●”■×”(数字)  『K計画』

没シナリオ大全集 Part 5.2


Part 3:狙われた女


(ナトリウムランプが点々とともる、トンネルの天井。内部は湿気でガスっている。『旧江戸城天守台地下80メートル』という枠囲い付きネーム。床にはトロッコのレールがゆるやかなトンネルのカーブに沿って敷かれている。両脇の壁際には、梱包された大小のプラント部品が整然と積み上げられている。床、壁には大小の配管がレールと並行に走っている。)

(木箱で梱包された大きな荷物、実はバラバラにされた水爆製造プラントがトロッコに載せられて、内郷土木(株)の縫い取りのある作業服を着たイラン人の人夫たちに押されて次々と通りすぎる。その前に図面を拡げて立ち、大声で指図している内郷一鬼。)

内郷
「ご苦労、その梱包は3番坑の切り端へ運べ!降ろすときに大きな音はたてるなよ!」

作業員A
「アイ、サー、シャチョー!」
(押しながら去る。内郷は黒表紙のチェックリストに印をつけている)

(去ったトロッコとすれちがいに、ヘッドランプ付きの安全作業帽をかぶった背広姿の男数人が暗いトンネルの奥から現われ、内郷の背後に歩いて近付いてくる。その内の一番貫禄のある老人が元首相・山科。他はそのお供といった風体)

山科
「内郷君、工事の進捗状況はどうか?」

内郷(ふりむいて)
「これは山科先生、わざわざこの地下工場までご来駕を賜るとは恐縮です。はっ、プラント室は予定どおり竣工しまして、あとは二三の補機類の据付けを待つばかりです。ただいまは支援施設用分室の拡充を急いでおります」

山科(満足そうに)
「そうか。そのプラント室はどこかな?」

内郷
「ご案内いたします。このすぐ先でございまして、既に主プラントの構成に関しては9分どおり出来上がりつつあります」
(先にたって歩き出す)

山科(トンネルの天井などを見回しながら)
「げにも最高の立地よ!皇居の下なら地下鉄も共同溝も通っておらん。水道工事やガス工事で掘り返される心配もない。ガイガーカウンターで計って歩くやつもいない。万一アメリカに知られてもステルス爆撃機すら手出しできん。北朝鮮の山の中とは違う。東京のど真ん中にあるのじゃからな。」

内郷
「こちらでございます」

山科(お供といっしょに驚いた顔のアップで)
「おう!」

(俄然広い空間。ここだけ照明が明るい。中央に水爆製造プラントが調整作業中。メガネをかけた日本人作業員数人が計器を読んでいる。床には取付けを待つ部品が梱包から取り出されて置かれている。部屋の向こう側には別方向へ通じているトンネルの穴が二三個見える)

山科
「これだけのプラント、どうやって運び込んだ?」

内郷
「科学技術館の備品や展示物として怪しまれずに搬入し、昼夜突貫で据え付けました。」

山科
「さすがは融通無げな民間会社だ。バカな官僚どもにはこうも鮮やかにはいかん」

内郷
「過褒にあずかりまして…」

山科
「とにかく一日も早く、国産の核ミサイルを持ってしまうことだよ。それを既製事実として大衆の前に提示すれば、日本人は本来の国家の姿に目覚め、世論はみな啓水会についてくる。」

内郷
「はい。そして第2次山科内閣成立の暁には、先生の列島環境美化事業のため、不肖内郷、社をあげて粉骨砕心、協力させていただく所存であります」

山科
「維新だ。ふたたび維新が起こるのだ。」

(内郷、山科の話を聞きながら、反対側のトンネル口にたむろする3人の早熟不良少年を見つける)

山科の秘書
「先生、そろそろクリムゾンホテルで経団連との懇話会出席のお時間が迫っております」

山科
「よっしゃ。内郷君、国産第1号の水爆が完成したときには、また連絡してくれよ。ぜひ立ち会いたいのでな。それではしっかりたのむぞ。」
(供をつれて去る。内郷、腰を折って見送る)

(内郷、指を立て、リーダー格の少年Cを壁際に招く。)
(内郷の前に来たCはおどおどしている。)

内郷
「この前やった仕事代は、使ってしまったか?」

少年C
「は、はい…。すんません」

内郷
「あやまることはないぞ。ただ一度に大金を使って警察に勘ぐられてもいかん。3人で少しづつ使うように、お前が管理するんだ。いいな」
(内郷、ギロリと睨む。)

