●”■×”(数字)  『北緯九十度のハッティ』

脚本/さいとうひろし

自分で解説:脚本では、中途で種をまいておき、ラストで刈り取る、という手法をよくやります。ところが、都合によりラストを端折ってしまうとどうなるか?
 撒いたタネの意味が分らなくなっちゃうんですよね。その実例がこいつです。お待ちかね、「あの原潜のオリジナルの案はどうなっていたのだ?」とのリクエストにお答えし、超ヒマな貴方にだけ、こっそりとお見せしよう。これが、原案でした!

Part 1:極圏への出港


灰色の空に海鳥が飛び回っている。
 白海に面する真冬(2〜3月)の軍港に、一隻の攻撃型原潜(=魚雷を主兵装とし、敵のSLMB搭載戦略原潜を追尾・撃沈する任務のハンター原潜)が停泊している。
 艦形は概略“アルファ型”類似で、艦のほぼ中央に涙滴型の司令塔(セイル)が建っているが、その司令塔から左右に潜舵[水平尾翼のようなもの]が突き出ているところが、西側潜水艦にも似ている[あくまで架空の艦型]。
 艦の湾曲した外殻(甲板)上では命綱とライフジャケットをつけた水兵がもやい綱をはずし、それを桟橋の動力キャプスタンが巻きとっている。
 潜水艦の司令塔の上では、艦長が外を見ながらプレストーク式ハンドマイクを握り、直下の発令所(=司令塔直下、潜望鏡がある場所。操舵室兼管制室がその直後の区画内にある)にいる副長、航海長らに出港の準備を指示している。

 狭苦しい発令所。

副長「(ヘッドフォンに片耳を当てながら、マイクに向かって復唱)炉心臨界!」

 司令塔頂部。

艦長「(港の出口を見晴らしながらハンドマイクに向かって)よし。これよりわれわれはロシア共和国海軍の原潜ポリニア号としての最後の航海に出発する」

 発令所。

スピーカー(艦長の声)「…神の加護を祈ろう」

副長「微速前進、湾口通過後、潜航する」

 と、艦長、司令塔上部から発令所に降りてくる。

艦長「もう一度、全てのバルブと継手の点検を実施しておきたいな、副長」

副長「艦長、今回は策敵行動ではなく軍令にも基づかないため、一直分の水兵を集めるのがやっとでした。将校は放射能漏れを恐れ、更に少ない割合しか乗組んでおりません」
[※註:原潜クルーは普通8時間づつ3班が交替で勤務するが、その1/3しかいないということ。]

艦長「ほんとうか?なぜ、報告しなかった」

副長「当然ご存じと思いまして…」

艦長「そうか…道理で艦隊司令に警備強化を念押ししてもムダだったわけだな。そんな潮気の抜けたヤツらに用は無いが…ますます神頼みになるな…」

 と、インド海軍武官の格好の●”■×”が、発令所の隅にじっと立っているのが見える。

副長「艦長、あのインド海軍武官、乗艦以来この発令所を動こうとしないんですが…」

艦長「気にするな。テロ警戒とは名目で、この機会に原潜の操艦の実際を少しでも学び取る気なんだろう。多分もの珍しさに圧倒され、我々の会話も聞いちゃおらん」

 見送る者とて無い桟橋を離れたポリニア号、警備艇に先導されて湾口の防波堤を超え、数カ所から蒸気を噴出しながら、徐々に潜航していく。
 その行く先には防波堤と湾口、さらにその先には寒々とした北極海が…。

管理人:レイアウトは色々(細々と)変えてます。
どれが一番読みやすかったか、教えて下さいね。
私のディスプレ、何か調子が悪いんです^^;

Part 2

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