●”■×”(数字)  『K計画』

没シナリオ大全集 Part 5.2


Part 4:藤堂高虎の間歩(まぶ)


(深夜。丸の内の大洋寺建設・本社ビル。1階フロアは非常灯のみがついていて、日曜なので受け付けもおらず、社員の姿も全く見えない。そのビルの地下の機械室のようなところ。鉄製階段の脇に“B2 関係者以外立入り禁止”との表示板あり。小松京三と孫娘・輝子の二人が、古い錠前のかかった鉄扉の前に立っている。)

小松京三(厳粛な顔つきで)
「あんなことのあった直後だが、どうしても今週末中に教えておかなくてはならないことがあってな。昼間もそのためにこの本社ビルに呼んだのだ」
(と、鍵を使って錠前を外す。ガチャンと大きな音が響く。)

輝子(腕組みをしながら父親が扉を開けるのを見ている)
「…?」

(ギギ…ときしみながら扉が開く。京三、蝋燭に火をつける。地下に通じる石段が浮かびあがる。)

輝子
「これなに?…トンネル?」

京三
「そうだ。説明はちと長くなるが、しまいまで聞いてくれ、輝子。」

輝子(固唾を飲む)
「え、ええ…」

京三
「…いま武道館のある北の丸一帯が、明治以来敗戦まで陸軍近衛歩兵師団の営じゅ地であったことは、最近の若者は知らぬことと思う。」

(輝子、京三を見つめ黙って聞いている)

京三
「…そして当時の本丸は近衛工兵の練兵場に使われておった…。」(ここから絵は当時を描写)
「…最初の帝都防空演習で坑道掘削訓練を実施した時だ。偶然に江戸時代の地下道の跡が発掘された。調べてみると、トンネルは徒士が1列縦隊で楽に走り抜けられるほどの広さで、本丸から二の丸の藤堂家上屋敷の井戸の跡まで通じる本格的なものであった。時の近衛師団長は秘かにこれを復旧させたばかりか、さらに独断で北の丸、西の丸方面にも拡充し、将来の皇城守護に役立てようと考えた。」
「…トンネルは江戸城の今の区画を決定したといわれる藤堂高虎にちなみ、高虎間歩[=地下道のこと]と名付けられ、代々の近衛師団長がその管理を引き継いでおった。」
「ところが2.26事件で、この高虎間歩を使って某皇族を皇居内に導きいれようとする陰謀が画策されていたことが発覚したのだ。」

(ここで絵は現実時間に戻る)
輝子
「ウソ…そんなこと、どこの教科書にも書いてない…」

京三
「その計画の張本人こそ、青年将校グループの外部のシンパ、小松蔵人、つまりこのわしの親父よ。」(ふたたび、絵は過去の描写。)
「蔵人の計画は机上案にすぎなかったが、公に知られれば連座は免れぬ。しかし時の戒厳参謀の一人、吉崎保のはからいで、蔵人は見逃されたのだ。」

輝子
「まさかその人と、死んだ吉崎先輩とは、ひょっとして…?」

京三
「そう、血縁、それも吉崎家の最後の生き残りであった。…わし自身も、無実のBC級戦犯に問われたときに吉崎さんに助けられておる。しかし戦後のゴタゴタ、会社のこと、おまえの父の急逝などもあって、とうとう小松家は吉崎家に恩返しができなかった…。」

輝子
「しらなかった…。そういえば先輩、自分には実家がないって寂しそうに話してたっけ…」

京三
「事件の直後、高虎間歩は吉崎保大佐が秘かに埋め戻させた。ところが厄介なことに、戦後になってそのトンネルの秘密を知り、だいそれた再利用を計る者が現われたのだ。」


(同時刻の夜、雨にうたれて街路に立つ決然たる内郷の顔のアップ。背広姿の内郷は、3人の少年を殺したときに登場した幌付きトラックの開け放たれた助手席ドアの前に立っている。トラックが停車しているのは丸の内の大洋寺建設本社ビルの前。その荷台から5、6人、体格のいいきちんとした作業服の男達がバラバラと降り立つ。)


(地下室。京三の話が続いている。輝子は下を向いて首を振っている。)

