうちにと、入口に向かって走り出す。走りながら腰だめで擲弾を発射。しかし弾道がずれた。そこでM-16を発射して空中にある擲弾にチップさせ、弾道を修正して命中させる。外板に穴、内部でシューッという溶ける音。最後のインディケーターランプも消えた。●”■×”、鼻と口を押えながら、扉のわずかな隙間より廊下に転がり出る。その●”■×”の後に続いてネズミが一匹、駆け出してくる。直後、扉が音をたてて閉まる。●”■×”が荒い息をつきながら見守るなか、一匹の鼠はいずこへともなく走り去る。)

(夜のオクスフォード市郊外。スコットランドヤードのパトカーのドアを開け、無線で報告している私服警部。彼の背景では、ジョーが手錠腰縄で制服警官たちに連行されていく。彼の使用していたパソコンやフロッピーディスクなども警官達により運び出されている。周囲では学生や住民がガヤガヤと遠巻きに見物している。)

警部(ハンドマイクに)
「息子の身柄は拘束しました。これから国防省の戦略研究所へ移送してワクチン・プログラムを作らせます。親父の方は依然捜索中ですが、もう時間の問題でしょう。どうぞ」

テダー(電話で報告を受けている)
「そうか、ご苦労。よくやってくれた。」
(受話器を置き、蔵相、頭取に向かい)

テダー
「どうやら日頃反政府的なグロス=ネット・サービス社も、データの全損という犠牲と引き換えにウィルスの撲滅に協力してくれたようです。」

頭取
「やったな、ネイサン!」

蔵相(テダーの肩をたたいて)
「そうか、テダー君、でかしたぞ、ハハハ…!」

テダー
「ワクチンソフトができ次第、真っ先にイングランド銀行のコンピュータに“注射”しますが、おふたかた…」

頭取
「何だね?」

テダー
「この世から鼠を絶滅できないように、コンピュータ・ウィルスとの戦いは将来も再発するということを、どうぞお忘れなく。」

蔵相
「なるほどな、肝に銘じておこう。ところで君たち。私はこれから妻とイーストエンドに『マウストラップ』(*)を見に行くんだが、ボックス席に二人分の空きがある。…どうかね?」

(※註:超ロングランで有名な英国製ミュージカルの題名。)

(顔を見合わせ、肩をすくめる頭取とテダー。)

(イングランド銀行本店前。警官の敬礼に見送られ、3人が乗り込んだリムジンが夜の街路に走り去る。その近景。芝生の上にさきほど逃げ去ったのによく似た鼠が顔を出す。)
−完−

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