地獄の骨男(仮題)
没シナリオ大全集 part 2
自分で解説:以下の数作は、たしか『○ス○ー○ガ○ン』であったか、○談社の青年誌で、実際に連載がスタートする直前まで漕ぎつけて、それが作画家がいなくて、いつのまにやらアウトにされてしまったもの。取り込もうとしたイシューは、PL法とリストラ。ちゃんとしたタイトルがついていないのは、それは編集部で決めることになっていたからだ。それだけイイ線まで近付いていたことの証左なのだ。なお、このシナリオを何度も書き直したりしていたエネルギーと時間を他の労働に使っていれば……などと今になって反省することは少しも無い。確かにムダ働きであったが、やっているときは楽しかったのだ。
第1話PART1
(リライト 96.4.6)
○皇居前広場の横の道路・朝
車やオートバイがビュンビュン走っている。
中骨のナレーション『−−現代人の生活は、化学製品ぬきには考えられません。たとえば車の燃料やタイヤ…』
○丸の内のオフィス街
高層ビルが建ち並んでいる。
手前のビルの窓を、ゴンドラに乗ったクリーニングサービスが拭いている。
中骨・ナレ『…街をつくっているセメントやガラス…』
○丸の内のJAビルの壁広告・収穫されたコメの大延ばし写真
中骨・ナレ『…肥料や食品添加物…』
○丸の内にあるドラッグストアの店内
店員が、客の母親に薬、その子供にプラスチックのオモチャを差し出している。
中骨・ナレ『…医薬品やプラスチック…』
○丸の内オフィス街
無数のサラリーマン、OLの往来。
中骨・ナレ『…繊維や化粧品…』
○大手門化学(株)のビル正面
人の出入りがせわしい。
新聞を読みながら出社してくる男もいる。
ファサードの銘板には、“大手門化学(株)”と刻んである。
壁の一面は内装補修中で、作業員がペンキを塗っている。
中骨・ナレ『…洗剤や塗料…』
○同ビル内の某オフィス
社員が卓上ワープロにフロッピーディスクを差し込もうとしている。
机上には、数枚のスライドフィルムも散らばっている。
中骨・ナレ『…そしてフィルムや電子部品用のシリコンも、みな化学製品です。なにしろ販路が多様ですから、大手門化学(株)のような総合メーカーともなりますと…』
○同ビルの法務部オフィス
オフィス内では部員が皆、机の上に書類を山と積み上げて、その処理に追われている様子。
窓口に、何人ものバイク便の使者が来ていて、次々に書類の入った封筒を届けている。
中骨・ナレ『…輸出先と契約で揉めたり、訴訟に巻き込まれることもしばしば。そんな対外トラブルの最前線に立っているセクションが…』
○窓際の中骨の机
シコシコと書類相手に事務処理をしている、地味そのものの最ベテラン部員、中骨(53)。
中骨・ナレ『…私どものこの法務部、なのであります−−。』
○法務部オフィスの入口近く
ドアの脇にコーヒーサイホンが置いてあり、新任法務部長の若小路(32)がその近くでコーヒーをすすりながら、近くの机の女子事務員(23)に無駄話をしかけて困らせている。
若小路「…同じコロンビア豆といってもアメリカ向けと日本向けとでは微妙に味を違えてあってねえ…」
女子事務員「ハア、さすが若小路部長、お詳しいですね…(と、愛想笑い)」
女子事務員『…こっちは忙しいのに、まったく…!』
中骨・ナレ『−−この人物、32歳の若さで仕入れ課長から法務部長に栄進したばかりのバリバリのエリート、若小路さん…』
若小路「…コーヒー農園はまだしも、辺境部は本当の無法地帯だそうだから、出張なんてしたくないよねえ、あまり…(と、コーヒーを飲み干す)」
女子事務員『(愛想笑いを浮かべつつ、内心うんざりして)…ひとりっ子のマザコンに多いんだ、こういう“講釈タレ”…』
中骨・ナレ『…「非生産部門の生産性を向上させる」という信念をお持ちなのですが、ひとつ困ったことは…』
若小路「…外務省にいる私の同期もぼやいていたよ、南米でグァテマラの次にリスクが高いのはコロンビアだろう、ってねえ…(と、窓際の中骨の様子が目にとまった様子)」
