●”■×”(数字) 『ジョージの贈物』
没シナリオ大全集 part 9
Part 5:墓荒らしの報酬
(子供電車の中で姿勢を低くしてあたりをうかがうジョリオとナ翁。電車はゆっくりと遊園地の敷地を一周していく。小規模な田舎びた遊園地で、古くさいメリーゴーラウンドなどありふれた施設しかないが、夜なのでイルミネーションが幻想的。親子連れ、アベックなどでほどほどににぎわっている。)
ジョリオ
『何の変哲もない田舎遊園地って感じだな…』
(ジョリオ、ふとナ翁をみると、感動に目をうるませている)
ジョリオ
「おいとっつぁん、どこか打ったのか?大丈夫か?」
ナ翁
「夢のようじゃ…夢のようじゃ…」
(あらためて狭い遊園地を見渡すジョリオ。やはり彼は何の感興も覚えない。)
ジョリオ
「そうか…じいさん最近何十年も島から外へ出ていないかったんだな。あんたがトラック稼業でバリバリかせいでいた焼け跡時代のイタリアじゃないぜ、今は」
ナ翁
「夢のようじゃ…夢のようじゃ…」
ジョリオ
「…」
(子供電車が遊園地の出口に近付く。)
ジョリオ(真剣な表情で)
「とっつぁん、そろそろ遊園地の出口に近付く。そしたら外にでるぜ。“ナポリの隠し財産”のありかを思い出してくれよな」
(柵の外から、ジョリオとナ翁のようすを見つめる4つの目。スクーターにまたがった男A、Bだ。男A、無線機を懐から出し、口元へ。)
(ナポリ市の夜景。)
(冒頭シーンで既に見た墓地の入口。車椅子のナ翁。その後ろに立つジョリオ。)
ジョリオ
「こ、ここなのか、とっつぁん?」
ナ翁
「ああ。戦後の世の中がどんなに変わろうと、墓地をならしちまうような罰当たりなイタリア人はおらん。あの頃と同じじゃ」
ジョリオ
「ほんとうか?それじゃここに、あんたの“ナポリの隠し財産”が眠ってるんだな?よし、行こう!」
(車椅子を押して墓地に入る)
ナ翁
「せがれよ、おまえの女友達ははじめからお前を利用しただけじゃった。いまさら命の危険を犯して隠し財産など見つけてどうする?」
ジョリオ(泣き顔になり)
「いわないでくれ!誘拐の罪で逮捕されるにしろ、あんたの一家に殺されるにしろ、ここで止めたら俺は何のとりえもないタダの街のクズさ!」
ナ翁(じっとジョリオを見る)
「…」
(ある墓石の前に車椅子がくる)
ナ翁
「とまれ。その墓碑銘を読んでみるがいい」
ジョリオ
「何だって…?」
(車椅子を離れ、“FROM GEORGE”とのみ刻まれた墓石の前に張り付くようにするジョリオ。)
ジョリオ
「“ジョージより”…って、英語か。しかし、他は破損がひどくて読み取れないや。でも一体ジョージって…?」
(ジョリオが振り向くと拳銃を擬した男A、Bがナポレオン老人の車椅子のすぐ後ろに立っている。Bは老人のこめかみに銃口を当てている。驚き立ちすくむジョリオ。)
男B
「ジョージ・パットン陸軍大将のクリスマスプレゼントか。長くかかったぜ、見つけ出すのによ」
男A
「47年さ。だがこれで元の持主の手に戻るわけだ。フフフ…」
ナ翁(唾を吐きながら)
「どいつもこいつも地道に働くってことを知らんのか。嘆かわしいわい!」
男A
「アメリカもご他聞に漏れず不景気でね。老後の生活を考えると、あの時奪われたお宝がどうしても諦められん」
(男A、墓石を押す。きしみ音がして、墓石が倒れ、地面に棺室への入口階段が現われる。)
ジョリオ(吐き気をこらえるように口を抑えて)
「うっぷ…!」
(棺室の入口には、冒頭シーンに登場した男の死体が苦悶の目を見開いたまま倒れている。その近くには別な腐乱死体、白骨死体もある。)
男B
「アンダーソンのやつだ!…もっと古い死体もあるぞ」
男A
「ああ。俺達より先にここをかぎつけた奴も何人かいた。しかしこんなふうに皆殺られちまったのさ。」
