没シナリオ大全集 Part 5.2


●”■×”(数字) 『K計画』


自分で解説:改めて思うのだが、ホントにオレって核兵器の話が好きだよね。そして、これを読んでいるCIAの手先の方も、相当お好きだろうと思います。私は諸君らの期待に応えよう。

Part 1:北の丸の異変


(大学校舎風の建物の外観。四角枠付きネーム「神田女子大学大学院」。その建物の内部の廊下。その廊下の途中に、画像情報処理工学研究室と表札のある部屋。ドアに行先表示板あり、その在室の欄には、専任講師・吉崎公江および院生・小松輝子の2名分のマグネット付き名札が貼られている。)

(その部屋の内部。カタカタ…カタンカタン…という読取装置の音が満ちている。壁際にはコンピューターやディスプレイ、プロッターがズラリと並んでいる。その中央の、マルチスペクトル・ビュワーと書かれた大画面ディスプレイに見入っている二人の白衣を羽織った20代前半の女性。前で椅子に腰掛けてマウスを操作しているのはこの研究室所属の院生、小松輝子。髪はボブヘアで、だらしなく着た白衣の下はTシャツにジーンズ、サンダル履き。大学院生というより体育会系女子高生の感じ。その背後に立って輝子に操作をいろいろ指示しているのは、研究室所属の専任講師(=助手と助教授の中間の地位)、吉崎公江。公江は輝子とは対照的な雰囲気である。すなわち髪はソバージュのロングヘアをヘアバンドでオールバックにし、眼鏡をかけ、きちんと着た白衣の下はブラウスにスカート。ただし靴はスニーカー。なお、身長は二人とも170センチちかい。)

(ディスプレイになにやら文字列が現われる)

小松輝子
「吉崎先輩、新しい解析ソフトが立ち上がりました。」

吉崎公江
「それではSAR(※合成開口レーダー)画像を併用した水文判読の実例をみせるわね。このソフトが使えるようになる前は、さっきのスポット(※フランスの測地衛星)やランドサット(※アメリカの測地衛星)から取得した赤外写真からの森林判読で使ったカラー階調強調画像に、古地図を重ねて推測していたのよ」

小松輝子
「えーと、“ふよう”(※平成4年打ち上げの日本の最新の資源探査衛星)からの新着ファイルにクリックするんですね」

公江
「そう、読み出し展開が終ったら、範囲指定してそこを拡大してみて。それがどこか分かるかしら、小松さん?」

(濠と道路の形から皇居周辺らしいと判る画像がおぼろにあらわれる)

輝子
「…あ、これ、江戸城の北の丸公園でしょ、先輩。武道館がある!」

公江(画面を指さしながら)
「ピンポーン。慣れないうちは見分けにくいかもしれないけど、これが科学技術館、これが国立公文書館、ここは乾[いぬい]濠で、こっちが平川濠。中雀[ちゅうじゃく]門、大手門は写ってなくて、一ツ橋はこのあたりね。…小松さん、カーソルを使って、北の丸と本丸を画面に入れてみて。」

輝子
「江戸城の天守閣の石積みの台が残っているところが本丸でしたよね」

公江
「もう一段倍率を上げて。相当粗くなるけど…」

(画面の部分アップ。平地の中に、何か人工的な、ところどころ屈折した直線が変色して浮び上がる)

輝子
「吉崎先輩、この色違いの線は何でしょうか?これ、地下の埋設物を示してるんでしょう?…スケールは電話やガスの共同溝以上ありそう。でも、そんなトンネルは皇居の地下にはないはずですよね?」

公江
「やはり変だと思う?実はそれについてあなたの意見を聞いてみたいと思って…。前から森林分析用の赤外スペクトル画像には線状に樹勢劣化が読み取れたのよ。でもそれは公園管理の失敗だと思っていたのね。ところが最近、SARとこの解析ソフトを使って調べ直してみると、やっぱり去年から何かの地下工事が、北の丸公園の方からだんだんにのびてきているようなの。」

輝子
「それじゃその工事で水脈が変化したか、トンネル凝固剤の影響で、地上の植生に悪影響がでているのかもしれませんね。で、その工事は何なのか、官庁にはもう問い合わされましたか?」

