没シナリオ大全集 Part 11
<日本核武装>の風景
原作/兵頭 二十八
○ベトナムとラオスの国境のジャングル・1969年
遠くの空で、B-52戦略爆撃機の編隊が、バラバラと爆弾を落としている。その遠雷のような音も聞こえる。
ジャングルの奥から続く、無限に長い、無数の中国人の男たちの行列が、ぜんいん、自転車に山のような物資をくくりつけたものを手で押しながら、道なき道を進んでいく。
ナレーション「インドシナ・1969年──」
手前に防空カモフラージュされた北ベトナム軍の歩哨所があり、双眼鏡をもった兵士たちが空を監視している。
北ベトナム兵士1「(ふと、行列の方を見て)しかし中国からの物資援助はすごい……空恐ろしくなるような量だな」
北ベトナム兵士2「<ベトナム戦争>といったって、じっさいは米中戦争だろ」
北ベトナム兵士3「ああ。ソ連は武器だけのプレゼントだが、中国は軍服を脱いだ兵隊たちが、戦線のすぐ後方まで弾薬を届けてくれるんだ。おれたちはただ撃つだけでいい」
とつぜん、奥のジャングルの中から地対空ミサイルが轟音とともに発射される。
北ベトナム兵士3「おっと、忘れるところだった。対空ミサイルを操作しているのも、おれたちベトナム人に変装した中国兵さんだよ」
地対空ミサイルは遠くの空で1機のB-52に命中する。
声「また1機、落っことしたぞ!」
声「米軍め、早くアジアから出て行け!」
○ワシントン市内の政府建物内
<NSC>と書かれたエンブレムが正面の壁に貼り付けてある、大きな会議室。
そこにニクソン大統領が一人で、立ちすくんでいる。
ナレーション「ワシントン・NSC(国家安全保障会議)会議室──」
ニクソン『(テロップ「ニクソン大統領」)(フーバー元大統領の姿を思い出しつつ)20年前、駈けだしの私に、共和党の大先輩のフーバー元大統領が教えてくれた。中国人は一時的に利用できるが、条約を守らないので同盟は結べぬ、と』
ニクソン『(南ベトナムに上陸した米海兵隊の姿を思い出しつつ)理想的には、日本が英国と同じ道を選択し、GNPにふさわしく重武装し、アメリカとともにソ連に立ち向かってくれることだ』
ニクソン『(佐藤栄作首相との1965年会談の模様を思い出しつつ)しかし日本の与党指導者には、有権者に向かってそれを説明する能力も気力もない。なにが「核の持ち込みも許さず」だ。あきれたものだ』
ニクソン『(ソ連の赤の広場のパレードでトレーラーに載ったICBMが続々と通過する映像を思い浮かべつつ)ベトナムでアメリカは勝てるだろうか? ソ連はいまのところ疲れ知らずの軍拡中だ。日本に対ソ共闘が頼めないとしたら、あとは中国と手を結ぶしか……?』
●解説ページ 「二国のカギ」方式による共同核抑止はなぜ無効か
1960年前後、西側で新たに独自に核武装をする国をできるだけ増やさせまいとした米国は、ヨーロッパ各国に対し「共同で対ソ報復核戦力を運用しようではないか」と呼びかけました。
具体的には、米国軍人が指揮官として核弾頭を管理する共同核ミサイル部隊をヨーロッパ大陸や大西洋に展開します。そこに、ヨーロッパの小国から派遣された「発射係」将校も常駐させておくのです。そして、もしソ連が核兵器を使用して西欧を占領支配しようとした場合には、ヨーロッパ小国政府とアメリカ政府の合意の下、米国人指揮官とヨーロッパ人発射係の二人が同時に発射キーを回せば、モスクワに向って報復核ミサイルが飛び出していく──といった按配でした。
が、この提案は、ほとんどの国から相手にもされませんでした。どうしてでしょうか?
