●”■×”(数字) 『ジョージの贈物』
没シナリオ大全集 part 9
Part 3:将軍との日々
(第二次世界大戦中1945年春の南ドイツ。パットン将軍率いるアメリカ第3軍の野戦司令所=ヘッドクォーター所在地。ダッヂ3/4トン・ウェポンキャリア4×4を運転して乗り付け、建物の中に入ろうとする若きナポレオン・ガンビーノ。制止する衛兵のMP。)
ナポレオン
「通してくれよ。大将に大事な話があるんだ」
MP
「将軍がお前のような一兵卒にお会いになると思うか?直属上官は誰だ、慮外者め」
パットン将軍(4つ星ヘルメット姿で偶然に顔を出し)
「わしの当番兵だよ。通してやれ」
MP(敬礼し)
「はいっ、閣下!失礼いたしました」
(ナポレオン、弾痕だらけのドイツ商家のなかにはいっていく。建物の煉瓦壁には第3軍ヘッドクォーターの正式マークの他、“キルロイワズヒア”=キルロイここにあり、という当時流行った兵士の落書きなども見える。廊下の隅で立ち話するパットンとナポレオン。)
ナポレオン
「将軍の密命により後方段列(*)を調べて回りましたが、思った以上に腐敗が進行しています。」
(と、走り書きの紙を手渡す)
[※註=補給部隊のこと。兵站(へいたん)ともいう。第二次大戦ではアメリカ本国から莫大な補給物資がヨーロッパ戦線に送られたが、その途中ピンハネと、ドイツ軍民資産の不正取得、およびフランス住民に対する闇商売で、これら後方部隊・非戦闘兵科の一部の軍人たちはボロ儲けしたといわれる。]
パットン
「なんてことだ。前線でGIがナチを相手に泥まみれで戦っているというのに、弾の届かぬ後方で居心地の良いホテルに起居する補給将校どもが私腹を肥やしているとは…!」
(と、トレードマークの腰の.44シックスシューターの象牙グリップを指で叩く)
ナポレオン
「しかし連中の不正財産の隠匿場所はすべてそのメモに記載してあります。どうかこれでアメリカ陸軍の名誉を守ってください、将軍」
パットン
「若いナポレオンよ、お前はシチリア上陸以来、よくわしを扶けてくれたな。おまえをライン河まで連れてきたのは正しかった。そこでもうひとつ頼みがある。」
ナポレオン
「何でありますか、将軍?」
パットン
「見よ。連中はこんな挨拶をわしのジープに置いていきよったのだ。」
(ポケットから何もかかれていない封筒を出してナポレオンに見せる。中には、手を引け、と新聞活字を張り合わせて書かれた脅迫状と、.45口径の実包1発が入っている。)
ナポレオン
「これは脅迫状…?あの連中め!」
パットン
「ナポレオンよ、もしわしの身に万一のことがあったら、おまえが連中の鼻をあかしてやってくれよ。イタリア流の方法でな。」
(片目をつぶる)
ナポレオン
「何をおっしゃいます、弱気にならないで下さい、将軍!」
パットン(背を向け)
「…アメリカ軍はいつのまにかでかくなりすぎた。でかい組織にはでかい不正がつきものなのだ。今度の戦争が、わが祖国最後の正義の戦いということにならねばよいが…」
ナポレオン
「…パットン将軍…」
パットン
「わが第3軍はこれからチェコ国境に向け進撃するが、おまえはここに残って在仏補給部隊の監視を続けてくれ。よいな、ナポレオン・ガンビーノよ」
(ナポレオン、熱誠に燃える若い瞳でパットンを凝視)
(ガクン、と揺れて目をさましたナ翁。朝もや。イタリア半島西海岸の風景。象の船が人気のない岸についたのだ。)
ジョリオ(機関を停止させながら)
「さあナポレオンのとっつぁん、半島についたぜ。上陸するから目を覚ましてくれよ」
(マルティナが先に岸にとびおりる)
ナ翁
「夢をみていたのか…それにしても懐かしい…」
ジョリオ(車椅子を甲板に押しだしながら)
「夢だって?うらやましいね。俺は夢なんかとっくになくしてるってのに」
ナ翁
「おや、自分の夢のために“ナポリの隠し財産”が欲しかったんじゃないのか?」
ジョリオ
「マルティナを喜ばすために金が欲しいだけさ。実はこの計画には彼女の方がえらい乗り気でね。彼女が今の俺のすべてなのさ」
ナ翁(肩をすくめて)
「…」
(砂浜から海岸道路に上がってきた3人を、手の平サイズのクランク型望遠鏡で遠くの物陰から見ている私服の男。望遠鏡を胸ポケットにしまってほくそえむ。鈍い音。男、くずれるように倒れる。その後ろに二人連れのサングラスをかけた60代位の元気そうな男、AとBが立っている。Aの手にはサイレンサーから硝煙の立ち昇るベレッタ9ミリ拳銃が握られている。)
男A(三人連れを見やりつつ)
「とうとう見つけたぞ。おいっ、気付かれないように車をまわせ!」
男B
「了解」
ナ翁(ジョリオに車椅子を押されながら)
「まさかこのままナポリまで歩いて北上しようっていうんじゃないだろうな、せがれや」
ジョリオ
「わるいか?」
ナ翁
「シチリアを離れたらもう他所のシマじゃぞ。わしの姿は目立つ。新米の警官だって気付くだろうよ。」
ジョリオ
「じゃ、どうすりゃいいんだよ」
マルティナ
「バカね。車を盗むのよ!」
ジョリオ
「マルティナ…君…」
(ナ翁、肩をすくめる)
(男A、Bの大型乗用車。車内から3人の様子を監視している。)
男B
「見てください、あいつら車を盗もうとしてます」
男A
「うーん…」
(ジョリオが一台の配達用バンの窓から手を差し入れようとして四苦八苦しているのが遠目に見える。)
男A
「むっ、まずいな、警官だ」
(ジョリオ達の方へ、別な方向から警官が近付いてくるのが見える。警官はまだ3人の意図には気付いていない様子。)
男A
「おい、出せ」
男B
「了解」
(大型乗用車、警官の脇を猛スピードで通り越して3人の横に来て止まる。驚く3人。)
男A(窓から顔を出し)
「よお、俺達はアメリカ人の旅行者だが、ここからナポリまでは遠いのかい?」
ジョリオ
「えっ、あ、あの、その、…」
マルティナ
「ちょうどいいわ!実はこのおじいさんをナポリまで送っていかなくちゃならないんです。案内料代わりに乗せてってくれない?」
ジョリオ
「マルティナ…」
男A
「そうか。それじゃ渡りに船ってわけだな。乗りな」
マルティナ
「助かります!さあジョリオ、おじいさんを車椅子から後部シートに移すのよ」
ジョリオ
「…わ、わかったよ」
(男Bと若い男女に後席に運ばれながら、いぶかしげな横目でAとBとマルティナを見るナ翁。)
(おなじ頃、近くの公衆電話。さきほど男Aに撃たれた男=実は私服捜査官が、重傷の身で電話をかけている。)
私服捜査官
「もしもし検察庁?…内線の110、エンリコ・チェザリオ検事の特捜班を…」