●”■×”(数字) 『1マルクの神聖帝国』
没シナリオ大全集 part 6.1
Part 3:フランスの立場
(水平2連ショットガンの銃口から続けざまに2発のブラストと轟音。ここは中部ヨーロッパの某・狩猟場の午後。叢林に囲まれた池から鴨がバタバタ飛び上がろうとして再び水面に墜落する。お座りをしていたセッター犬が飛びだし、水に飛び込んでまだ生きている鴨をくわえ、泳ぎ戻る。ハンチング帽の紳士、実はEC委員会の上級役員・ドゥモンが、犬の体を撫で、獲物と空になった散弾銃を一人の従者に渡す。既に数羽の鳥をぶらさげている従者、犬を連れ、ドゥモンを残して立ち去る。一人になったドゥモン、池の端、倒木の上に腰掛けて、タバコに火をつける。つけおわり、目を上げると、それほど離れていない薮の中から空気銃を持った猟人風の●”■×”(数字)が姿を現わす。注目するドゥモン。)
(一羽の雀が上空を飛び過ぎようとする。●”■×”、空気銃を構えて発射、パンという乾いた小さな音がする。動きを止めた雀が一直線にドゥモンの足元に墜ちてくる。ドゥモン、雀を手に取り、目から頭に抜けた貫通孔を見る。)
ドゥモン(タバコを消し、歩いてきた●”■×”に)
「自己紹介はご無用です。空気銃で飛翔中の雀の目から脳を射抜けるシューターは世界に二人といませんからな、ムッシュー・デ○ーク○郷。」
●”■×”(自分の葉巻に火をつけ)
「“急用”の説明を聞こうか。EC委員、ピエール・ドゥモン。」
ドゥモン(立上り)
「●”■×”(数字)、…欧州統合の暁に創設される“欧州中央銀行”は、フランクフルトではなく、ぜひわがパリに置かれねばなりません」
●”■×”(少し後ろに下がって並び歩きながら)
「…そのことと、ブンデスバンク本部営業理事の暗殺阻止の仕事とは、どう結び付く?」
ドゥモン
「実は、ドイツ連立与党CFPの大物政治家、ダール連邦議会議員が、これまで不可触だったブンデスバンクに“決闘”を挑んでいます。」
●”■×”
「ダール…?トロイハント(=東ドイツ清算事業団)と外国機関投資家の間に入って巨利を得た元経済相だな」
ドゥモン
「左様。以来、彼の野心は天井知らず…。最近は“東方構想”というとてつもない経済膨張政策を唱え始めましたが、その影のプランナーは、実はドーバーの向こうでお茶をすすっているのです!」
●”■×”
「英国金融・証券界が、ブンデスバンクの力を都合よく利用するため、ダールを“操り糸”にしているのか?」
ドゥモン
「いかにも。“銀行帝国”ドイツには、ニューヨーク・東京・ロンドンに匹敵するグローバルな投資市場が未発達でした。連中はそこへつけこみ、野心家ダールを抱き込んだのです」
●”■×”
「聞くが、英国はなぜドイツ経済界にカザフスタンから中国市場制覇までそそのかす?」
ドゥモン
「ブンデスバンクが東京と相討ちで疲弊すれば、英国投資業界は一層オーバーライドしやすくなるからです。ドイツ連銀をトロイの木馬として、最終的には欧州中央銀行を牛耳るつもりなのでしょう。」
●”■×”
「シュッケルトが次の理事会に出席すれば英国財界との癒着が公式に暴露され、与党イエスマンの総裁といえども“東方構想”を支援するような新規の流動性創出はできなくわけか。」
ドゥモン
「はい。フランスにとって、政局から独立した強いブンデスバンクは、英国に動かされる弱いブンデスバンクよりも好ましいのです」
(ここで二人は黒塗りの大きなリムジンが待っている農道に出る。先ほどの従者=運転手が二人のために後席のドアを開ける。俯瞰。二人、乗り込む。)
ドゥモン(シートに位置を占めながら)
「ヘアハウゼン事件(*)以来、シュッケルトら連銀理事もこれに似た防弾仕様車で移動しています。しかしダールはあえてそこを狙わせる気です。」
[※註:1989年、ドイツ4大ユニバーサル銀行のひとつ、ドイチェバンクの頭取だったアルフレート・ヘアハウゼンが赤軍派に暗殺された事件。]
(ドゥモン、運転手に合図。車、走り出す。ドゥモン、懐から数枚の写真を出し、●”■×”に示す。1枚目はウォルフのバストショット。余白に“Wolf”とペンで書込みがある。2枚目はプラズマ加速装置。3枚目はフランクフルト市街のスナップ。●”■×”、無言でその3枚を見ている。)
ドゥモン
「そのベトナム人はウォルフとよばれている闇工作員で、ダールが死ねと命じれば死ぬような奴です。すでにフランクフルト市内に潜入したとの情報を得ました。」
●”■×”(プラズマ装置の写真を凝視し)
「これが防弾車を吹き飛ばせる道具か?」
ドゥモン
「銃弾ほどの金属塊を音速の数倍で射出可能なプラズマ実験加速装置です。ダールはLAA重工から少なくとも1台を借り出していることが判明しています。」
●”■×”
「このエネルギー源と威力は?」
ドゥモン
「十分な電力を通じれば、戦車の装甲も破壊できるそうです。」
●”■×”
「ダールはなぜあえてそんな面倒をする?」
ドゥモン
「ヘアハウゼンと同様の赤軍派の仕業に見せかけるためです。ダールならやるでしょう。」
(●”■×”、フランクフルト市街を真昼に撮った写真に見入る。)
(翌早朝。その写真と同じ場所の舗道に立つ安全帽姿の作業員。顔のアップ。変装したウォルフだ。例のケースも手に提げている。ウォルフ、辺りを見回すと、マンホールを開けて中に降りていく。)
(同時刻。シュッケルトの郊外の自宅。家の前で、書類鞄を持って銀行さしまわしの防弾メルツェデスに乗り込シュッケルトむ。)
運転手
「今日はどのルートでいきますか?出勤経路は毎日変えるのが規則ですが…」
シュッケルト
「任せるよ。」
(運転手、発進させる。)
シュッケルト(後席に身を沈めながら鞄を体の前で抱きしめるようにし)
『…いよいよ決着をつけるぞ。1マルクの価値のために…!』
(アウトバーンをひた走るメルツェデス。俯瞰。その数台おいた後方にオートバイが追走している。ライダーのアップ。●”■×”のようである。前方にフランクフルト市が見えてくる。)