(男A、男Bを撃つ。男B、アンダーソンとやらの死体の上にうつぶせに重なって倒れる。ジョリオ、茫然。)
ナ翁(首を横に振りつつ)
「昔からアメリカ人は捕えた鼠みたいに人を殺しおる」
背後からの声
「最近はイタリア女もね」
(驚く男A。ふりむくと同時にマルティナの拳銃で射殺され、男Bの死体の上にあおむけに重なって倒れる。額の真ん中を撃ち抜かれている。茫然と見るのみのジョリオ。)
マルティナ
「ツイてるみたいね、私。さあ、お二人さん、先に立って案内してもらうわよ」
ジョリオ、ナ翁
「…」
(穴の中。マルティナ、手に持ったライトを照らす。ジョリオの驚いた顔。内部は洞窟状で、壁はぎっしりとミイラや骸骨でうめつくされている。キリストを意味する魚の紋様も認められる。)
ジョリオ(車椅子を押しながら)
「カタコンベ(*)だ。ナポリにこんなカタコンベがあったなんて!」
[※註=ローマ時代初期キリスト教徒の共同地下埋葬所]
マルティナ(後ろから歩きながら)
「よくこんな場所を見つけたものよ。しかも隠し方も巧妙。あのアメリカ人が自分で探すのを諦めたくらいだから。」
ナ翁
「せがれ、お前はシチリアの男か?」
ジョリオ
「…?」
マルティナ
「何をぶつくさ言ってんだよ。さあじいさん、隠し財産はどこなのさ?」
(ナ翁、黙って車椅子のフレームから仕込み散弾銃を抜きだし、地面を撃つ。轟音。地面が一直線に崩れて『十戒』の紅海のように裂け、下に河岸段丘状のもう一層のカタコンベが現われる。その床にはピラミッド状に木箱やドラム缶が積んである。ジョリオ、あわてて後方にとびのいてへたりこむ。マルティナも驚いてナ翁に拳銃の銃口を向ける。)
ナ翁(仕込み銃を地面に投げ捨てて)
「このカタコンベは2層構造でな。隠し財産なら、ホレ、下にうずたかく積んであるのがそれじゃて」
(マルティナ、下層のカタコンベに走って降りて行き、木箱の山の前に至る。そして木箱などには目もくれず、ピラミッドのてっぺんに置いてある書類を包んだような油紙の包みを見つけるや鷲掴みに。マルティナ、夢中でその包みを引き裂く。)
マルティナ(中味の書類を剥き出し)
「あった!とうとう“ナポリの隠し財産”を見つけたよ!アハハハハッ!!」
(小踊りして喜ぶマルティナ。ナ翁、車椅子のもう片方のフレームから仕込み銃を取りだし、彼女に狙いをつける。)
ジョリオ(それに気付いて崖下に飛び降り、マルティナを庇う)
「じいさん、やめろーっ!彼女が死んだら、お、俺も死ぬーっ!」
ナ翁(狙いをつけながら、いつになく恐い顔で)
「せがれ、おまえはシチリアの男か?」
(マルティナ、ジョリオの行為に呆れながらも拳銃でナ翁を狙う)
(墓場の地上。爆発音のように銃声が数発、穴の中から聞こえる。)
エンリコ(穴の近くまで走ってきて)
「おい、何か聞こえたろ!」
ガンビーノ(同じくかけつけて)
「あれは銃声か何かの爆発だ!4、5発は聞こえたぞ!」
(二人、懐中電灯を照らす。死体の転がる墓穴の入口が闇に浮き上がる。)
(カタコンベの中。人の座った車椅子の後背からのシルエット。エンリコ、ガンビーノが共に拳銃とサブマシンガンを持ってその近くまで走り来る。)
エンリコ
「何があったーっ!?」
ティコ・ガンビーノ
「じいさん無事かーっ!?」
(二人、ハッとして立ちすくむ。懐中電灯の光に、マルティナとジョリオが重なって倒れている。近くに書類が落ちていて、それには数発の穴が空き、燃えている。)
エンリコ
「あの女は国際指命手配されている南スイス生まれの恐喝屋だぞ」
ティコ・ガンビーノ
「観光バスの連中を俺達にけしかけたのもあの女のさしがねだな」
エンリコ
「おい、おまえのじいさん…!」
ティコ
