●”■×”(数字)  『μ[ミクロン]オーダー』

没シナリオ大全集 Part 6



○ 街の夜景
○ 先のオフィス内
 小林がタクシーで帰るのを窓から見下ろしている木目螺。
 隣りの部屋に通じるドアが開く。

マカードル「(ドアを開けて現われ)小林税理士は納得して帰ったようじゃないですか」

木目螺「…本当にうまくいくだろうか、この計画…?」

マカードル「何が心配なのです?日本の“ゼイリシ”といえば、従業員50人以下の零細企業から月に3〜4万円貰う、ただの帳簿付け屋にすぎんでしょう」

木目螺「いや小林は違う。中国進出企業の顧問実績があり、中国の公認会計士である“注冊会計師”の資格まで取っている勉強家だ。甘く見るな」

マカードル「いいですか、羽田社長さえその気になってしまえば、肩書マニアの小林ごときが企業主の意を翻すことはできない。我がCPAと違い、銀行から見放された社長を救う力は日本のゼイリシには無いからです!」

木目螺「あんたはいつも自信満々だ、マカードル」

マカードル「左様、日本がアメリカに勝てない人的側面が二つありましょうな。一つは政治家に法曹資格者が少なく、官僚に牛耳られていること。もう一つは企業のトップマネジメントに会計を身に付けた者がいないこと…」

木目螺「それは日本の普通科ハイスクールにはFP[ルビ=フィナンシャルプラニング]のクラスが無いので、しようがないのだ」

マカードル「経済大国としてお寒い話ですな。社長が会計を知らんということは、旅客機の機長が計器が読めないのに等しい。そんな生半可な経営者の工場を、経理の上から支配し、テイクオーバー[乗っ取り]することなど…」

木目螺「…造作もない、か?私もその生半可な経営者の一人というわけか」

マッカードル「いや木目螺社長、あなたは十分に賢明[ルビ=スマート]ですな。少なくとも自分であの“医療品”を量産しようとはしていない」

木目螺「チッ…!」

○ 雲海上を飛ぶ中華民航機・全姿
○ 機内
 並びのシートに、よそいきの格好の羽田社長と、いつもの格好の小林。

小林「チケットはちゃんと保存しておいて下さいよ、羽田社長」

羽田「分かってますって。1万円の領収書をなくすということは、法人税率で約4千円をドブに捨てると同じことなんでしょう。そんなことよりそろそろ中国よ、中国!」

小林「社長、もう一度冷静に考えた方が良いと思って、経営建て直し策を考えてみました(と、ブリーフケースからレポート用紙を取り出す)」

羽田「もういいじゃないですか。木目螺さんの会社から、きのう低利の融資を取付けたんですぜ!こうして月末にのんびり視察旅行ができるのも、そのおかげなんや」

小林「聞いて下さい。いま工場にある機械について増加償却の処理をします。そしてその試算表を作って銀行を説得し、銀行借入金で街金の高利の債務を返済してしまうんです…」

羽田「(遮るように)悪いけど小林先生。あんたら税理士さんの考え付く経営建て直し策ちゅうのは、いつもその程度や。私はしがない零細企業のオーナーですけど、私なりの才覚でいま起死回生の手を打とうとしてるんやないか!」

小林「…わかりました、羽田社長。もう何もいいません」

○ 飛び過ぎる中華民航機の後姿
○ 経済特区近くに造成されたローカル空港
 駐機している中華民航のコミュータ機を背景に、出迎えた地元の市の工業貿易合作公司の女性主任・蕃[ハン](42)と、小林、羽田が握手を交わしている。

蕃「ようこそ羽田社長、小林先生。飛行機の乗り継ぎ、お疲れ様です」

小林「(羽田社長に)工業貿易合作公司の実務主任の蕃さん…私の注冊会計師受験の先生でもあります」

羽田「…しかしこんな空港まで整備してしまうとは、さすが“臨空経済特区”を謳うだけあるわな」

蕃「では工場用地まで車でご案内しましょう」

次へ

戻る