●”■×”(数字) 『コード・バイオレーション』
没シナリオ大全集 Part 5.8
Part 3:土を噛め
(○○大会。第1試合はすでに始まっている。選手控え室ではアモリノスが長椅子にすわってジーガーを待っている。部屋の外の廊下。ジーガーが鞄を下げていそいそとやってくる。カメラマンの格好のサリーがフィルム自動巻き戻し機能のジー…という大きな音をさせている。)
サリー(通りかかったジーガーに聞こえよがしの独り言)
「あら困ったわ、止まらなくなっちゃった」
ジーガー(立ち止まって)
「君、選手はそのフィルム巻き戻しの音を一番嫌うんだよ。頼むからサーブ直前のフィルム交換だけはやめてくれたまえよ!」
サリー
「あっ、あなたは有名なジーガー・コーチでいらっしゃいますね?一枚で結構ですから自然光の下で撮影させていただけません?」
ジーガー
「いや、アモリノス選手が控室で私を待っているから…」
サリー
「そうおっしゃらず、ほんの1分ですみますから…。クリニックの宣伝にもなりますよ」
ジーガー(時計をみながら)
「仕方ないな…、じゃ一枚だけだよ」
サリー
「それではこちらへ来てください!さあどうぞ」
(サリー、ジーガーの背を押すようにして廊下のコーナーを曲がる)
(アモリノスのいる控え室。)
呼び出し(部屋をのぞいて)
「アモリノスさん、そろそろ第1試合が終りますから、ご出場願います!」
アモリノス
「ああ、わかった!」
アモリノス(スポーツドリンクをチューブで吸いがらおちつきなく周囲を見回して)
『ジーガーのやつ、アンフェタミンはまだか!』
(仮設テントに挟まれたような人目につかない場所。ジーガーの射殺死体がころがっている。脇に抱えた鞄の口から注射器や薬がとびだし、散乱している。)
(アナウンス・ボックス)
アナウンサー
「…注目の第2試合、エルヴィン・ミューラー選手の長期休養の間にまたたくまに世界ランキング1位にのしあがったアモリノス選手が自分のベンチに向かいます。相手は地元フランスの全く無名の若手、ランキングでは100位外のシュネデールですから、この顔合せに会場は湧いています」
(審判が試合開始を宣する。コートに向かうアモリノス。薬が切れているので、目付きや息遣いがおかしい。アモリノスの視点で会場の全景を眺めると、奇妙に歪んでいる。冒頭のミューラーの悪夢のようだ。)
(試合はシュネデールのペースで進み、アモリノスは2セットを奪われ、第3セットも追い詰められ、ストレート負けのピンチを迎える。)
●”■×”(観客席の足元にあたる場所からプローンでアモリノスを狙っている)
『おまえの肱も限界だな。アモリノス…』
アナウンサー
「さあシュネデールのマッチポイントのサーブ。一打目はレットのコールだったが、二打目はどうか」
(シュネデール、思いきり打つ。)
アナウンサー
「二打目も豪速球!」
(●”■×”、引き金を引く。サイレンサーが付いているので、ブスッという音がする。しかしシュネデールのサーブの打音に重なっているのでだれも気付かない。アモリノスがレシーブしようとした瞬間、ラケットへのボールインパクトと同時に●”■×”の放った低速弾が三叉部分、軸方向に命中、貫入する。)
アモリノス
「ううっ…!!」
(ボールに加えて予期せぬ応力が加わったため、激しい共振がアモリノスの手首と肱を襲い、ボキッという音とともに複雑骨折したのが外目にも分かる。)
(ショッピング街。買物かごを抱え、客寄せ用のテレビの前に立ち止まり、この試合の模様を観戦しているミシェール)
アナウンサーの声
「時速200キロ・オーバーの素晴らしいサービスエースで試合終了です!無名の新人シュネデールがランキング1位のヨハネス・アモリノスをストレートで破った結果、シュネデールの一挙上位ランキング入りとアモリノスの下位転落が決定しました。大番狂わせに観客は熱狂していますが…おっと、アモリノス選手どうしたんでしょうか?」
ミシェール
『…このことだったんだわ…きっと!』
アナウンサーの声
「試合終了したのに動けないアモリノスに医療班がかけつけます。ビデオのスローリプレイを見ましょう。おお、これはひどい!強烈なサービスを受けたアモリノスの左手が…!これでは選手生命は…、神よ!」
(ミシェール、走ってアパルトマンに帰る。部屋のドアを開ける。)
ミシェール
「あなた!テレビのテニス中継を見て!」
(立ちすくむミシェール。平泉はベッドの脇でポケコンに繋がった電話コードを首にまきつけ、自分の体重をかけて根性の自殺を遂げている。ベッドの上には●”■×”に貰った大金を添えて、文法も拙いフランス語でかかれた死際のメッセージが。いわく、『ミシェール、このお金は君の治療のために使え。死んでも君を愛す。マコト。』)
(救急車が走り出ていく大会会場。カメラを持った記者たちは一斉にその後を追いかけるが、ひとり逆方向に人影をもとめる女、サリー。)
サリー
『デ○ーク○郷…』
−完−