カスピの砲煙

没シナリオ大全集 part 4.9


Part 5:フランクフルトの代理人

※連銀のあるフランクフルト市はドイツ金融界の代名詞。


○カザフスタン上空の軍用輸送機内・悪天候・夕刻

 時折稲光が光る厚い雲の中を飛行中の輸送機外観。
 機内。
 ガランと広い機内に、ぼんやり照明が点灯され、二人の人影のみがある。
 一人はドイツ連銀のカザフ支店長(40)、もう一人はGSG9の隊員、ヴィンクラー。

支店長「なぜブンデスバンク(ドイツ連銀)がカザフスタンを重視しているか、承知しているな、ヴィンクラー」

ヴィ「…東欧は今やマルク圏…次に中国新彊地区も窺うつもりなら、カザフスタンに紙幣を準備しておくのも当然の布石だろうな」

支店長「…対独戦中、スターリンは百万ものドイツ系ロシア人をこの地域に移した。いまや我々はカザフを拠点に全ユーラシアのマルク圏化に乗り出しているわけだ」

ヴィ「…用件は火急、じゃありませんでしたかね、支店長?」

支店長「そうだったな。…二日前、カザフ海軍の一艦がアルメニア系将兵だけを乗組ませて時化の中を出港、沈没したと見せかけて、今日バクー港を急襲した」

ヴィ「それでアゼルバイジャン艦隊は?」

支店長「ほぼ壊滅状態だ。しかし反乱艦は突如反転、現在アティラウ港のカザフ艦隊が捜索中だが、見つかっていない」

ヴィ「ロシアの航空機に探させないのか」

支店長「カザフもアゼルバイジャンも、ロシアに借りをつくるような要請などせん。それに、反乱艦は必ずもう一度バクーにやってくる」

ヴィ「なぜ分かる?」

支店長「アティラウの海軍病院に放射能症で収容されたアルメニア系水兵の尋問から、彼らが艦内でガン・バレル型の原爆装置を組み立てていたことが判明したからさ!」

ヴィ「原爆…」

 機外でまた稲光が光り、雷鳴が轟く。

支店長「実は一ヵ月前、セミパラチンスクで解体した核兵器から抜き取ったウラン235が輸送途中で一部紛失し、カザフ政府は極秘にマフィアの捜査を続けていた。しかし真犯人はアルメニア人だったのだな」

ヴィ「なぜ奇襲に成功しながら自爆せず逃走した?」

支店長「たぶん起爆回線が切れたか、内部で意見対立があったのだろう。濃縮ウランを使うガン・バレル型は一番単純な原爆装置だから、素人細工でも連鎖反応[←ルビ=チェイン・リアクション]が起きるのはほぼ確実だ」

ヴィ「核物質を持ったまま対岸のイランへ逃げ込む可能性は?」

支店長「アゼルバイジャンはイランの親類のようなものだから、考えられん。あくまで首都バクーを壊滅させて復讐を遂げるのが狙いだ」

ヴィ「…」

支店長「ロシアはまだ核物質が盗難か紛失かの見極めがついていない。しかし盗難が公になれば、カザフの核管理能力の無さを口実に、軍隊を駐留させようとする。そうなったら…」

ヴィ「…赤字援助までして全ユーラシアをマルク圏にせんとするわが首相の宿願も、一時頓挫を強いられる…」

支店長「だてにGSG9はやってなかったな。…本国から特殊部隊を呼んでいる暇はない。今日・明日中にも、この厄介な“装置”を海没させてくれっ!」

 また稲光が光る。

Part 6

戻る