公江
「公園を管理している環境庁や宮内庁にも聞いてみたたけど、どこでも、皇居近辺の地下でそのような工事はありえない、という回答だったわ。」

輝子
「変な話ですねえ、先輩。民間衛星のSARにこんなにはっきり写し出されるような人工の地下構造を、どこの官庁も知らないなんて…」

公江
「小松さん、たしかあなたのお祖父さま、宮内庁関係の工事を戦前から一社特命で請け負っている、大洋寺建設の会長さんよね?」

輝子
「ええ。あ、そっか、それじゃ家に帰ったら尋ねてみます。もしかしたらそのあたりの事情に詳しいかもしれないしィ…」

公江
「お願いできるかしら。私も現地を調べてみようと思うの。もし無届けの違法な工事で公園の貴重な自然環境が破壊されているとしたら、“都心の自然を守る会”のシニアメンバーとしても黙っていられないわ。」

輝子
「あ、そうでしたよね。先輩も助教授昇進を控えてお忙しいのに偉いですよね。そのうえ私みたいな出来の悪い院生の論文指導もしなくちゃならないし…」

公江
「同門の研究者が助け合うのはとうぜんよ。さあ、今日はもう閉めて帰りましょうか。最後に今の画像をプリントアウトしてから電源を落して頂戴。」
(と白衣を脱ぎはじめる)

輝子(椅子から立ち上り)
「はい。おつかれさまでした」


(夜。平川門から武道館の横を通って北の丸公園に入って行こうとする公江。武道館にはヘビメタロックバンドのコンサートを知らせる横断幕がかかり、多数のそれっぽいファンの若者が入場を待って周辺にたむろしてにぎやか。公江、『この歩道の夜7時以降の通行を禁止します/環境庁』というサインボードを無視して公園の中に入る。暗く、薄気味悪い林のなか。)

公江
『武道館の喧噪もここまでは届いてこないわね。』

(さらに林の中の歩道を奥へ進む公江。公園内のあちこちに工事用の鉄パイプで枠が組まれ、そこに内郷土木(株)と大書されたシートが張られて仕切りができている。そこには、“公園整備工事中、ご迷惑をおかけします”という貼紙も目に付く。)

公江
『内郷土木…。去年からずっと工事を続けているみたいだけど…。たしか、大洋寺建設の子会社だったわね。』

(さらに薄暗く気味わるい公園内の舗道を歩き、科学技術館の近くに至る公江。そこにはひときわ大きい掘削機械が置いてあり、周囲にフェンスがめぐらされている。“科学技術館下水改修工事”との表示板。その前に立つ公江。)

公江
『衛星画像では、トンネルの発端はこのあたりになるはず』
(と、フェンスの中をのぞきこむ。“危険、近付いてはいけません”という掌をひろげた人の絵入りの貼紙に一瞬ギョッとさせられる)

(公江の後ろから3人の人影が近付く。一人は警備員として市販されている伸縮棒を持っている。3人とも公江よりずっと小柄で中学生くらいの体型。)

公江
『やっぱり間違いない。表向き下水改修といいながら、ここから北はね橋門の方へ深いトンネルが出来ているんだわ。それにしても一体誰が何の目的で…?』

(皮手袋をした細い手で降り上げられる凶器)

(公江の後頭部に警棒が振り降ろされ、鈍い音とともに公江、昏倒する。3人のうち金属棒を持っていない二人が、意識のない公江を公園の薮のなかに引きずりこむ)

(公江の周りを取り囲むように立つ3人の少年。)

少年A(アバタ、モヒカン、破れTシャツ、ジーンズにライダーブーツ。身長は公江より低い)
「兄ィ。高学歴、高身長、お高くとまってる三高女ってのはコイツですかい?」

少年B(頭髪がオールバックで眉を剃っている以外はAと似た身なり。身長は最も低い)
「この腰つき、チョー好みだぜ、オレ」

少年C(スキンヘッドにグラサン、ド派手なプリントのある皮ジャン。顔の風格はリーダー格だがそれでも中学生。身長はAより高いが公江より低い)
「ドーテー野郎が知った風なことくっちゃべってんじゃねェぞコラ。時間がねえ、さっさと終らせねェかョ」

少年A(少年Bとともにチャックを下げながら)
「ひ、人は来ないでしょうね、兄ィ」

少年C
「見張ってるから急げ、タコ。きっちりすませねえとオレが社長の前でヤキいれられンだからな!」

(倒れている公江の意識のない青白い顔。頭部からはまださかんに出血中。そばに立っている少年の足下に、脱いだジーンズがずりおちる)

(公園の叢林の樹上の巣の中で目をさましたカラスがギャーッと鳴く。)

Part 2

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