地獄の骨男(仮題)

没シナリオ大全集 part 2


「骨」第二話アウトライン

(97.5.19)


出勤途次、たまたま一緒になった中骨と花咲。
 交差点でトラックとポルシェのドライバーの怒鳴り合いを見る。

 中骨「最近、みんな気が短くなったと思わないかね?」
 花咲「通勤時間にスポーツカーで街に入るのがどうかしてるんですよ」
 中骨「環境ホルモンというのがあるそうだが…」

 環境ホルモンというのは、大気や水のなかの微量の物質が、動物の正常なホルモンをかき乱し、生殖不能その他の病気、奇形を引き起こすという最近発見のトピックである。
 出社した中骨、さっそく若小路から小言をいわれるが、その叱責は若小路の早とちりで、中骨の落度ではなかった。
 中骨、社内のみんなもイライラしすぎているように見えてならない。
 めげない若小路、中骨に四国への出張を命じる。その場で中骨が渡された切符を見ると、一番疲れる夜行バスであった。
 四国に向かう中骨、夜行バスの車窓から、朝に見かけたのに良く似たポルシェが、危なっかしい走りで高速を追い越して消え去るのを見送る。
 翌朝、愛媛のとあるさびしい海際にある山村に到着した中骨。
 さて今回の事案というのは−−。
 この山村の裏山から海に注いでいる二級河川に、なぜか最近めっきり生物が減ってしまったという。その住民からの苦情を受けて、建設省が川水のサンプルを採取・分析してみたところ、重金属やダイオキシンが微量ながら検出された。そこで住民たちは、その汚染源が、その上流の川岸に建っている大手門化学の子会社の廃液処理施設にあるのではないかと疑いはじめた。そして1週間前、大雨の直後の川に大量の魚が浮き、大騒ぎに。そこで本社から中骨が行って、子会社の担当者とともに真相を調査し、住民の中で訴訟や騒ぎを起こしそうな者がいたらリストアップして、法的な対策を準備せよ、というのである。
 中骨はすぐに子会社を尋ね、すぐに、そこが汚染源ではないという確信を得る。だとしたら、本当の原因は何なのか?
 村は、ほとんどジジイとババアしか住んでいない典型的な過疎村であった。外部から“市民屋”が入り込んで焚き付けない限り、過激な訴訟には発展しそうにないな、と中骨は見当をつける。
 『人間は都会のど真ん中などではなく、こういうところで静かに余生を送るべきではないだろうか』などと、残してきた病床の妻を思いつつ見回っていると、突然、誰かにつけられているのを感ずる。
 それは、この村には全く不似合いなポルシェであった。大阪ナンバー。不意を襲って運転席の怪しい青年をつかまえてみると、やっぱり、昨日の交差点で口論していたドライバーと同一人物であった。
 青年は鶴水といい、この村の出身だったが両親を亡くしてからは大阪で自動車整備工をしている、ただの釣り好きの男であった。ポルシェは村人を見返すために苦労して手に入れたのだが、村の老人たちの前で乗り回しても誰もその価値を分ってもらえないという、マヌケなやつでもあった。彼がなぜ昨日東京にいたかというと、柄にもなく義侠心を起こして、大雨の後の川水のサンプルを建設省に届けに行ったのである。

中骨「君、釣りをするなら、ぜひ大手門化学の×××を使ってくれたまえ」
鶴水「何やねんの、それ?」
中骨「溶けるテグスだ。キチン質繊維を組み紐のように編んである。捨てられればやが
   て腐るから、鳥の足にからまったりすることもないのだよ」
鶴水「キチン質? ほたらエビのヒゲみたいなもんかいな」

 中骨は鶴水を案内人にして、川の周辺を調査する。中骨が着目したのは、橋のかかっているあたり、護岸堤のコンクリートプロックの間から、まったく雑草が生えていない箇所があることだった。
 やがて判明した汚染の真犯人は、裏山にある×○市の優良清掃工場であった。この工場は、大手門化学の有力ライバルであるドイツの某社から最新の設備を導入し、排煙に含まれるダイオキシンも重金属もすべてフィルターで捕獲してしまうということを全国に誇っていた。
 しかし、その集めた毒物をコンクリート詰めにして県内の埋立地に埋めてしまう予定が、バブル崩壊で埋立計画が縮小され、やむなく、民間の極麿[ゴクマロ]産業に最終処理を委託していたのである。そしてこの極麿産業では、なんと下水のU字溝や河岸工事用のコンクリート製品の中に猛毒を薄めて混ぜて売っていた。それがあの村を流れる川の堰堤などにも使われており、大雨で増水した川水に含まれる砂利がコンクリートの表面を削るたびに、川水の中に少しづつ漏れ出していたのであった。
 極麿産業社長と、すべてを承知していながらこの悪事に荷担している×○市の助役は、二人で密談しているところを中骨と鶴水に目撃され、二人の両足をコンクリート漬けにして上流の滝壷に投じ、亡き者にしようと図る。が、中骨の機転で二人は生還する(コンクリートに砂糖を混ぜて固まらなくするトリックを使う)。
 水面に浮び上がった二人は、月明りの下で、奇妙な生物を目撃する。

 「カワウソや! やっぱりまだ生き残っとったんや」
 「さすが四国…」

 ますます助役と極麿を許せなくなった鶴水は、証拠をつかもうと、深夜、無人の極麿産業コンクリート工場に侵入しようとする。
 中骨は、法務部の自分が法を破っていいものかと悩むが、ついていく。
 すると中には極麿社長と×○市助役が待ちかまえている。助役はクリーンイメージを売り物に次期市長を狙っているので、自分のスキャンダルを防ぐためにどんなことでもやるつもりなのだ。
 悪党二人組は鶴水を捕らえ、捏加器の中に投げ込んでしまう。
 さらに凶器を手に中骨にも迫る悪党二人組。
 もはや法律がどうのと言っているときではない。
 中骨は、石灰の粉末をぶちまけ、炭塵爆発を起こさせて、この無人工場をコナゴナに吹き飛ばす。
 生じた災に囲まれ、今度は中骨が危なくなったが、死んだと思っていた鶴水が猛火の中にポルシェで突っ込んできて中骨を救出。ポルシェはすぐ丸焼けになってしまったが、村人はよくやったと鶴水に感謝する。
 分れ際、中骨は、鶴水の心が本当は都会にはなく、この村にあるのだろうと図星を指す。鶴水、最後に、「いま誰も彼もがイライラしとんのは、あれ環境ホルモンちゃうで。人が多すぎるんじゃ。ここならあないなことはない」。

第1話PART1 第1話・粗案 第一エピソード
ニュージャージー・プロット 第2エピソードの案の2
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