女子事務員『(ほとんど無視して)…ハイハイ…』
若小路、コーヒーカップを水を張ったポリバケツの中に放り込み、気難しそうな顔を作って窓際の方に歩いて行く。
中骨・ナレ『…そのために、最年長部員の私を早めに退職させようとしているらしいのです−−。』
若小路、中骨の机に至る。
若小路「(咳ばらいして) 中骨くん…」
中骨「あ、おはようございます、部長」
若小路「…私が君の机をこの窓際に移したことの意味が、まだよく分っていないようだねえ…」
中骨「は…?」
中骨の机は、他の部員の机に比べるとなぜかさっぱりと片付いている。
机上には、“スペイン語契約書綴り×××(日付)”“中国テレックス記録×××(日付)”とタイトルされた2つのバインダーと書類がひろげられている。
若小路「(机上のバインダーを取り上げて見て) これは何のマネだ? 私が寺沢や花咲にふった仕事が、なぜ君の机の上にある?」
中骨「申し訳ございません」
若小路「他人の仕事に手を出せと、いつ誰が指示したのかねえ、中骨くん!」
近くの机に座って仕事をしていた部員の寺沢(♀30)と花咲(♂24)、慌てて若小路の前にやってくる。
寺沢「すいません部長、私たち、つい中骨さんを頼っちゃうんです!」
花咲「法務の隅々まで知っておられますから。いままでだって部の超ベテランとしてずっと僕達の指導を…」
若小路「だまりたまえ! 私は私のマニュアルに基づいたジョブ管理をしている。君らは給料分の仕事をする気はないんだな!?」
寺沢「い、いえ…」
花咲「…どうも、失礼しました」
二人、中骨の机上からバインダーと書類を取って、すごすごと自分の机に戻る。
中骨の机上には、何もなくなる。
若小路「(中骨に) それでだ、君の今日の仕事は…」
と、若小路、床の片隅に置いてあったダンボールを抱えて、机の上にぶちまける。
中から出てきたのは山のような英字新聞の切抜き。
中骨「これは…英字業界紙の切抜き…」
若小路「そうだ。前の課の部下に切抜きさせたんだが、新人で整理がなってなくてねえ。この中から、イギリス本国で発行されたものだけ、選り分けて欲しいんだよ」
中骨「この、記事だけの切抜きを見て、ですか?」
若小路「うん。単純作業ですまないのだが、ちょっといり用なんでねえ…時間はいくらかかっても構わないから (と、冷笑する)」
花咲『(横目で見ていて憤慨して) 資料整理なんて新人がする仕事じゃないか。しかも、記事だけからどうやって発行元まで特定しろっていうんだ…!』
寺沢『(花咲に同意見だと目で知らせて)…また若小路部長のベテランいじめだわ!』
中骨「…かしこまりました」
若小路、中骨の机を離れていく。
寺沢と花咲、無言で若小路を目で追う。
若小路『フン…法専出の勤続33年か知らんが、これからは万事マニュアル時代。じじむさい“生き字引”など、早く退職しないからこういう目に遭うのさ (と、勝ち誇った笑みを浮かべてチラッと振り返る)』
と、案に相違して中骨、ものすごい手際のよさで、特定の切抜きをピックアップしている。
若小路『…なんだ、あの速さは…!?』
中骨「(作業を続けながら) 部長、30分ほどで選り分けられるかと存じます」
若小路、信じられないという顔で中骨の所まで戻る。
若小路「(選り分けられた切抜きをつまんで) …オイ、君はどうしてこれが英本国で発行された媒体だと即断できる!? いい加減にやって貰っちゃ困るよ!」
中骨「とんでもない。私もケミカルメーカーの社員のはしくれ、インキの組成の違いを手がかりにしているのですよ」
若小路「なに? インクの違いだと…?」
中骨「…英国は植字工の組合が強いので、印刷機械もなかなか新しくならない。それで出版物にも、昔ながらのインキのにおいがついているわけですよ」
周りの社員、この様子を窺い、ある者は中骨に感心し、ある者は若小路をバカにしたように見ている。
若小路『…こいつめ、またしても私をバカにしたような言い方を…!』
