没シナリオ大全集 Part 11
<日本核武装>の風景
原作/兵頭 二十八
○都内の高級マンション・全景
声「ここはどこなんスか?」
○その高級マンションの最上階にある秘密の部屋の室内
通信機材やモニターが壁の一面を埋め、中央にはテーブルがひとつだけある、生活臭の無い殺風景な10畳くらいの部屋。
佐藤は椅子に座って見回している。
鈴木の部下の一人は入り口ドアの脇で廊下を警戒するように椅子に腰掛けて菓子パンをかじっており、もう一人の部下は機材の前でヘッドセットをつけて通信をモニターしている様子。
鈴木は隣の狭いキッチンスペースから、コンビニ弁当らしきカツ丼を運んできて佐藤の前のテーブルの上に置く。
テーブルの上には、ヒビの入った社名ロゴ入りの安全帽と佐藤の通勤カバンと粉ミルク缶。
鈴木「まあ、秘密の隠れ家ですわ。佐藤さん、晩メシはまだだったですよね? 私のおごりでカツ丼どうぞ(と、自分も座ってアイスコーヒーをストローですすりはじめる)」
佐藤「あ、どうも……って、ちょっと待ってよ! さっきの強盗は、まさかオレのことを知っていて……?」
鈴木「(手で佐藤の発言を制し)佐藤さん、三人以上いる場所で<あの話>をしたらいけません。彼らは背後関係はありませんでした。しかし悪質なので利き手を脱臼させて多摩川べりに放ってきました。もう現れんでしょう」
佐藤「(脱力し)少なくともオレよりご承知のようだ。いろいろと」
鈴木「うちらはあなたが大事な秘密を守れるスタッフかどうか確かめろと防衛省から頼まれました。今回はまあ、特別な事故ですな」
佐藤「(荷物を持って立ち上がり)警察じゃないのなら、もう帰ってもいいですよね?」
鈴木「送ります」
○夜の首都高
○走行中のクルマの中
鈴木が運転し、佐藤は後席で、カバンを抱え、憮然とした表情で黙って座っている。
鈴木の二人の部下は、いない。
結構な音量でMDの歌謡曲がずっと流れている(盗聴防止の配慮)。
○路上
鈴木のクルマがチューケン建設脇の高架の上を通り過ぎる。
鈴木の声「おっ、チューケン建設のビルですな」
○クルマの中
鈴木「大がかりな地下の再開発をうけおうてるのに、株のインサイダー取引をする社員もおらん。さすがは戦前から信用されとるゼネコンですわ」
佐藤「……」
鈴木「(前を向いたまま)これから話すことは私の独り言ですんで、黙って聴いていてください。あなたは「プロジェクト」に参加することでストレスを感じてると思うけど、知らないとこで何倍も心身をすり減らしてるエンジニアが仰山おられます」
佐藤「(おもわず身を乗り出し)それは、攻撃面……核爆弾の開発チームじゃないか!?」
鈴木「(前を向いたまま)はて、いま独り言にこだまが返ってきたような……」
佐藤「(口に手を当てて)……」
鈴木「マトにされる被害者タイプって、ありますわな。こいつは反撃もせん、報復もできんやっちゃと思われたら襲撃を呼ぶんです。怒ったら本当は恐い人でも、不意打ちうけたら殺される可能性はありますし」
佐藤「(チビの空手の達人がチンピラに囲まれている情景を思い浮かべる)……」
鈴木「だから最初から狙われんように、隙のないようにするのが大人の智恵ちゅうことで、アメリカの男子高校生はみんなボディビルしてます。やせた格闘技選手より、太った筋肉マンが、イジメに遭いません」
佐藤「(鈴木の部下のプロレスラー体格を思い浮かべる)……」
鈴木「もうひとつの防衛方法が「報復力がある」と示しとくことです。それは喧嘩するためやのうて、そもそも喧嘩に巻き込まれない上策なんですわ」
佐藤「(黒ずくめスーツのヤクザの集団を思い浮かべる)……」
○佐藤のマンションの前の路上
鈴木のクルマが停まる。
鈴木の声「つきましたよ」
○時間すこし経過・佐藤のマンションの室内
隅に「ガラガラ」飾りがもう吊り下げられている部屋。電灯をつけずに、キッチンテーブルに座って、窓から都市の夜景をみている佐藤。
佐藤「……」
佐藤、買い物袋からミルク缶を出してテーブルに。
続いて、カバンから、ヒビの入った安全帽をとりだしてテーブルに。
そのふたつをみつめる佐藤。
【解説ページ】●「フォールアウト」は初期ほど危ない
核分裂反応によって生じた「灰」や、核爆発により放射能を帯びて舞い上がった土壌が落下してくるものを「フォールアウト」といいます。
フォールアウトは、爆発から何時間もたってから、はるか風下に降ります。降った直後の灰は、特に肺に入れると危険なレベルの放射能を帯びていますので、住民は、鼻にタオルを当てて避難しなければなりません。地下施設は、フォールアウトを人体から遠ざけるためにも役立ちます。
最も多量のフォールアウトは、水爆が海中もしくは海面で爆発して、火球が水面下に達した場合に生じることも、知っておきましょう。
1954年3月1日のビキニ環礁での水爆テストは、海面から2m上に置かれた装置が、計算をオーバーする15メガトン(火球直径5km)の大爆発となり、海底にも直径2km、深さ75mのクレーターをつくり、かつてない大量の「灰」を吹き上げました。灰は、風下にいたマグロ漁船『第五福竜丸』の船体に積もり、まさか放射性があると知らなかった23名の日本人船員が、降った直後の放射能が強いときの灰に皮膚を密着させ、そのため寄港後の9月に1名が病死しました。
都市に対する核攻撃では、熱線と爆風による危害面積を極大化するために、火球が地表に達しないような起爆高度が選ばれます。その場合、火球の熱がつくる猛烈な上昇流が、核分裂の灰や、連鎖反応しそこなった原料物質を高空まで持ち上げますので、成層圏のジェット気流がそれらを拡散し、フォールアウトが集中して積もる危険な「ホットスポット」は、できにくいと考えられています。
遠くから運ばれてきて地表に降った放射性汚染物質は、長期的には自然の雨によって洗い流されます。日本は中緯度の先進国の中では世界一多雨な国で、河川も短く急で、すぐに海に注いでいることが、フォールアウト被害からの回復を有利にしています。
汚染の直後、最も放射能レベルが高いときに、都市住民が地下の通路をつたって汚染の少ない地域に移動できることは、大都市防災上、すこぶるだいじな配慮です。