没シナリオ大全集 Part 11

<日本核武装>の風景

原作/兵頭 二十八

○その日の夕方・産院・全景

 工務店による壊れた窓ガラスの張り替え作業が終わりかけている。

○産院内の廊下

 ストレッチャーや看護婦、患者、見舞い人などが歩いている。

○産院内の、カーテンでベッドごとに仕切られた、一入院室内

 ベッドの枕元に、佐藤がドラッグストアで買い込んできた壜入りベビーフードやベビー用品などが散乱している。

みのり「(その一つを、仰臥姿勢でとりあげてしげしげとながめながら)……だからねえ、“0カ月”って書いてあるかどうか、確かめて欲しいのよね」

佐藤「どうもスンマセン……(と、面目なさそうに、手にした買い物袋に“6カ月”以降用の粉ミルクの缶を再収納)」

みのり「あ、これは助かるわ。夜中に小腹がすいちゃって……(と、カロリーメイトを枕元の棚に確保)」

 ベッドサイドのストレッチャー上で赤ん坊が泣き、二人、注目。

みのり「よしよし……」

佐藤「(感心して)本当に赤い顔して泣くんだなあ」

○時間経過・夜・都内の佐藤の自宅近くの路上

 通勤カバンと買い物袋を両手に提げた佐藤が歩いて帰宅の途中。

佐藤「……!!」

 前方から、いかにも路上強盗風にみえる怪しい二人組が近づいてくる。
 その一人の手にはカナヅチが握られている。
 二人組、佐藤を挟むように密着。

路上強盗A「(手まねをまじえつつ)カネカネ……! ハヤク!」

佐藤「わかった、ちょっと待て」

 佐藤、通勤カバンから工事用ヘルメットを出して自分の頭にのせ、もう片方の手に提げた缶入りの買い物袋を半回転させて路上強盗Bの顎をクリーンヒット。

佐藤「こっちは物入りなんだ。テメエの国にはODAが渡ってないのか!」

 路上強盗Bは転倒したが、路上強盗Aは佐藤にカナヅチで殴りかかる。ヘルメットが凹み、ヒビが入る。
 おもわずヨロける佐藤にカナヅチの第二撃が振り下ろされようとする。

佐藤「この野郎……!(と、やはり買ったばかりの「哺乳瓶保温器」の箱を投げつけようとする)」

 急に、路上強盗Aが昏倒する。
 背後に黒づくめのスーツ姿のメガネ男・じつは公安調査庁の鈴木(43)。

佐藤「……えっ?」

 よく見ると鈴木の右手には金属バットが握られている。

佐藤「おい……アンタ……?」

鈴木「(手帳のようなものを呈示し)法務省公安調査庁の鈴木です」

 鈴木の背後から2人の部下らしい男たちも現れ、路上強盗ABの身柄を確保している。部下の一人はプロレスラーのようなガタイである。

佐藤「はあ……??」


【解説のページ】●安全は国の義務

 工事作業現場では、誰もが安全帽をかぶります。でももし頭上に重さ1トンの鉄骨が落ちてきたら、どんなヘルメットだろうとひとたまりもありませんね。なら、「安全帽などムダ」でしょうか?
 わずか5グラムの爆薬でも、それが耳の穴の中で爆発したら人は死にます。ところが5メガトンの水爆が自分から数km離れたところで爆発した場合、人には助かる可能性があるのです。都市の防災は、この安全帽と同じです。諸基準を見直すことにより、まんいち核攻撃をうけた場合の都市住民の助かる率は、飛躍的に高まるでしょう。
 関東大震災のような大地震のエネルギーは、最大の水爆とくらべても桁違いに巨大なものです。が、日本人はあきらめず、世界一厳しい耐震基準と耐火基準を法制化しました。おかげで日本の大都市のビルは、核攻撃の爆風に対して、世界でもっとも頑強に抵抗できるのです。
 政府は有権者から、全国民の安全を保障する仕事を期待されています。国民の一部が自由と安全をあきらめても、政府が自由と安全をあきらめることはゆるされません。

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