少年C
「はい…」
(ビビるC。そのCの目の前に札束が差し出される。)

少年C(両手で鞠しながら)
「社長、こ、これは…?」

内郷
「次の仕事の分だ。…また“三高女”とイッパツやらせてやる。」

(内郷の顔を上目使いにうかがう少年Cの目が妖しく輝く)

内郷
「今度は殺さない方がいいな。そのかわり、女が失神するまでたっぷりと楽しませてもらえ」

少年C
「オ、オスッ!」


(大手町の通り。しかし人気無し。通行車もいない。そこを1台の普通乗用車がやってくる。一人で運転しているのは輝子。)

輝子
「さすがに休祭日の大手町は人気がなくなるわね」

(大洋寺ビル第2立体駐車場とかかれた入口から車を入れる輝子。そのすぐ後ろから車体のあちこちがへこんでいる盗難車くさいライトエースが登ってきて輝子の車のすぐ近くに駐車。輝子、車をおりてエレベーターに向かう。ライトエースから少年ABC現われ、輝子をとり囲む)

輝子
「…!」

少年C
「ねエちゃんよ、オレ達の車でいいことしねえか?」

少年B
「兄ィ、やっぱ女の髪はロングじゃなきゃ、あ、あそこがいくら名器でもイマイチっすよ」

少年A
「ナマいってんじゃネェぞチンカス小僧が。だけどよ、アンタ、結構いい胸してるじゃん。ホンモノか、これ?」
(さわろうとする)

輝子(手を跳ねのけて)
「なにするのっ、あなたたち、まだ中学生でしょっ!」

少年A
「ヘヘヘーッ、中坊でもカルピスの中にゃ、ちゃんとオタマジャクシが泳いでるぜ。それよりアンタ、ひょっとしてまだ処女かァ?」

少年B
「オ、オレ、小6だけどもうバッチシ大人だぜ!ほらっ」
(とチャックを下げる)

輝子
「あきれた、ナリばかりでかくなってオツムはニワトリ以下じゃないの、最近のガキは!」

少年A(パンク風のクサリをジャラつかせながら)
「兄貴、こいつブスのくせしやがってナマなスケですぜ。早くひん剥いて兄ィの得意の腰使いで泣かせてやってくださいよ。俺は兄ィの次でいいっスから」

少年C
「ワカルかネーチャン?こいつら女に飢えてんだヨ。チビの落ちこぼれ相手じゃ燃えネエかも知れねえが、ひとつその長いアンヨの間で、オレ達の溜ってる欲求を残らず吸いとってくれや。…イヤとはいわせねえぜ」
(と、伸縮警棒をジャキンと延ばす)

(輝子、ライトエースの方を一瞥する。開いているドアから、中に手錠やロープやガムテープ、カセットレコーダー、ビデオカメラなどが準備されているのが見える。)

輝子
「冗談もそのへんにしないと警察を呼ぶわよ!」

少年C
「フン、よびなよ。マッポがくる頃にゃ三人ともイッちまったあとサ。仮につかまってもオレたち全員、13才未満なんだぜ」

少年A(Tシャツを脱ぎながら)
「ヘへッ、そうよ!13才未満じゃゴーカンしようがヒトゴロシしようが保護観察止まりにしかならねェ。知ってっか、ネエちゃん」

少年B
「兄ィ、こんどはオレに、バ、バックでさせてくれよォ」
(と、輝子の腰に抱きつく。)

(輝子、少年Bを突き飛ばして下の方に走り出す。Tシャツが一部引きちぎれる)

少年A
「コラ、観念して素直に股おっぴろげねえ、ハラにケリ入れて顔面グシャグシャにすンぞ!」
(と、右手に鋭いスパイクの突き出したナックルダスターを装着しながら追いかける)

少年C
(少年Bを蹴飛ばし)
「絶対に逃すな!ハデにキズモンにしろっていう社長の命令なんだからな!」
(延ばした金属警棒を持って追いかける。少年Bは太いアイスピックを握り締めてこけつまろびつ続行する。)

(立体駐車場の途中の誰もいない階。小型双眼鏡。皇居方向の地形を見ている。サングラスをかけた●”■×”(数字)だ。双眼鏡を降ろし、葉巻に火をつけた●”■×”は、しばし沈思黙考している。)

(輝子が上のフロアからかけおりてくる)

