カスピの砲煙
没シナリオ大全集 part 4.9
Part 4:奇策
○カスピ海中部・夜
二千屯級の航洋型曳船(タグボート)ノア1号が、三千屯級フローティング・ドック(浮ドック)を曳航して南下している。[※ドックの綴りはDockですので“ク”が濁りません。]
ノア1号船首および船尾には、社名の“CSC”、船名の“NOAH−1”、およびその下に所属港名“BAKU”の文字あり。
曳航用のワイヤーロープはY字型で、太さ5センチ、長さ200メートル、中間のほとんどの部分は常時海中に垂れている。[※資料=『船舶曳航実務』。端末の図も。]
時化模様、煙突の煙が横にたなびいている。
ノア1号ブリッジのアップ。
声「また風とうねりが強くなってきた。舵利きに注意、7ノットを維持、ワイヤーロープの摩擦部に注油を怠るな!」
○ノア1号ブリッジ内部
曳船のブリッジは後方にも窓がある。
船長、その窓から曳航している浮ドックを気にしつつ、
船長「三千トン級浮ドックを曳いてフィンランドの造船所からボルガ運河を南下してきたが…カスピ海で風に合うとはなあ」
一等航海士「しかしイランまではもうすぐ。…長旅ももうじき終りです」
船長「うむ…」
二等航海士「(双眼鏡で水平線を見張りしながら)…! 軍艦がまっすぐ本船に向かって
きます」
一等航海士「軍艦?アストラハンのロシア警備艇が見送りか?」
船長「(双眼鏡で眺めて)いや、フリゲートです。…国旗識別不能。妙だな…灯火もつけていません」
一等航海士「無線電話で尋ねてみます。(コンソールから電話様の受話器を取り)こちらはCSC[カスピ海運会社]の曳船ノア1号、貴艦の意図を知りたし」
○ロング
サホノの艦の艦橋から発光信号。
煙突から火の粉と黒雲を吐き出し(タービン船が級に増速した印)、艦首に大きな波を生じている。
○曳船のブリッジ
二等航海士「発光信号です。『我が艦名はアルメニア、無線の使用を禁ず…』後半部分を繰り返してます」
船長「“アルメニア”などという軍艦はカスピには存在せん。無線を禁ずるというのは海賊行為の前触れだ。全員部所を離れるな。…(すぐ後ろの無線室に)無線手、バクーの本社に船位を知ら…(言い終らぬうちに)」
一等航海士「(双眼鏡を覗きながら)発砲してきた!!」
○曳船ロング
シュルル…という音とほぼ同時に上構のレーダーやアンテナのすぐ上の空中で100ミリ砲弾が爆発、すべて薙ぎ倒す。
ブリッジには機関砲弾もガンガン命中する。
○曳船ブリッジ内
窓ガラスが全部割れる。
全員、床に伏せる。
無線手「(ヘッドフォンをつけたまま無線室から転げ出てきて)アンテナマストを壊されました!機関砲が無線室を狙い撃ちしてます!」
船長「(床をはいずりまわりながら一等航海士に)き、旗旒[きりゅう]信号を掲げよ、『本船は減速す』!」
一等航海士「はいっ!」