「核抑止」は、「あの国を核攻撃したら、ただちに必ず同じ核で反撃されてしまうだろう」と敵が信ずるからこそ、なりたちます。この確からしさのことを「クレディビリティ」と言います。
しかし、アメリカが提案したような「二国のカギ」方式では、アメリカ政府がちょっとでもためらったがさいご、発射は絶対に行なわれないでしょう。
考えてみれば、アメリカの有権者には、なにもヨーロッパ国民と心中をしなければならない理由はありません。
これでは「クレディビリティ」はゼロに等しいですよね。ソ連としては、アメリカ本国を直接おどかしておいてからヨーロッパ小国を攻撃し、核で反撃されないでヨーロッパを支配するという可能性を追求できたでしょうから。
なお、統一前の西ドイツは、核武装を諦める見返りの名誉として、アメリカ軍が西ドイツ内にもちこんでいた核ミサイルの一部について、「二国のカギ」方式での共同発射権を与えられていました。戦後も米英仏三国に占領されていたも同然の西ドイツには、自前で核武装ができるチャンスはゼロでしたから、しぶしぶ、この名目的にすぎぬ権利を頂戴していた──というのが真相です。
○5番ドアのレクチャールーム
佐藤「60年代ですか……。世界の石油消費が急に増えていた頃だから、産油国のソ連は軍事費には少しも困らなかったのでしょうか」
講師「まあ、ソ連兵をベトナムに送り込んでいたら、いくら資金があってももたなかったでしょう」
○中国の沙漠にある宇宙ロケット基地・1969年
沙漠の真ん中に打ち上げ支援タワーがあり、中国製の宇宙ロケットが据えつけられている。
多数の技師が準備作業に立ち働いている。
タワーから離れた場所に、VIP用の屋根つき見学席があり、視察にやってきた毛沢東らが迎えられているところ。
ナレーション「中国・ゴビ沙漠・1969年──」
○屋根つき見学席
技師長「(うやうやしく)かならずや来年には、人工衛星(*)を打ち上げて見せますっ! これに水爆を搭載する研究も、着々と進んでおります」
(*)欄外註:1970年4月に成功させる。大陸間弾道弾の軌道は、人工衛星の軌道を短縮したものと異ならない。ちなみに日本は1970年2月に初の人工衛星を打ち上げて長距離ミサイルの開発能力を世界にみせつけてから、核拡散防止条約に署名した。
毛「(説明を続ける技師長には目もくれず、隣の党幹部らに)人民解放軍の奮闘により、ニクソンはアジアから米軍を撤収させたくなった。問題は、その穴埋めに、日本の軍事大国化を願っていることだ。われわれは日本の核武装だけは絶対に阻止しなければならない」
若い党幹部「どうしたら良いでしょうか、毛主席?」
毛「アメリカ国内で<日本の脅威>を宣伝しろ! 旧日本軍の非人道性を日本人インテリに糾弾させ、それを英訳するのがいちばん上策だ」
中年の党幹部「ついでに真珠湾の騙し討ちも思い出させてやるといいでしょう。核の真珠湾が再演されるぞ、と。中国贔屓なキッシンジャー(*)なら使えそうです」
(*)欄外註:田久保忠衛氏によると、ニクソン政権の大統領特別補佐官キッシンジャーは1970年8月に<日本は明治維新で封建主義を天皇崇拝に変えた。第二次大戦後にまた民主主義に変えた。二度変われば三度変わろう。特に軍事力を持ったらアメリカの脅威になる。だからアメリカは日本を軍事強国にさせてはならない>等と語っていた。出典:『反米論を撃つ』2003年刊。
毛「(満足そうに頷き)うむ、その調子だ。中国はまもなくアメリカを攻撃できる長距離ミサイル能力を手にする。だがそれを配備するかどうかはニクソンの政策次第であると、非公式チャンネルで伝えよ」
若い党幹部「日本向けの言論工作はいかがいたしましょうか?」
毛「中国は日本の脅威ではなく友邦であり、また、核が大国の条件である時代は去った、核では外交は安全にならないと、日本の学者どもに発言させるがよい」
中年の党幹部「(ニヤリとして)それは実に簡単です。日本のインテリは皆、腰抜けですから」
○5番ドアのレクチャールーム
講師「じっさいは、核ミサイルが最終ラインに控えているからこそ、中国政府は、周辺国に対して好きなように軍事的な冒険ができるのです」
佐藤「「使えない兵器」どころか、現に核兵器は「機能」しているのですね。世界政治の中で」
講師「国家ではないテロリスト集団なら、すぐに使うために核兵器をつくりたいと思っているでしょう。しかし国家は、敵に「ヒロシマ・ナガサキ」の再演を絶対に許さない「抑止」の目的で核武装をします。世界には警察がいないので、被害者になる可能性のある国は自衛するしかないでしょう」
佐藤「核の被害者になってからでは、なにもかも遅いということは分かります」
【解説ページ】●なぜ世界に対して無責任な国には核武装が許されないか
世界は、言葉によって「意味」が与えられています。みなさんは自分がゼロ歳のとき、たくさんのいろいろなものを見たはずですが、ほとんどそれを覚えてないでしょう? なぜなのでしょうか。
じつは、人間は、まだ言葉を知らないうちは、何を見ても、それを「意味」として把握できないからなのです。ですから、わたしたち人間が暮らしているこの世界は「言葉」でできているのだと考えてさしつかえありません。言葉を知ることで「ヒト」は「人」になります。その大事な言葉の意味を、正しくするか、自分勝手にするかで、人や国の価値も変わります。
みなさんが小学生のとき、教室には、いろいろな人がいましたね。そのなかには、まわりのともだちから、信頼されている人と、信頼されてない人が、いただろうと思います。
違いは、どこにあったでしょうか?