輝子(●”■×”の後ろ姿にむかって)
「助けて、そこの人!」

(●”■×”、横目で見る。輝子の後から凶器を持った3人の少年が追いかけてくるのに気付く)

(輝子、●”■×”の体にしがみつく。後から少年ABC、わらわらと現われて●”■×”と輝子を取り囲む。)

少年C(アゴでしゃくって)
「消えろや、オッサン!」

(●”■×”、少年Cを見返す。●”■×”の面構えをみて一瞬ひるむ少年C)

少年C
「ど、どきくさらねえなら、こいつにも血ィみせたれっ!」
(と、自らはカッターナイフを左手で抜き、Aをけしかける)

(少年A、●”■×”にチェーンでなぐりかかる。●”■×”、反撃してABCを叩き伏せる。そこへ通報で駆けつけた警官4人が上がってくる。)

警官A(警棒を片手にドヤドヤと走り来たりながら)
「おいこら、警察だ!」

警官B(まぬけた感じで)
「け、怪我人はいませんか?」

(血まみれになってのたうっている少年ABCと、呼吸も乱れず厳然と立っている●”■×”、ガタガタ震えて失禁している輝子を交互に見つつ、しばし言葉のない警官たち。)

(そのとき、●”■×”の立っていたところの近くに止めてあった外交官ナンバーのアメ車のドアが開き、一人の身なりの良いでかい黒人が降りてくる。警官達、注目。)

黒人(身分証明書を提示しながら)
「日本の警察の皆さん、ご苦労さまです。私は合衆国大使館の1等書記官、マシュウ・イッキーズです。この男性デ○ーク○郷は、アメリカ政府から外交官パスポートを支給され、大使館員に準ずる身分が保証されています。本正当防衛に関する事情聴取をなさりたい場合は、後ほど大使館窓口を通してお願いします。さあ名刺をどうぞ。」
(黒人の背広の内側にショルダーホルスターとスナブノーズマグナム拳銃のグリップがのぞきみえる)

(警官が首を寄せ合って、渡された名刺を見ている間に、●”■×”と黒人はさっさとアメ車にのりこみ、立体駐車場を出てゆく。)


(夕方。警視庁を後方に見て走りゆくリムジンの後席。輝子は両手で顔を覆い、両膝の間に深くうなだれた姿勢のまま黙っている。となりに父、小松京三。)

小松京三
「…病院にかつぎこまれた3人のおそろしい小中学生だが、警察の話によると、一人は左眼球破裂で失明、一人は肋骨2本骨折、一人は前歯を全部折られて顎間接を脱臼していたそうだ。…あのデ○ーク○郷という男、どんなワルでも少年を殺せば日本の司法は過剰防衛に問うことを知っとったのだな。あれでも手加減したのだよ。」
(輝子を見る。相変わらずうずくまったまま、無反応。)

小松京三
「…さらに驚くべきことだが、3人はその体で病院から逃亡しおった。警察は血液型の一致から、吉崎公江さんを襲ったのは彼らだと断定して、現在指名手配の手続きをとっているそうだよ。」

(輝子、はじめて顔をあげ、京三を見る)

(二人を乗せたリムジンのすぐ後ろから、●”■×”の運転する乗用車がついていく。)


(夜。東京湾に注ぐ川岸の倉庫街。街灯の光を避けるように、全身ボロボロ、汗まみれの少年A,Bがぐったりと身を寄せ合っている。そこへやはりアザと傷の生々しい少年Cが足を引きずりながら小走りにやってくる。)

少年C(A,Bに歩み寄りながら)
「い、いま社長に電話して、どこかへかくまってくれるように頼んだ。すぐ迎えがくるぜ」

(幌付きのトラックが倉庫の近くに来て止まる。3人、フラフラとその前に出ていく。トラックの運転席と荷台から作業服を着た3人の屈強そうな男が降りてくるが逆光で顔等わからない。助手席に一人残った背広の男がぶざまな格好の少年達に視線を向ける。苦々しく不快そうな内郷一鬼である。Cを前に立て、何も言えず内郷に哀れみを乞うような少年たちの表情。)


(早朝の海。横浜ベイブリッジと工事中の東京湾大橋が見える羽田沖である。近海用小型漁船の甲板でキャプスタンを使って網をたぐり揚げる老漁師。魚とともに海面から上がってきたのは、黄色と黒のまだらの工事結界用ロープで首を鈴なりにくくられ、腰から下には鎖を巻き付けられた少年ABCの水死体。)

Part 4

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