アイ・リメンバー

没シナリオ大全集 part 6.8


○ダンカンの馬小屋
 ランプで皓々と明るい馬小屋。
 ブラッシングし終ったばかりの馬がいる。
 その近くに外したばかりの鞍。
 鞍には空のライフルラックもついている。
 逆さにした桶の上で、携帯電話をかけているのは現知事のダンカン。
 ダンカンの服装は、こんな時間に遠出をしてきたことを窺わせるもの。

ダンカン「知事のダンカンだ。マクギリー州議会議員だね」

○マクギリー書斎

マクギ「ダンカン知事…こんな時間に何でしょうか?」

ダンカン(声)「南部人同士、君とチャンセラーズビルのいくさ話がしたくなってね」

マクギ「…!!!(手が震える)」

ダンカン(声)「先日、古物商のハンフリーと名乗る男が、百三十年間も倉庫に眠っていたガラス板写真から焼き付けた写真を見せにきた。君のひいじいさんと、写りは悪いがストーンウォール・ジャクソン将軍が一緒に写っている、極めて貴重なものだ」

 かっと目を見開くマクギリー。

○ダンカン馬屋

ダンカン「(片手でブーツの泥を落としながら)…彼の言い値は四十万ドルだったが、私は、マクギリー議員が買わなかったら考えようと気を持たせ、彼を尾行させた。そして今夜、私がマクギリー家の名誉を守らせて貰ったよ。ハンフリーは警告を受けたから、もう君を強請るようなことはないだろう」

○マクギリー書斎

マクギ「…では、闇のなかからライフルを放ったのは…?」

○ダンカン馬屋

ダンカン「それは詮索せぬことだ。ただ、私もキツネ撃ちの腕では余人に引けは取らんよ(という彼の手元にはライフル銃が置かれている)」

○マクギリー書斎

マクギ「…なぜです?なぜあのガラス板写真の意味を知りながら、次の知事選の敵である私に塩を送るようなマネを…?」

ダンカン(声)「君は私をライバルと思っているかも知れんが、私は君を、いや、マクギリー家と敵対することはしないんだよ」

マクギ「…知事、どうもお話がよく分かりません」

ダンカン(声)「手元に写真が残っているならよく見たまえ。君の先祖、ウィリアム中尉の隣りで親しそうに話しかけている若い士官…。彼こそこの私の先祖、ニコラス・ダンカン中尉なのだ」

 まじまじと写真を見つめるマクギリー。

○ナレタージュ・チャンセラーズビル・3月2日夕刻

ダンカン(ナレーション)「大胆な機動でフッカーを塹壕陣地から壊走させたジャクソン将軍は、直ちに北軍の後方連絡線を絶つ目的をもって、バージニア連隊の士官騎馬隊を率い、夕刻の偵察に進発した」
「…しかし途中の潅木帯にはあちこちにヤンキー(北軍)の残兵が隠れていて、危険な状態だった…」

○再現・チャンセラーズビル・1863年

 ニコラス・ダンカン中尉、ジャクソン将軍の馬と数十m離れて潅木林内を並走している。
 やや後方からウィリアム・マクギリー中尉が駒を進めていく。
 と、突然ニコラスのすぐ近くの草叢から散弾銃を手にしたヤンキーが立ち上がる。

ウィリアム「ニコラス!」

 ニコラス、馬に拍車を掛けながらとっさに応戦しようとしたが、彼のシャープス・カービンは何と不発に終る。
 凍り付くニコラスの表情。
 ニヤッと笑ってゆっくり狙いをつける北軍兵士。

ダンカン(ナレーション)「…絶体絶命の一瞬、轟然、散弾銃が2度響きわたった」

 ウィリアム、約五十ヤード後方から散弾を発射、北軍兵をその場に撃ち倒す。
 北軍兵士、倒れ際に自らの散弾銃を暴発させた。

続きへ

戻る