●”■×”(数字)  『ジョージの贈物』

没シナリオ大全集 part 9


Part 2:海を渡る象



(夕方のティレニア海。そこをポツンと漂い東へ向かう象の船。そのキャビン。)

ナ翁
「こんな古びたボート、ちょっと波が出たら沈んでしまうぞ!最短距離のカラブリア海岸へでも向かわんか、せがれや」

ジョリオ
「よしてくれ、変な呼び方は。大きな港ではガンビーノ一家の手先が見張ってるに決まってる。ナポリ南方のどこかに上陸するから安心しなよ」

マルティナ
「ジョリオ、ちょっと甲板へ出ましょう」

(二人、ナポレオン老人をキャビンに残して薄暮の甲板に出る。残されたナ翁、肩をすくめる)

マルティナ
「ほんとにあのよぼよぼが金貨や宝石をナポリの墓地に埋めて隠してるっていうの?ねえ、そろそろ知ってることを詳しく話してくれてもいいでしょ」

ジョリオ
「そうだな。…ナポレオン・ガンビーノは大戦中、腐敗した米軍の後方補給部隊がヨーロッパ各地で隠匿した物資や住民資産を、パットン将軍の命令で摘発するのに協力したんだ。」

マルティナ
「でも、犯人の兵站(へいたん)将校グループは1945年ドイツでパットン将軍を自動車事故に見せかけて謀殺し、財産を取り戻そうとした…」

[※註:バルジの戦い等で有名なアメリカ陸軍のパットン将軍は、終戦後の1945年12月にマンハイムで自動車事故により死亡した。しかしそれは戦争中不正に闇で儲けた後方補給部隊の将校たちによる謀殺ではなかったかとする説がある。]

ジョリオ
「鋭い読みだよ、マルティナ。そうとも、パットン将軍は捜査を内々に進めようとして、逆に犯人達に付け込まれてしまったのさ。」

マルティナ
「でも若きナポレオンは巧みに立ち回った…」

ジョリオ
「うん。彼は将軍の不慮の死を知ると、犯人たちの先手を打った。押収品のうち高価な貴金属や有価証券類を、自ら10トン・トラックでナポリまで運んできて埋めたらしい。」

マルティナ
「コルシカ出身で生粋のシチリア人ではないにもかかわらず、戦後マフィアの一家を成すに至ったのは、その“ナポリの隠し財産”のおかげってわけね」

ジョリオ
「ああ。それだけじゃなく、今度の一斉摘発でガンビーノ一家だけが逮捕者を出していないのも、政府・検察と“隠し財産”に関して裏取引があったからだって噂さ。」

(キャビンの中から窓ごしに甲板の二人の様子を見ているナ翁。やがて二人はキスをし、もつれるように甲板に倒れて、窓からは見えなくなる。肩をすくめるナ翁。)

(翌朝。検察庁の無人の一室。椅子に座り、葉巻を吹かしているティコ・ガンビーノの不機嫌そうな顔。そこへ検事エンリコ・チェザリオがはいってくる。)

エンリコ
「朝っぱらからすまんな、ティコ。事情聴取の形をとらんと、まるで二人で密談でもしてるみたいに世間が勘ぐるんでな」

ガンビーノ
「リコ、はっきりして貰うぞ。貴様、おれの親父を他所のファミリーに誘拐させたんじゃないだろうな?」

エンリコ
「全く思い当たる節はないぞ、ティコ。マフィア一斉手入れでシチリア全体が混乱していた隙をついた、土地感のある若僧の犯行だ。ちゃんと捜査中だ。」

ガンビーノ
「そうかいリコ。今日という今日はカンパリニズモ[※=同郷の情誼]は関係ねえ、カタキ同志として話をつけるぜ。だいたいおまえは出世欲のかたまりで、北部の大学にいくために昔から友達付き合いってものを…」

(突然銃弾の音。窓ガラスが割れ、壁をへこませて、9ミリ口径くらいの拳銃弾が床の上に落ちる。ガンビーノとエンリコ、反射的に窓際の隅にころがって第2弾を避けようとする。)

ガンビーノ
「だ、誰だ!!」

エンリコ
「よく聞け、ティコ。大きな外国人グループが“ナポリの隠し財産”を狙って動き出している。今度の摘発で国内のファミリーが動けなくなったのを好機と見てな」

ガンビーノ
「それじゃナポレオンじいさんをさらったのもそいつらか?」

エンリコ
「わからん。ただ、今のは唯一行動の自由のある我々に対する彼らの牽制だろう。」

ガンビーノ
「おい、今度の大規模摘発はアメリカFBIの肝煎りだろう。じいさんを誘拐させたのも実はワシントンってことはねえだろうな?」

エンリコ
「違う。確かに以前から米国政府は“ナポリの隠し財産”に異常な興味を示していた。しかし彼らは今回●”■×”(数字)をイタリアに送り込んだらしいのだ、ティコ。」

ガンビーノ
「ゴ、●”■×”(数字)…!あいつを…?」

エンリコ(床に落ちた拳銃弾を指でつまみあげてティコに示しながら)
「そうだ。もし彼ならこんな弾は使わん。これは9ミリのベレッタ・オートマチックだ」

ガンビーノ
「…」

Part 3

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