輝子
「…ひどい。先輩は、偶然にその“K計画”に巻き込まれてしまったのね…!」
(京三に向き直り)
「で、おじいちゃん。この丸の内の地下道は、その北の丸からのトンネルと何か関係があるの?」

京三
「大いにあるとも。それはな…」


(雨の大洋寺建設本社ビル前の路上。)

(トラックから出てきた作業服の男達の手にはバール、スパナなどが握られている。内郷一鬼は懐からトカレフ拳銃を抜く。)

内郷
「裏の社員通用口から入るぞ!合鍵は俺が持ってる。こっちだ!」
(男達の先頭にたって、ビル脇の社員通用口に走る)


(再び地下室。京三は輝子に重大な秘密を打ち明け終えたところ。)

輝子
「おじいちゃん、…よくわかったわ、このトンネルのことは。けど、こんな大事な秘密をなんで今、私なんかに打ち明けたのよ?」

京三
「輝子、小松家の者には責任があると思わぬか。昭和維新の真の精神を歪める者が現われたとき…」

声(内郷)
「フン、まだそんな寝言いってんのか。もうろくじじい、第2トンネルの入口を教えてくれて礼をいうぜ。でっかい孫といっしょなら初めての地獄旅行も安心だろう」

(京三、輝子、振り向く。部下をひきつれ、いつの間にか立っている内郷。手にはハンマーをコックしたトカレフが。)

京三
「輝子、坑道に入れ!」
(輝子をトンネルの階段へ突き飛ばす。すぐに内郷のトカレフが火を吹き、被弾した京三もトンネル内にころげ落ちる。)

内郷
「女を追え!じじいにもとどめをさすぞ!」
(内郷、部下と共に入口に殺到する)

内郷(部下の先頭をきって入口の暗闇に一歩踏み入れたところで)
「うぐっ!」
(部下、何事かとあとずさる)

(暗い入口から明るい地下室内によろめき戻った内郷は、瀕死の重傷を負っている京三によって、旧軍の軍刀で首を突き通されている。)

京三(渾身の力でかろうじて立ちながら)
「これが吉崎家への、せめてもの義理立て…」

内郷
「く…そじじい…!」
(口から血を吹いて絶命。仰向けに倒れる)

輝子
「じいちゃん!」(崩折れようとする京三を抱き、残りの部下から身を呈して庇う)

部下A
「おのれっ…!」

部下B
「よくも社長を!」

部下C
「殺せ!」

(残った部下たち、バールやスパナを持って一斉に2人に襲いかかる。)

(と、瞬時にして部下全員、頭を撃ち抜かれて床にころがる。鉄製階段の途中に、背嚢とM-16を背負い、予備弾倉のパウチを多数携行し、硝煙ただようサイレンサー付きチーフススペシャルを持った黒づくめの●”■×”(数字)。)

輝子
「あ、あなたが●”■×”(数字)なのね…!事情はすべて小松京三から聞いたわ。わたしは小松の孫娘の輝子です」

京三(輝子に抱きかかえられつつ)
「輝子、真の昭和維新の志を、つ、次の世代に継ぐのだ…!」
(絶命する)

(●”■×”、ツカツカと近寄り、京三の首に手を当て、死亡を確認してから、きびすを返して立ち去ろうとする)

輝子
「まって、どこへいくの?“K計画”を潰すように依頼されているんでしょう?」

●”■×”(立ち止まり)
「案内役に予定されていた男が死んだ。実行手順の変更に伴う時間を貰う」

輝子
「その必要はないわ。私が京三のかわりに手引きできます!」

●”■×”(黙って輝子を見返す)
「…」


(ヘッドランプとカンテラを頼りに、長いトンネルの階段を降りていく輝子と●”■×”(数字)。トンネル内面は第1トンネルと違い、煉瓦で固めてある。なお、後で出てくるリセス部分だけは崩れかけた石垣積み。以下しばらく石段を降りながらの会話。)

輝子
「坑道のところどころに江戸時代の武器蔵や武者溜りのようなリセスが、石積みのままで残されてるの。そこは幕末から旧軍時代までの刀剣や手榴弾なんかも見つかるんですって。」

