没シナリオ大全集 part 4.2


●”■×”(数字)  『天雷は誰が意志なる』


自分で解説:この小品の取材のために、朝日新聞社の上の方の階にある、日本滑空協会だかなんとかいうところまで、一回話を聞きにいったことを思い出す。後に加藤健二郎さんがグライダーをやっていたと聞いて、私は「こんな作品を発表しないでよかった」とホッとしたものだ。

Part 1:異端審問所


○セルビア=ボスニア国境にある、セルビア軍占領下の町

ネーム「セルビア軍占領下のボスニア南東部の町」

○町の裏山
○その頂にある、戦火で半壊したイスラーム寺院
○その寺院の煉瓦造りの古めかしい地下
 俄造りの牢房が並ぶ廊下。
 牢の中は一般市民で一杯。
 その廊下にいきなり人間の悲鳴が響きわたる。

○地下牢の一室

 壁には吊り鈎、頭粉砕機、喉切りナイフなどが掛け並べられている。
 責め道具を手にした司教や獄吏がボスニア人の被疑者の男を取り調べている。
 男は体中に拷問された跡がある。

審問官1「さあ言えっ、貴様はギリシャ教会を信奉する異端の派だろうっ!」

被疑者「分からねえ!三位一体だろうと一人格だろうと、に、二元論だろうと…俺みたいな商人に全体それが何の関係があるんで!?」

審問官2「サタンに魂を売渡せし者よ…世紀末ビザンチンの覇者たるべきセルビア正教徒の使命を放擲するとは!」

審問官1「さては貴様、マケドニア教会派と見える。この者を処刑の塔へ…」

獄吏「はっ、司教さま!」

被疑者「(獄吏に連行されながら)そんな、俺はボスニアから一歩も外へ出たことはねえんだ!」

審問官2「落下クシ刺しの上、屍体は曝し物とする。…次の異端者をこれへ!」

 別の獄吏が次の若者を部屋に引き立ててくる。

若者「(拷問台の上の血糊を見て)…!!」

審問官1「これからお前の異端審問を始める」

○イスラム教会の尖塔(処刑の塔)
 トルコ様式の塔の頂上付近に窓がある。
 手足を縛られ、鞠のようにされた先程の被疑者の男が窓から蹴り落とされる。
窓の下、数十mの塔壁に、カギ針が設けられている。
 被疑者、そこにクシ刺しとなり、宙ぶらりのまま悶絶。
 周囲のカギ針には同様のボスニア人腐乱死体が数体見られる。
 上空で鳥が舞い騒ぐ。
 [※註:オスマントルコ治下のユーゴで本当にこんな処刑法が行われたそうです。]

ネーム「旧ユーゴスラビアは、正教(セルビア人など)、カトリック(クロアチア人など)、イスラーム(ボスニア人など)が相争う宗教戦争の場と化している。バチカンがクロアチアのカトリック教会をもそのヒエラルキーに組込んでいるのに比し、正教会は、ギリシャ、ロシア、マケドニア、セルビア、ブルガリア、ルーマニア等がそれぞれ独立のドグマを保持し、同教同士、反目すらある。」[※註:“ヒエラルキー”“ドグマ”などは元々はカトリック教会の用語です。]

Part 2

戻る