没シナリオ大全集 part 6.8


自分で解説:これは半蔵門にある写真博物館でガラス板の写真についていろいろ調べているうちに妄想が膨らんできて書いたものだ。でえい、パンチが足りん!

アイ・リメンバー


○マクギリー・バージニア州議会議員の自宅自室・夜
 書斎に一人、ナイトガウン姿のマクギリー。
 机の上には開封された封筒。
 マクギリーは籐椅子に深く腰掛けながら、シェードランプの光でその封筒の中味である一枚の“8×10”写真に見入っている。
 写真は、南北戦争当時の南軍の服装(*)をした騎兵たちが、敗走した北軍が遺棄した塹壕の近くに馬を揃えてこれから偵察に出発しようとするところで、夕方らしく影が長い。
 騎馬隊の列の中央に一人だけ散弾銃を鞍に横たえた若い士官がおり、その男の隣りには、いかにも彼と仲の良さそうな若い士官がいて、彼に親しく笑いかけている。
 また写真の中で整列した騎馬兵たちの前にもう一人の将軍らしい人物がいるのだが、この人物は露光途中で動いたと見えて、写り方が薄く、透明人間のように背景が透過して見える。
[※南軍兵士および北軍兵士(死体)の服装資料は、同朋出版『ビジュアルディクショナリー・7・軍服』他に載っています。]
 卓上の電話が鳴る。
 卓上時計は夜十一時を指している。

マク「(受話器を取り)マクギリーだ」

ハンフリー(声)「州議会議員?…私、骨董屋のハンフリーと申します」

マク「ああ、私の曾祖父が写っている写真を送ってくれた方ですね、よくこんなものがありましたね。…でも興味深いですよ、皆シャープス銃の中で、鳥猟の名人だった曾祖父だけが散弾銃を持っている」

ハン「百三十年も前のコロディオン(※ガラス湿板ネガ)からの紙焼きにしちゃ鮮明でしょう。チャンセラーズビルの近くの町の写真館の倉庫に眠っていたもので…」

マク「…ああハンフリーさんとやら、悪いが私は今度バージニア州知事に立候補するもので、支持者との懇談予定が目白押しなのです。後でお礼はします。今夜はこのへんで…(受話器を切ろうとする)」

ハン「マクギリーさん、ジャクソン将軍も一緒に写っているんですが…そこに」

マク「えっ、“ストーンウォール”ジャクソンが…まさか?」

 マクギリー、写真をもう一回しげしげと見る。
 影の薄い人物は、確かに南軍の英雄、“ストーンウォール(石壁)”ジャクソン将軍のようにも見える。

ハン「あなたも南部の男なら、南軍の英雄ジャクソンがフッカーの北軍を追尾偵察中、味方の弾に当たり、命を落としたことは御存知でしょう」

マク「ああ。南軍の運命はあれで決まった…。そうか、これはチャンセラーズビルの写真か」

ハン「昔のガラス湿板ネガは、用意した日に全部撮ってしまわないと無駄になる。そこでこの田舎写真屋は3月2日の夕方、余った一枚で、まさに偵察に赴かんとする将軍を…」

マク「では、曾祖父と一緒に…ジャクソン将軍の遺影が…!」

ハン「御覧の通り将軍は数秒の露光の途中で動いてしまったため失敗作となり、そのまま暗い倉庫にしまいこまれたんですがね」

マク「なぜ新聞社に持ち込まない?これは大発見なのに!」

ハン「いいんですかい…実はその写真のガラス板ネガを先生に買っていただきたいのですよ。優良企業の有価証券四十万ドル分でどうです?」

マク「何だと、どういう意味だ?」

ハン「この写真は、あなたの曾祖父・ウィリアム・マクギリー中尉こそが将軍を誤射した男だったと証明してるんですぜ」

マク「貴様いきなり何をぬかすか!バージニアの名家、わがマクギリー家の祖が、同郷の英雄を死なせた大馬鹿者だったなどと…!」
[※註:ジャクソンは今のウェストバージニア出身だった。]

ハン「だってね、一緒に従軍神父の陣中日誌も出てきたんですよ。『…8日後…将軍の遺体からシカ玉が摘出された…』。…この写真の中で、散弾銃を持っているのはウィル中尉さんだけですな」
[※註:ジャクソン将軍は撃たれてから8日後に死亡した。]

マク「ちょっと待ってくれ、おい、人聞きの悪いことを言うな…」

ハン「買って下さいますよね、このネガ。あのストーンウォール・ジャクソンを殺してしまった男の子孫を南部人が知事にするなんてこと、まずないでしょうからなあ」

マク「株で時価四十万ドル分だな…用意には多少時間がかかるが…」

ハン「そう来なくては。いつならご都合がつきますかな?」

マク『…ううっ…何ということだ…これは悪い夢だ…!!』

○走行中のリムジンの中・数日後の夜

マクギリー『…バージニア州知事の次には、ホワイトハウスが待っているというのに。あんなものが一辺でもマスコミにとりあげられたらおしまいだ!』

 リムジンを運転しているのは、マクギリーの選挙参謀ジョンソンである。
 二人のシートの間には、スーツケースが置いてある。

ジョンソン「そのガラス板さえぶち割っちまえば、たとえプリントが残っていても合成した贋作だと言い張れるわけでしょう」

マクギリー「ジョンソン、荒っぽい手はだめだぞ」

ジョンソン「お任せを。この選挙参謀、こういう手合いは扱い慣れていますから」

マクギ「しかしハンフリーとかいう骨董屋、どうせ偽名だろうが、裏で何をしているか気になる…」

ジョンソン「現職知事ダンカンの選挙事務所にも売り込まないとは限りませんしね」

マクギ「…そうなったら最悪の事態か…」

ジョンソン「なに、念には念を入れますよ(と、ショルダーホルスターの拳銃を見せる)」

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