●”■×”
「このトンネルが掘られたのは?」

輝子
「啓水会が水爆工場にしている“高虎間歩”とは別に、戦前、東京憲兵司令部は第2の江戸時代の抜け穴の跡を発見し、宮内省[←かつては省だった]の内諾を得て、当時の大洋寺組に命じて秘かに修理・延長させたの。江戸城のもう一人のプランナーとされる本多正信の上屋敷跡まで通じていたので“本多隧廊”と呼ばれたそうよ」

●”■×”
「復活させた第2のトンネルの目的は?」

輝子
「近衛師団が第1のトンネルを悪用しないかを見張るためと、皇族の最悪の場合の退避用。第2トンネルは本丸の地下で第1トンネルに並行して走っていて、そこから何本か探査坑を延ばして聴音器で第1トンネル内の動静を監視したそうよ」

(下り石段が終り、水平坑になる。すぐ横手にひとつのリセスがある。)

●”■×”
「現在のこの第2トンネルの奥の方はどうなっている?改修当時のままか?」

輝子
「宮内庁の下水施設に揚水ポンプがあって、湧き水の排水だけは続けていたそうだけど…。くわしいことは、祖父が残した測量図を見て。この石室の中なの。」

(輝子につづき、●”■×”、石室の中にはいる。リセスの広さは6畳間くらいあり、内壁は石垣積みで奥の方は崩れかけている。壁際に古いサイドボードのようなもの、中央には古い大きな木のテーブルが置いてある。輝子、机上のランプに灯をつける。)

●”■×”
「これか」
(●”■×”、サイドボードから図面を入れる筒を取りあげ、中の図面をテーブルの上に拡げる。)[※別掲図参照]

輝子
「そうだわ。…ここが今いる石室。200m先で宮内庁方向へ分岐するけどあなたはまっすぐよ。トンネルは本丸の下で左折して、第1トンネルと並走するのね。50mごとに探査坑が掘られているけど、途中に崩落箇所があって、2番目の探査坑から皇居寄りの方には蓮池濠の水がすっかり入っちゃってる。」

●”■×”
(葉巻に火をつけ)
「…」

輝子
「あなたが見ても判ると思うけど、チャンスは一つしかないわ。この1本だけ水没しないで残っている探査坑の先端から第1トンネルに侵入し、50m隣りにある水没している探査坑のちょうど裏側にあたる壁面を爆破するのよ。そうすれば蓮池濠の泥水で第1トンネルは水爆プラントもろとも壊滅するわ。雨のおかげで濠の水位変化も目立たないはずよ」

●”■×”
「それが“水面下の解決”というわけか。」

輝子
「問題はあなたが、脱出の際に浸水よりも速く第1トンネルのどれかの出口にたどりつけるかどうかだけど…」

●”■×”
「プラント室の容積と第2トンネル乾燥部分への逆流がバッファーになるので時間は稼げるだろう。それより第1トンネルへの侵入だが…」

輝子
「切り端にはすでに祖父が手堀で蛇穴発破をしかけてあります。また、プラント破壊用の爆薬が足りなければ、このテーブルの下に鉱業用耐水ダイナマイトがあるわ。」

●”■×”
「必要ない。バックパックに十分量の軍用成形炸薬を携行している。」
(葉巻をテーブルに押し付けてもみ消す)

輝子
「それじゃ、ここでお別れね。祖父から教えられたことはすべてあなたに伝えたから。でも…」
(輝子、テーブルの下に潜る)

●”■×”
「…何をしている」

輝子
(●”■×”をフェラチオしながら)
「江戸城は世界最大面積の城塞で、今まで武力で落城させた者はいないの。その史上初の壮挙へのはなむけと、私を2度も助けてくれた男へのお礼…」

(●”■×”、無言で背嚢を降ろす。)

(ギシギシときしむテーブルの脚。その下には、2人の脱いだ衣類、背嚢、M-16、鉱業火薬などがある。)

輝子(からみながら)
「ああっ、はじめてなの、もっとゆっくり、でももっと深く…!おおーっ」

Part 5

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