「大丈夫だ、この親父は死ぬタマじゃねえ。(揺り動かし)おい、一体“ナポリの隠し財産”てのは何のことだ!?」
(死んだようにうなだれていたナ翁が首を持ち上げ目をあける。)
ナ翁
「もう話してもよかろう。そう、…あれは1945年…」
(回想シーン)
(若き日のナポレオン・ガンビーノの顔。略帽に軍服姿で、アイドリング中の大将旗をつけたジープのハンドルを握っている。場所はヨーロッパの森の中。助手席にはくつろいで本を読んでいる四星のパットン将軍。将軍、その本の最後のページを読み終り、ガンビーノの膝の上に投げてよこす。)
ガンビーノ
「これは何でありますか、将軍?」
パットン(葉巻に火をつけながら)
「かつてナポレオン・ボナパルトは、これから進攻しようとする土地についての本を専用馬車の中で読みふけり、道端に捨てていったという。」
(ガンビーノ、そう言われて本の表紙を見る。『ソビエト紀行』といったタイトルが見える。驚き、将軍の顔を見るガンビーノ。)
パットン
「それを道端に捨ててくれ。ナポレオン・ガンビーノ」
ガンビーノ
「は、はいっ」
(捨てる。将軍が手で合図し、ジープ、発進する。道端に捨て去られた『ソビエト紀行』。)
(現実シーン)
ティコ・ガンビーノ
「なにーっ、パットン将軍はドイツの降伏前からソ連との戦争も考えていたというのか!?」
エンリコ
「いや、それは一部では既に知られている事実だぞ、ティコ。して老人、将軍は何か証拠になるものをあんたに残したんじゃないか?」
ナ翁
「そうとも。…ある日将軍は上機嫌で、わしに一綴りの書類を手渡したのじゃ。」
(回想シーン)
(“オペレーション・ホワイト・ホース”と題されたアメリカ陸軍極秘の判のある計画書の表紙。日付は1945年某日。)
ナポレオン・ガンビーノ(大野営地の片隅で、手にした綴りから目を上げて)
「閣下、こんなものを私などに見せては秘密が漏洩して大変なことになります!」
パットン
「そいつにはアイク(*)もブラッド(*)も承認のサインをしとる。わしはスターリンの牽制のため、内容が漏れればいいとすら思っとるよ!」
[※当時在欧連合軍を束ねていたアイゼンハワー陸軍大将、戦後米国大統領。]
[※当時パットンの上司だったオマー・ブラッドレイ。戦後アメリカ軍最後の五ツ星元帥。]
ナポレオン・ガンビーノ
「それじゃこれは…ソ連との戦争計画…でありますか!」
(パットン、ウィンクで応える。ナポレオン、改めて手にした書類を見る。)
(現実シーン)
ナ翁(驚いて声もない二人を前に)
「名だたる将星たちが連署しておった。しかし彼らはサインしたことを後で悔やんだに違いない。パットン将軍が殺された真の原因は、このホワイト・ホース作戦計画の取消にあったとわしは思う。」
エンリコ
「…神よ!“ナポリの隠し財産”が、幻の対ソ戦争計画書だったとは…!」
ティコ・ガンビーノ
「お、おやじはその計画書でアメリカ政府をゆすっていたのか!」
ナ翁
「あの二人を介抱してやれ。この、対テロリスト用空雷弾で気絶させとるだけじゃ」
エンリコ
「また借りができたな、ナポレオンじいさん」
(と、二人の方に走って行く)
ティコ
「じいさん、それじゃ“計画書”を焼夷弾で撃って燃やしちまったのは…?」
ナ翁
「おそろしいグリフォン[怪獣]じゃよ。某国政府に依頼され、このカタコンベの中で数日間、あの計画書を開封しに来る者を待っていたのじゃ」
(ティコ、ナ翁、洞窟の背後を振り返る。壁際の一体のミイラが傾き、倒れる。頭部に干からびたイバラの冠あり。近くに.223の空薬莢が4、5発転がり、うっすらと硝煙が立ち昇っている。)
ティコ
「ゴ、●”■×”(数字)…!」
(ナ翁、さびしげに肩をすくめる。)
「ジョージの贈物」 −完−