AK−93

●”■×”(数字) 連載25周年記念脚本大賞 応募作品


Part 1:赤い発明家の野心

(ロシア共和国ウラル地方チュリビア地方チュリアビンスク兵器開発コムプレクス。そのはずれの森林内に孤立した敷地内にある、大きく由緒ありげだが老朽化した、煉瓦造りの建物。その中の所長室。)

アルバトフ少将(所長室の机に立って。フォーマルな軍服姿の胸には多数の勲章。謹厳な顔だが、怒りの表情は抑制されて。)
「このユジノ開発局が廃止されることについては、わしは時代の要請として理解を持っていた。わしが一人でここまで育てた開発局が、わしの退官とともに消えてなくなるのも運命かと思ってな。だが、先週モスクワの国防省に出掛けた折に、わしは全く初めて聞く、別のストーリーを聞かされたんだよ、イワン・グレチコ大佐。」

グレチコ大佐(ドアの前に立っている色付き眼鏡をかけた頭髪の薄い中年。同様を顔に表して。)
「…そ、そうですか?」

アルバトフ
「なんでも、ここの私設をそっくり利用してコペラティフ[※独立採算の半民間企業]にし、わしの発明の数々外国に売り飛ばして小金を稼ぎ出そうっていう計画だそうじゃないか。参謀本部の元同期の旧友に、その金でいくつ別荘を建てるのかって聞かれたよ。驚くべきことじゃないかね?わしはその前に退官して、その収益の分配には全くあずかれないことになっておるのに。」

グレチコ(弁解する体で)
「…ハハハ、ちょっと誤解があるみたいですね。最近軍内の情報伝達も乱れてるから…。伝書鳩を飼ったらどうかっていう小話もあるくらいで…」

アルバトフ
「収益の見込めるコペラティフに生まれ変わるとしたら、どうして予算縮小を理由に、トップの座にもっともふさわしいこのわしがわざわざ勇退し、しがない年金生活者とならねばならないのか…。きっと君なら説明してくれると思っておるのだが…。」
(片手の眉毛を持ち上げて質問の表情。)

グレチコ
「…さ、さぁ…ちょっと…」

アルバトフ
「知らない?フン、それは妙だ。参謀本部には、君が所長のわしをバイパスして人事局に送った、アルバトフ少将───つまりわしの職務不適正に関するリポートが1ダースもファイルされておったぞ?中央への報告書を、直上上司を経ずにどうやって送ることができたのかな?伝書鳩でも使ったか?」

グレチコ
(すっかり動転して)
「な、何かの間違いですとも!少将、何でしたら、わたしがクレムリンの知り合いに手紙を書き、あなたが引続き共同経営者としてここに残れるように手配します!
コペラティフの官許を得られたのも、もとはといえば私の顔と才覚なんですから、簡単なことです!ハハハ…」

アルバトフ
「なるほどな、そういうことか。やはりな…。しかしわしが共同経営者?つまりおまえと同格に?」
(あきれた、とでもいうように首を横に振りながら、机上の呼び鈴をならす。平服を着た屈強そうな若者、アンドレイが入ってきて再びドアを閉める。)
「40年前、カザフスタンだったか、一人のヤポンスキーの捕虜からいい諺を習った。
『出る釘は打たれる』というんだ。」

グレチコ
「出る釘は打たれる…?」

アルバトフ
「もっと早くおまえに教えておけばよかったかもなあ。…アンドレイ、音を立てずにな」(顎で、ヤレ、と合図する)

グレチコ
(アンドレイがナイフを抜いたので驚く。アンドレイと少将の顔を交互に見て。)
「えっ…?」

(アンドレイの手に握り締めたナイフの刃の部分だけがバネ仕掛けでビシュッと飛びだし、大佐の胸の中央にほとんど後端だけを残して埋まり込む。倒れる大佐。)

アルバトフ
「わしが図面を引いたスペツナズ用射出ナイフだが、初めて人体を使った威力試験を見せてもらったよ、
アンドレイ」

アンドレイ
(死体をかたづけつつ)
「はいっ。私も生身の人間に使ったのはこれで2度目であります。やはり将軍は武器作りの天才でありますっ!」


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