若小路「(咳払いして動揺を抑制しつつ) …私は君と違い、犬の鼻は持ってないのでねえ。…とにかく今日の君の仕事はそれだけだ。あんまり早く済ませると、午後にすることがなくなるよ」
中骨「(作業の手を止め) 部長はそんなにこの私を、早期退職させたいのでしょうか?」
若小路「フッ、誰もそんなことはいっていないよ、きみィ…」
中骨「…たしかに自分は53歳で、早期勧奨退職の対象年齢ではあります。しかし、社の定める停年の60歳までは、働く権利があるはずです」
若小路『こういう規則の話になると、このじじいにはかなわんからな…』
若小路「ではそうしてずっと窓際に座っていることだ。ただし仕事中に、君の趣味とかいう万葉集など読んでいたら、就労規則違反で減俸にするからねえ」
中骨「…」
ここで、昼休みのチャイムが鳴る。
若小路「おっと、もう昼休みか。午前中はまったくムダにしてしまったな (と、去る)」
部員たちも、一斉に室外へ散っていく。
時間経過。
広いオフィスにひとり取り残された中骨。
中骨、使い込んだ鞄のなかから、1ヶ88円の菓子パンを取りだす。
合掌黙礼の後、それをかじる中骨。
窓の外に、遠くの総合病院の屋上看板“区立中央総合病院”が小さく見える。
中骨『良子…俺は頑張るよ…』
○中骨の回想・数カ月前・某区役所高齢者福祉課窓口
天井に『高齢者福祉課』という案内板がある区役所の一角。
区職員(29)「(申請書類を通覧しながら) 中骨…良子さん…65歳? えっ、旦那さんより12歳も年上?」
中骨「昔めずらしい恋愛結婚でして…」
区職員「それで、ひと月前から心臓病で寝たきりになってしまわれた…」
中骨「子供も親類もないもんですから、なんとか区の特別養護ホームへ…」
区職員「無理ですね」
中骨「えっ…?」
区職員「奥さんは意識は清明といっても、常時酸素チューブをつけているのでしょう。特養はそういう病人はダメなんです」
中骨「そ、そんな…年寄りが病気になるのはあたりまえだ。それじゃ何のための福祉ホームですか?」
区職員「かわいそうだが入居はお諦め下さい。長期入院の可能な病院を探されることです」
中骨「長期入院費用を払い続けられるのなら、はじめから養護ホームの申し込みになど来ませんよ」
区職員「旦那さんはいいところにお勤めじゃないですか。天下の大手門化学なら、社の厚生制度で、配偶者の医療補助くらいはあるでしょう」
中骨「(グッと言葉につまる)…」
中骨の回想シーン終り。
○もとの法務部オフィス
中骨『…もし私が早期退職に応じたら、その厚生制度が利用できなくなる。良子、お前のために、私は一年でも長くここに勤め続けるよ!』
中骨、引出しから『万葉集の研究』という分厚い本を取り出して読み始める。
○同時刻・近くのホテルの超リッチなレストラン
若小路「(ウエイトレスに横柄に) △△と□□。後でストレートの◎◎を[←どれも高額な料理とドリンク]」
ウエイトレス、オーダーを聞いて引き下がる。
若小路『(タバコに火をつけながらイライラとして)…非生産部門のリストラは取締役会の厳命だ。その期待に応えるためにも、中骨は一日も早く辞めさせないと…。しかし、一体どうやったら…?』
と、隣りのテーブルの客の会話が聞こえてくる。
声(商社課長#1)「…そうか、君の課も最近は出張忌避が多いのか…」
声(商社課長#2)「うん。僕らの若い頃は南米だろうが南極だろうが、命じられれば勇んで出掛けたものだが、最近は商社マンも覇気がなくなった…」
若小路『…?』
若小路、仕切りの植木越しに、それとなく隣りのテーブルをうかがう。
客は、商社の課長クラスらしい二人である。
若小路『近くの商社の管理職か。何の話をしているんだろう…?』
商社課長#1「…まあ、前任者が麻薬シンジケートに毒サソリで殺されたと聞いちゃ、その後任に志願するやつなどいなくて当然かな…ハハハ」
商社課長#2「うちの課でも最近一人の係長にドミニカへの出張を命じたんだ。そしたら『地球の裏側に行くぐらいなら会社辞めます』と辞表を出されたよ…」
