シリーズ『決心変更セズ』
没シナリオ大全集 part 6.4
第3話:(タイトル不明)
○水平線上に島かげが点在する南洋
大発4、内火艇1からなる日本軍のミニ船団が別の島を目指して航行中。1艘の大発の中に片利小隊も乗船している。船舶工兵の操舵手はなにかにおびえているようすで辺りを警戒している。
経理「波が穏やかでよかったのう。この大発艇ちゅうやつは、ちょっとうねりが高くなると揺れてしょうがないけん」
三田「おまけに海軍もめずらしく内火艇を出して先導してくれている。前の転進の時のように船舶工兵が方向を間違うこともないってわけだ[註※陸軍の上陸用舟艇である大型発動機艇=大発は、本来河用の船舶工兵が操縦して洋上機動にも用いられた]」
浄音「でも三田兵長、あの舵取りの工兵サ見てください。海岸を出たときから何かに怯えっぱなしでっサ」
先頭を走っていた内火艇がビーッと汽笛を鳴らして停船する。
片利「(寝ていたのが起きてきて)どぎゃんしたァ、いまのは停船信号のようだが…」
全部の大発が洋上で停船する。
船舶工兵「(青くなって)あわわわわ…」
三田「おい船舶工兵、こんなところで何で停船する」
だんだん空が暗くなってくる。
片利「スコールか?空が暗くなってきたぞ」
船舶工兵「あ、あいつが現われたにちげえねえダラ!」
経理「あ、あいつって、何じゃい。このへんはまだ日本が制海権を確保しとる。ビクつくな」
華眉「(水平線を指さし2時の方向に国籍不明船が見えるでアリマス!」
船舶工兵「(急いで大発を180度ターンさせながら)出たァ!幽霊水雷艇の“モービーディッケン号”だら〜!」
経理「もーびーでぃっけん号?」
片利が双眼鏡で覗く。3本煙突の古い水雷艇が見える。色は全身白塗り。3本の煙突からは激しく不気味な火の粉とものすごい黒煙が吹き出している。
片利「驚くべし、旧式の石炭焚きの水雷艇たい!ものすごか煤煙で空が暗くなっとるのだ。艦首旗は、ありゃ長崎で見たこつばあるオランダ国旗ぞ!」
三田「確かオランダ艦隊は緒戦で壊滅させたはずじゃ?…すると通商破壊船か?」
内火艇が全速で水雷艇に接近し、銃撃をあびせる。水雷艇は発砲せずに恐ろしいスピードで内火艇に向かってくる。あたりは暗闇に近くなり、鬼気迫る光景。
片利「コラ船頭、なぜ逃げよるか!海軍が徒手空拳も同然の内火艇で立ち向かっちょるんぞ!加勢せんか!かえせ、かえせ!」
船舶工兵「あいつの怖さを知らないからそんなことをいうダラ。あの幽霊船は戦艦の大砲でも沈められないダラ。助かりたくば逃げるっきゃないダラ!」
三田「あの船首波、石炭ボイラーのくせに30ノットは軽く出してるな。船体もすこしも煤けた様子がなくて真っ白だし、確かに異常だぞ」
浄音「あっ、衝角でぶつかる気だ!」
内火艇、横腹に衝突され、船体がまっぷたつに折れ、轟沈。
船舶工兵「いわんこっちゃない、次はこっちにくるダラ!」
4艘の大発は扇型に散開して逃げようとする。
片利「バカヤロウ、溺れた水兵をほっとく気か!華眉、おまえが操縦を代われっ!」
華眉、船舶工兵の衿をつまんで舳先の方に放り出し、自分で舵を取ってUターン。
水雷艇は逃げる4艘の大発を次々に衝角攻撃で撃沈する。その間、片利小隊の大発は内火艇の乗組員を救助する。
海軍士官「(大発に拾い上げられて)かたじけない!あいつから助かろうと思ったら、逃げちゃだめなんだ!」
片利「ありゃあいったいどういうことだ、説明しろ」
海軍士官「(甲板に座り、肩で息をつきながら)あれは戦前のオランダ海軍の旧式練習船なんだが、この海域で荒天訓練中に漁船を避けようとして僚艦と衝突事故を起こし、乗組員もろとも沈没したそうだ。それ以来、幽霊船になって近くを通る小型船に体当たりし、怨念を晴らしているという話だ」
片利「ゆ、幽霊船?…それなら話は別たい。オイ華眉、全速で逃げ出せ!」
海軍士官「いかん!あいつは逃げようとする船を真っ先に襲うんだ」
片利「そうじゃというても、わしゃあの世の者が大の苦手…。あっ、今度はこっちに向かってくる!」
水雷艇は回頭してこちらにむかってくる。
三田「ふざけるな、敵が衝角で来るなら、こちらは接舷して斬り込みあるのみだ!そのうち味方の軍艦も助けにきてくれるはずだ」
海軍士官「しかし乗り移るにしても相手の船脚が速すぎる。なんとかあの水雷艇の速度を落させなくては」
経理「それならいいものがある。華眉、おまえの背嚢からアレをだせ!」
華眉「(背嚢から魚雷の弾頭を取りだし、ゴロリと出す)これでアリマスか」