自分が攻撃されたわけでもないのに他人を攻撃する人。つくり話で他人の悪口を言う人。気の弱い人に対しては、約束を平気で破る人──。こんな人たちは、まわりから信頼されませんでしたよね。その人の言葉の意味は、自分勝手なんです。
いっぽう、自分や友達が攻撃されればそれなりの反撃をした人。他人の話をするときは確かな事実だけを話した人。気の弱い人に対しても、約束したことは必ず守った人──。こういう人たちは、まわりから信頼されていたろうと思います。その人の言葉の意味は、誰からみても正しいと思われたのです。
全部で200近い国々からできているこの世界も、小学校の教室と似たものではないでしょうか。理由もなく他国を侵略し続ける国。つくり話で他国の悪口を言う国。条約を破って平気な国……。そんな国は、まわりから信頼されません。
この地球には、教室の「先生」がいませんので、信頼できない国にはまわりの国々が核兵器をもたせないようにするのです。もし持ってしまった場合には、信頼できる国どうしが団結して、同じ核兵器で対抗するしか方法がありません。
国の信頼度は、国の経済規模と、相当の関係があります。経済規模が小さいと、世界に対する責任が軽いので、嘘をついたり、約束を破ればよいという誘惑に、抵抗しにくいためです。
逆に、経済規模が非常に大きいのに、核武装しない国も、信用されません。そのような国は、すでに核武装している自分勝手な国の子分となって、いっしょに悪いことをするかもしれないからです。
○5番ドアのレクチャールーム
佐藤「日本が核抑止力を構築するとしたら、その攻撃面はどんな構成になると考えられますか」
講師「一般論でお答えしましょう。どこの核武装国でも、最初は飛行機からの投下爆弾をまず完成しています。次に、それを小型化して、弾道ミサイルに搭載することになるでしょうね。イスラエルの場合は、スーツケース核爆弾を完成して、それをモスクワに通告して、ソ連からの核攻撃を抑止したともいわれていますよ」
【解説ページ】●航空機による核爆撃ミッション
航空機が、投下爆弾によって敵国の政治都市に核爆撃を行なう場合、電子的な「目潰し」と、運用上の「撹乱」が成功の鍵となります。
まず敵軍の地上のレーダーや迎撃機のレーダーを妨害してやらなければなりません。このためには、核爆弾を搭載した飛行機の前と横に、敵レーダーの妨害を専門に行なう飛行機を先行させます。しかもそれらのレーダー妨害用航空機は、核爆撃機とはまったく別の飛行場から発進させて、囮りの役割もになう。たとえば核爆撃機が青森県の三沢基地から飛び立つとすれば、レーダー妨害機は青森県からはずっと離れた沖縄基地などから飛び立たせることになるでしょう。
このとき、真の核爆撃機がどれか、敵に分からないようにするため、あらゆる航空基地から、それらしい飛行機を発進させ、日本がどの目標をどのようなコースで狙うのか、誰も正確に判断ができないようにも仕向けるのです。
このような攻撃技法は、米軍がもう何十年も前から完成させているものです。日本の自衛隊は、米軍からそれを学べる立場にあります。
ちなみに中国軍の電子戦技術は、西側に一世代以上遅れた旧式なものです。最先端の電子妨害を受ければ、沿岸諸都市はもちろん、首都北京の防空も成り立たないだろうと見積もられています。