若小路「(独白) なるほど、南米か。こいつは使えるかもな…!」
と、ウエイター二人がすごい料理を運んでくる。
若小路『…ウチも確か、コロンビアの納入先に一件の契約トラブルがあったはずだ。小額なので放置してきたが…これをやらせてみたら…!(と、カニの足をバキッと折る)』
○午後1時・法務部オフィス
若小路、ニコニコと一通の封筒を持って中骨の机の前にやってくる。
中骨「…?」
若小路「やあ、中骨くん。君のベテランとしての腕と識見を見込んで、出張してもらうことになったよ。コロンビアだ」
中骨「コロンビア…? 南米の、あの赤道直下のジャングルの国ですか?」
若小路「ああ。急ですまんが、再来週から行ってくれ。これは正式な辞令だから…」
と、若小路、封筒から中味を出して、中骨の机上に置く。
コロンビアへの出張を命ずる辞令と、エコノミークラスの航空切符である。
愕然、色を失う中骨。
中骨「部長、ふつう海外出張は、30日前に辞令が出されるのが慣行では…?」
若小路「そうか? 社内規則集には何も書いてなかったぞ (と、得意顔)」
中骨「…!」
若小路『フフフ…こっちもおさらいさせてもらったんだよ。正式な辞令を拒否すると、それだけで懲戒解雇できるんだ!』
中骨「(うろたえながらも) それで、今回の出張の目的は…?」
若小路「うむ、この件は君の方が詳しいと思うが、一応確認しておこう…」
○解説シーン
埠頭のクレーンに吊上げられる粉末乾燥機械の外観。
若小路のナレーション『−−大手門化学は去年、コロンビア奥地のロドリゴ農園に、粉末乾燥プラントの中古品を売却することにした。用途は、大豆油のしぼりかすから肥料を造るため、というものだ…』
○解説シーン
夜のジャングルで覆面した山賊たちに刃物で脅かされている日本人技術者たち。
若小路のナレーション『契約は1年間の無料メンテナンス込みだったが、現地は夜になると山賊が出没するおそろしい無法地帯で、派遣された保守要員もたびたび強盗に襲われ、結局その全員が逃げ帰ってきてしまった』
○解説シーン
契約書を手にいきまいている買い手の農園主・ロドリゴ(50)。
若小路のナレーション『そのため農園側は、大手門化学が契約を破ったとして、装置の代金の延べ払いを中止。現物は差押え、文句があるなら損害賠償訴訟を起こすと息巻いていて取りつく島もない…』
若小路の解説シーン終り。
○元のオフィス
若小路「…とまあ、これが事案のあらましだ。君ならこの厄介な問題を見事解決してくれると、私は信じているのだよ」
中骨、沈思黙考している。
若小路『さあじじい、熱帯の無法地帯で山賊に殺されたくなかったら、さっさと退職しちまえ…!』
中骨『…困った! …私は外国語はたいてい読解できるが、話す方はからっきしだ…それに南米といえば地球の反対側…』
若小路「さあどうなのかね、君の返事は?」
中骨『…しかし、良子の長期入院を支えるために、いまここで会社を辞めることはできない!』
若小路「言っておくが、この辞令を拒否するというのなら、社規により…」
中骨「つつしんで…拝命いたします」
若小路「えっ…(期待が外れて一瞬唖然)」
中骨「辞令の通り、行って参ります」
若小路「そ、そうか…では、気をつけてな。コロンビアには高山病から熱帯病まで揃っているし、殺人バチや吸血ヒルもいるそうだから…」
中骨「かしこまりました」
若小路「き、切抜き整理の仕事の引き継ぎも、しっかりとしていってくれよ!(と、去る)」
寺沢『(この様子を窺っていて)…若小路のやつ、部の最年長の中骨さんに、アマゾン上流域への出張だなんて…!』
花咲『…リストラかなにか知らないが、ひどすぎる…!』
○某“区立中央総合病院”全景・数日後・夕方
○同病院の一室
大部屋の窓際のベッドに、中骨の妻、良子(65)が、鼻に細いビニールチューブを差し込んだままで仰臥している。
持参した風呂敷つづみを枕元に置いた中骨、良子の手をとり、良子と黙って見つめ合っている。