黒煙と火の粉を吹き出しながら驀進してくる水雷艇。
経理「よーし、でけた。華眉、さっそくこいつを海に放り込み、持ったロープをすこしづつゆるめてくれ」
華眉、ブイに縛り付けられた魚雷弾頭を海に落し、ロープで曳航する。
片利「経理、一体なんのマネだそれは」
経理「砂浜に米潜の不発魚雷が打ち上げられとったのをバラして拾っておいたキ、それにブイを結び付けて曳航機雷にしたんじゃ。浄音、俺が撃てといったら、あの魚雷を爆破してくれ」
浄音「(スコープ付き狙撃銃を据銃しながら)わかった」
後ろから迫る幽霊船。ブイがその舳先の近くに届く。
経理「いまだ!撃て」
引金を引く浄音。魚雷が爆発する。水煙が晴れると水雷艇は船首がめくれ上がり、大きな波を蹴立てている。
三田「よーし、船脚が落ちた!華眉、少しづつ速度を落して横にならべろ。」
片利「ゆ、幽霊船も不死身じゃなかとね…」
全員武器を手に乗り移る準備。2隻が並行すると華眉が縄梯子の付いた錨を水雷艇の甲板上に投げ上げる。
三田「こうやって横腹にくっついてしまえばもう乗り潰される心配はない。さあ、乗り移ろう」
海軍士官「(南部式拳銃を手にしながら)俺もいく。陸さんばかりに任せておけんからな」
経理「マッカーサー補給の焼夷手榴弾ですが(海軍士官に1発手渡す)」
海軍士官「かたじけない」
大発は船舶工兵が1人で操縦。残りは全員縄梯子を伝い移乗する。
片利「(水雷艇の甲板の上に立ち)妖怪はいずこじゃ!?こうなりゃ斬りまくるだけたい!」
三田「(皆を振り返り、手で指示しながら)散開して前甲板を捜索、ついで艦橋司令所を目指す!」
用心しながら進む三田たち。
海軍士官「(まっすぐ立ち上る煙を見ながら)機関は動いてるが、船の動きは止まったな…」
艦橋に通じるハッチから幽霊じみたオランダ水兵がでてくる。
オランダ水兵A「殺してくれ」
全員、あっと驚く。
いつのまにか、ぞろぞろ出てきた幽霊オランダ水兵にとりまかれた一行。
辺利「わーっ!(一人の幽霊に切りかかる。が、手ごたえなし)…や、やっぱ、手ごたえがなかとよーっ!」
オランダ水兵B「俺達を狙ってもダメだ。俺達を動かしている、あいつらを(後方の艦橋を指さす)…頼む!」
全員、後方に注目。すると、ハッチから鳥のような形をした恐ろしげな妖怪どもが現われる。
妖怪、オランダ水兵たちを操るしぐさ。
するとオランダ水兵、口々に「殺してくれ」と懇願しながらも辺利たちに迫ってくる。
辺利「う、撃ち方はじめーっ!」
三田、華眉らの的確な射撃でスプラッシュするオランダ人たち。しかしすぐ復活し、「殺してくれ」と言いながら襲ってくる。ふなべりに追い詰められる三田たち。
三田「華眉、あの妖怪が死体を操っているに違いない!あいつをなんとかしろ」
辺利「(妖怪にも発砲しつつ)ムリたい!タマも突き抜けていきよる、空気みたいな妖怪ぞ」
華眉、近くのタールピッチの入った樽をぶん投げる。妖怪、タールピッチに捉えられた様子。
辺利「しめた、防水材のタールピッチを浴びて形が現われおったぞ」
海軍士官「クソッタレめ、この軍艦から降りろ!」
海軍士官、南部拳銃を発砲しながら猛然と妖怪にタックルする。
辺利、三田「…!!」
妖怪、海軍士官を包み込むようになる。もみ合い。
海軍士官、焼夷手榴弾のピンを抜く。
爆発。白煙がたちこめ、タールピッチは着火して四分五裂、海中に飛び散る。
海軍士官もボロボロになってふっとばされ、舷側のロープに絡まったような形で絶命する。
ふなべりから海中を覗く一行。タールピッチの塊は沈んで行く。
オランダ水兵たち「アリガトウ…アリガトウ…(みるみる白骨化していく)
辺利「艦の様子もヤバイぞ。早く退艦しよう」
モービーディッケン号、みるみる黒ずみ、錆が浮き、煙突、マストは折れ、甲板はボロボロに腐り始める。あわてて大発にのりうつる一行。
大発がモービーディッケン号からだいぶ離れた海上に出たところで、水雷艇は海軍士官の遺体を絡み付けたままゆっくり転覆、白い腹を見せて沈んで行く。
三田「あの化物は一体…」
辺利「たぶん古い海の怨霊なんじゃろう。あの海軍サンはその怨霊を艦から海に付き落とし、仲間の仇をとった。そして、多分いまは自らがあの水雷艇の怨霊となったんじゃ」
三田の納得顔。
すべて波間に消え、空が再び晴れる。
時間経過。
水平線から、味方の軽巡洋艦が姿を現わす。
船舶工兵「やっときた、味方の軽巡洋艦ダラ!」
全員注目。
経理、浄音「万歳、海軍のメシが喰える!(うれし泣き)」
第3話−完−