没シナリオ大全集 Part 


●”■×”(数字) 『μ[ミクロン]オーダー』


自分で解説:うんざりするほどFDから出てくる、これも「☆◇☆゛(数字)」の没になった原作でしょう。

○ 米国のある病院・集中治療室
 大病院の会長(72)である患者を、医師(45)、助手、看護婦らが見守っている。

助手「(オシロスコープを見ながら)の、脳死ですっ…!」

医師「遺言により、生命維持装置を解除する。臓器提供はネガティヴ。…皆ご苦労だった。休んでくれ」

 助手、看護婦らが集中治療室を出て行く。
 医師、額の汗を拭いながら、喉の乾きを癒そうと戸棚を開けて清涼飲料を探す。
 するとそこに、いつのまにか一人の背広の男・公認会計士のマカードル(41)が立っていて、栓抜きで瓶の蓋を開けダイエットコークを差し出す。

マカードル「あなたはベストを尽くしましたよ、ドクター」

医師「(驚きながらもコーラを受け取り)マカードル君か。このアメリカでは、弁護士よりも医師よりも、君のようなCPA(公認会計士)が大衆から最も信頼を置かれているそうだが…(コーラをラッパ飲みする)」

マカードル「光栄ですな…」

医師「しかし、この総合病院の経営コンサルティングを君達のファーム(大型監査法人)に任せた段階で、会長は今日の死を予約してしまったようだな…」

マカードル「ドクター、いきなり何をおっしゃるのです」

医師「私は今の地位に安んじているし、若い院長に食い込んだ君達を敵に回す気はない。ただ、脳外科医として木偶の棒ではないことも証明しておきたいんだ」

 医師、冷凍庫からシャーレを取り出し、マカードルにつきつける。

医師「カテーテルが患者…つまりこの故・会長の左側頭葉ブローカ中枢付近の中大脳動脈から吸い出した“スーパーバグ”だ」

マカードル「バグ[虫]?何も見えませんよ」

医師「とぼけるなら説明を続けよう。これは中国の一部にしかいない特殊な住血線虫だ!」

マカードル「ほう…」

医師「ナメクジを捕食したネズミが媒介し、ヒトに寄生すると脳を冒す。会長が失語症に陥ったのはトシのせいなんかじゃなかった!」

マカードル「おお怖!それは大変ですな。公衆衛生のためにも、すぐに保健局へ届出なすったら良いんじゃありませんか?」

医師「ついでに、こうも発表しようか。この線虫は、体半分が機械仕掛けの泳動装置になっているっ!」

マカードル「…」

医師「…会長は判断力は正常だったのに、このサイボーグ線虫1匹を植えられたために、経営者として抹殺されたとな!すべてはあの野心家の院長と…」

マカードル「おっと、そこまで!奇怪な寄生虫が出没するような総合病院なんて、市民は寄り付かなくなるでしょう?ようやく建て直りつつある病院経営も、破綻しますよ」

医師「ああ。そうなりゃ私も執刀停年の五十才でマイアミに隠退することができなくなっちまうってことさ」

マカードル「ではそのシャーレは焼却処理なさってください。会長が亡くなった以上、そのバグもお役御免です」

医師「本当だろうな?こんなもの、どうせ軍かどこかで開発したんだろう!実験室の外に持ち出すなんて君達、正気の沙汰じゃないぞ」

マカードル「あなたは偶然この虫を発見しましたがね、ドクター」

医師「…?」

マカードル「いままで脳の血管障害で引退したと思われている実力者の多くが、実はこのような“バグ”の犠牲者だったとしたらどうします?」

医師「(急に青ざめる)…!」

マカードル「あるいは、胃壁から心外膜に達して微弱電気を自己発電し、心不全を起こさせるもっと危ない種類も創られていたとしたら…?」

医師「…ウウーッ!(突如胃をおさえてうずくまる)」

 コーラの瓶が床に落ち、割れる。
 医師、早くも痙攣死状態。

マカードル「(治療室を出て行きながら)これでまた余剰固定費が削減され、この病院の経常損益が改善されるわけです」

○ 日本の某地方都市・夜景
 ネーム「西日本のある都市…」

○ 弱小部品会社・(株)羽田精密工業の経理室・夜
 税理士の小林(33)がオフィスの一角で帳簿や書類を繰って月次監査の最中。

小林『(驚いた表情で)何だって、前期にくらべ粗利が2.5倍に?ICチップの注文なんて最近は減らされている筈だし、…もしかして、粉飾…?』

経理係長(羽田社長の息子)「先生、何か…?」

小林「いや税理士の癖で、細かいところをつい…。まあ、気にせんで下さい」

 小林、電卓を叩き、ポケコンでグラフを出してみる。

小林『息子も知らないということは、社長みずからの粉飾か。…この分を修正すると、今期で売上高と借入金がほぼ並んだな。ここまで来た会社は…十中八九潰れる!』

小林「経理係長、あなたのお父さん、いや、羽田社長さんを呼んでください」


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