○中骨の顔のアップ
中骨『−−我が妻も絵に描き取らむ暇[いつま]もが旅ゆく我れは見つつ偲はむ』[もっと時間があったならおまえの顔を絵に描いて旅のあいだに見てしのびたい](万葉集)
○良子の顔のアップ
良子『−−我が面[おも]の忘れむしだは国溢[はふ]り嶺[ね]に立つ雲を見つつ偲はせ』[旅先で山の上に高く立つ雲を見てください。私の顔を思い出せるでしょう](万葉集)
○病室・ロング
窓の外に夕陽が沈む。
○成田空港の出発ゲート・辞令から2週間後
中骨を、寺沢と花咲だけが見送りに来ている。
中骨「(手荷物を持ち)…すまなかったね、寺沢さんに花咲くん、わざわざ成田まで見送りに来てもらって…」
寺沢「どうかご無事で、中骨さん!」
花咲「若小路部長なんかに負けちゃだめですよ!」
中骨「うん、ありがとう (と、搭乗ゲートへ)」
○離陸するジャンボ機の後ろ姿
○コロンビア上空・俯瞰
ジャングルの上を、旧式双発レシプロ機のDC3がポツンと飛んでいる。
ネーム『−−パナマ地峡のすぐ南、赤道直下に位置する人口3500万のコロンビア共和国の国名は、新大陸発見者コロンブスにちなむ。山がちな北部国境は大西洋と太平洋の両方に接し、南側国境はアマゾン源流の大ジャングル地帯である。伝統産品は、コーヒー、石油製品などだ−−』
○DC3機内
乗客は皆いかにも南米人風。
その中に、こわばった表情の中骨。
中骨『…誰も彼も、映画に出てくるメキシコの山賊みたいに見える…』
○コロンビアの田舎の空港
ジャングルを切り開いた非舗装滑走路にDC3が着陸する。
すごいホコリが立つ。
○駐機場
ウイングに牽引されたDC3にタラップが接続される。
ドアが開き、乗客が続々と降りてくる。
その中に、汗だくの中骨も。
中骨『…飛行機を3回乗り継いでやっと到着か。聞きしにまさる奥地だ。はたして現地のホテルまでは大丈夫だろうか…?』
○開拓村のメインストリート
ガタガタのタクシーキャブが未舗装のメインストリートをホコリをたてながら走っていく。
メインストリートの両脇には、西部劇のダッヂシティを彷彿させる木造の建物が軒を連ねている。
○タクシー車内
盗賊のようなヒゲを生やした筋肉モリモリの運転手が不機嫌そうに運転している。
後席で大きな鞄を前に抱えた中骨、すっかりビクビクしている。
タクシー、急に止まる。
シーンとした間。
中骨『(表情を固くして)…あれっ、なんで…急に、止まっちゃったのかな…?』
運転手「(徐ろに中骨を振り向いて、金をねだるように手を出し) セニョール…!」
中骨「ヒーッ! い、命ばかりは、お、お助け〜っ!! (と、ありったけの札束を差し出す)」
運転手、変な表情で札束を受け取り、その中から2枚を抜いて、残りは突き返す。
中骨「…えっ?」
運転手「着いたヨ…それじゃ多すぎるから」
○田舎ホテルの前の道路
タクシー、ホコリをまきあげてUターンして走り去る。
荷物とともに呆然とそこにたたずんでいる中骨。
ホコリが晴れると、目の前に、木造だが瀟洒な2階建てホテルが建っている。
ハッと我にかえる中骨。
ホテルのドアマン「(愛想よく) ようこそ、ナカホネさまですね。お待ち申し上げておりました」
中骨『(ホッとして) なんだ、無事にホテルにつけたじゃないか! 現地の人だって皆親切だ…。若小路部長の脅かしにすっかり乗せられたなあ、ハハハ…』
中骨、ニコニコしながらホテルの入口に向かって歩き出す。
と、ホテルの内部で閃光。
中骨「えっ…!」
ホテルのすべての窓から激しい炎が吹き出し、入口のドアも吹き飛んで来る。
爆風でドアマンは消し飛ぶ。
ドアマン「わー…っ (と、視界から消えていく)」
続いて中骨も高々と宙に舞う。
中骨「(背広を爆風と火炎でズタボロに引き裂かれながらも鞄はしっかりと抱えて空中を泳ぎながら) な、何だろうと、私は絶対に辞めないぞ、若小路部長〜っ!!」
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