アイ・リメンバー
没シナリオ大全集 part 6.8
○アパラチア山地に近い人気の無い場所・夜
荒野に肥料袋を積んだ1台の農業用トラックが停まっている。
トラックの天井には拡声器がついている。
運転台は暗くてよく見えない。
そこへマクギリーと運転手ジョンソンの乗ったリムジンが近付く。
拡声器「停まれ!」
ジョンソン、リムジンを停める。
拡声器「二人ともそこから歩いてこい」
マクギリーとジョンソン、リムジンを降り、トラックの方へ近付く。
ジョンソンはスーツケースを右手に下げている。
マクギリー「証券はガラス板のネガを確認してからでないと渡せんぞ!」
拡声器「トラックに近寄れ。見せてやる」
マクギリー、トラックの方へ歩いていく。
ジョンソン、トラックのよく見えない運転席を睨む。
ジョンソン「やつは一人で来ているようだ。強請は素人だな…よし」
マクギリー「おいジョンソン?何をする気だ!」
ジョンソン、さらに数歩近付いたところで突然、サブマシンガンを仕込んであるスーツケースの引金ボタンを押し、一弾倉分の弾丸をトラックの運転席に叩き込む。
あっけにとられるマクギリー。
一瞬、シーンとする。
ジョンソン、スーツケースを捨て(そのため蓋が開き、仕込みのSMGが露見する)、ホルスターから拳銃を抜き、運転席に駆け寄る。
と、突然ハンフリーがトラックの荷台の肥料袋の間から立上り、猟用のライフルを発砲する。
ジョンソン、倒れ死ぬ。
ハンフリー「(ライフルを脇に抱え、銃口でマクギリーを制しつつ)正当防衛とはいえ、ベトナム以来久々に人を撃ったわい。これでまたスキャンダルが増えましたな」
マクギリー「わ、私は警察には何も通報していないし、彼の死体も私が何とか処置しよう!」
ハンフ「ほう、やはりどうしても手に入れたいですか、このガラス板…(と、肥料袋の間にあったジョラルミンケースを開ける)」
マクギ「本当に持っていたのか…」
ハンフリー、ライフルの銃口は用心深くマクギリーに擬したままケースの中から、23×28センチ、厚さ4ミリのガラス板を出してかざす。
マクギ「(ランタンを高く掲げて照らしながら)…うむ、わしの曾祖父が写っているな。おお、この薄い輪郭は確かにジャクソン将軍!こんな遺影があったとは…」
ハンフ「フフフ…一生涯の高配当にありつける優良株券百万ドル分となら喜んで交換しましょう。マクギリー知事候補殿」
マクギ「何っ、四十万ドル分ではなかったのか?(ポケットから証券の束を掴み出し)ここに、約束どおり四十万ドル分もってきてあるのだ!」
ハンフ「あなたは私の命を脅かした。だから私は外国に逃げる。当然の値上げでしょう」
マクギ「百万ドルといえば大金だぞ。これからテレビ広告も打たにゃならん。せ、選挙後まで待ってくれんか?」
ハンフ「明日まで。間に合わねば、ダンカン陣営に持ち込むまでだ」
マクギリー、顔面蒼白となり、ポケットからゆっくりと小型ピストルを出す。
ハンフ「…!」
マクギリー『(目をつぶり、小型ピストルを自分のこめかみに当てて)…私の政治生命も、マクギリーの家名も、今日迄だ…』
と、突然一発の弾丸が飛来し、ハンフリーのガラス板をコナゴナに撃ち砕く。
驚いた拍子にハンフリー、ライフルも捨てて荷台から飛び降り、頭を抱えて地面に伏せる。
付近にはガラスの細片が散乱している。
あっけにとられるばかりのマクギリー。
ハンフ「(伏せた姿勢のまま)仲間を呼びやがったな!俺を油断させ、時間を稼いでいたんだ!この汚い政治家め!」
マクギ「知らん!この会合のことはあの選挙参謀以外に誰にも話してない!」
ハンフ「(伏せた姿勢のまま)い、命ばかりは助けてくれ!マクギリーさん!」
マクギ「…!(暗闇の遠くを透かし見ると、銃を持った人影が馬に乗り去っていくシルエットが地平線の空際線にかすかに浮かび上がっている)」
ハンフ「(伏せた姿勢のまま)…あんたら政治家の親類が徴兵を逃れていた時、俺はベトナムの泥沼を這い回っていたんだぞ!俺も愛国者だったんだ!一生のうち少しばかり酬われたっていいじゃねえかよ!助けてくれーっ!」
マクギリー、訴え続けるハンフリーを哀れむように証券の束を彼の前の地面に投げ捨て、ジョンソンの遺体を担ぎあげてリムジンの方に向かう。
ハンフ「(証券の束を持ってマクギリーの後姿を拝むが如く)す、すまねえーっ!すまねえーーっ!」
○マクギリーの自宅・ガレージ裏の庭・夜明け前
マクギリー、スコップをガレージの壁に立てかける。
東の空が白みかけている。
マクギリー、勝手口から屋内に入る。
○書斎
マクギリー、泥の付いた手を洗い、ソファーに深々と腰を落とし、スコッチをグラスに注ぎ、スタンドの明りで再び例の写真のプリントを手にとってながめる。
マクギ「ジョンソン、あの騎兵[←ルビ:ライダー]はおまえが雇ったシューターだったのか…?」
マクギリー、片手でライターの火をつけ、もう片方の手の写真にまさに着火せんとする。
と、電話が鳴る。
ギクッとするマクギリー。
置き時計は朝の4時半を指している。
マクギ「(受話器を取り)マクギリーだが…」