没シナリオ大全集 Part 5.6


●”■×”(数字) 『(タイトル不明)』


自分で解説:タイトルは何だったかなぁ……? 『トロン』に刺激を受けて書いたものだと思います。

Part 1:ある男の破滅


(ロンドンのシティ。街角のキヨスクには株の続落をヘッドラインで報じる新聞が並んでいる。“IS DEPRESSION OVER?”などという見出しもある。近くの建物の中に、“グレアム&グレアム信託投資・管財人事務所”がある。オフィス内には数人の男女クラークが働いていて、帳簿やCRTモニターに向かっている。CRTモニターには“GROSS=NET SERVICE”の商標がある。一番奥に“ヘンリー・グレアム”とガラスに描かれた社長の個室がみえる。個室の中では、40代の品の良いビジネスマン、ヘンリーが大きな社長机の上で頭を抱えている。)

ヘンリー・グレアム
「ああジョージ、お前さえ生きていてくれたらこんなことには…」

(ヘンリー、机上の株価グラフから視線を移し、隅っこの写真スタンドを見やる。彼ともう一人の設立者、ジョージ・グレアムがこの室内で並んで撮影した時の記念写真だ。電話が鳴る。)

ヘンリー(電話のボタンを押し)
「何だ?」

電話を取次ぐ秘書の声
「グラスゴーのサー・アンドリュー・セシル様から火急のお問い合わせとのことで…」

ヘンリー
「い、いま私はアイルランドの友人の猟場に呼ばれて出掛けたところだと言え。一両日中にこちらから連絡するともな」

秘書の声
「わかりました。サー・アンドリュー様には左様ご返答申しあげます」

(ヘンリー、両手を頭の後ろで組み、椅子の背にのびをする。すると窓の下に黒塗りのセダンやってきて停車したのが目に入る。バタムという音がしてコート姿の男が出てくる。男はこの建物の入口に向かう。)

ヘンリー
「またあのバリスター(*)か!」

(※註:イギリスの弁護士はバリスターとソリシターに分かれ、前者は格式が高い。)

(クラーク達のオフィス。ヘンリーの個室のドアが開いて、コートと鞄を抱えたヘンリーが慌ただしく出口に向かう。)

ヘンリー(足早に通りすぎながら)
「諸君、急用ができた。2、3日留守にするが、こちらから定期的に電話するから心配無用だ!」

男性クラークA(CRTとヘンリーを交互に見つつ)
「グレアムさん、“グロス=ネット”がイタリア・リラの買い戻しを推奨しています!いかが致しましょうか?」

ヘンリー
「私の不在中は、1回10万ポンドを上限に君たちが相場を張れ。安全第一にな」

男性クラークA
「あっ、グレアムさん…!」

(ヘンリー、答えず出口から廊下へ。エレベーターには乗らず階段に消える。直後、エレベーターが開き、中から怒ったような顔の、さきほどのバリスターが出てきてオフィスの入口に向かう。)

(表通りに出たグレアム、すぐタクシーを拾う。ドアを開け、急いで乗り込む。)

ヘンリー(シートに深々と身を沈め、リアウィンドウ越しに後ろを見透かしつつ)
「オクスフォード!ゆっくりでいいから」

運転手
「長距離ですね。かしこまりました」

(タクシー、走り去る。まさにその場所に、さきほどのバリスターが小走りに追いかけてきて立ち止まり、ヘンリーの姿を探すようにあたりを見回す。逃げられたとわかって地団駄を踏むバリスター。)

Part 2

戻る