地獄の骨男(仮題)

没シナリオ大全集 part 2


「骨」第二話

(97.7.1)


午後4時。
 大手門化学の社内の廊下で、財務部長(54)が若小路に泣きついている。

財務「若小路くん、そんなこといわんで助けてくれんかね」

若小路「(冷たく)無理ですね。うやむやにしていたら、わが社まで株主代表訴訟を起こされかねない」

財務「あの総会屋に与えたのは取引先のインサイダー情報で、うちのじゃないんだ、そこを汲んでくれ」

若小路「役員の心得についてはすでに私がマニュアルを配布したはず。懲戒解雇ですね。失礼」

財務「あんまりだ! 退職金もない、再就職もできない…どうすりゃいいんだ!」

 若小路、ガックリした財務部長を尻目に無表情で歩み去る。

若小路『これからは万事マニュアル時代。親切に書いてやったマニュアルにも対応できんウスノロジジイは組織の採算性を悪くするだけだ』

 若小路、法務部の大部屋に入る。
 と、自分の机の上に段ホール箱が置いてある。

若小路「中骨、ちょっとこい、これは何だ!」

中骨 (やってきて)「は?」

若小路「私は昼間、英字業界紙の切抜きを整理するように命じたろ?」

中骨 「はい」

若小路「はいじゃないよ。それがどうして夕方にもう私の机の上にあるんだ!」

中骨 「終りましたので…イギリス本国で発行されたものは、すべて右の小箱に分けてあります」

若小路「キミね、でたらめな仕事をしてもらっちゃこまるんだ。この切抜きは、前に雇ったバイトが気のきかないやつで、紙名の手掛かりがすべてないのだ。それを、どうやって3時間で選り分けられるんだね!」

 このやりとりの最中、花咲と寺沢は「また若小路部長のベテランいじめよ、ひどい」「ああ。資料整理なんて新人がする仕事だ」とヒソヒソ。

中骨「部長、私はインキの組成の違いを手がかりにしたのです」

若小路「なに? インクの違い…?」

中骨「…英国は植字工の組合が強いので、印刷機械もなかなか新しくならない。それで出版物にも、昔ながらのインキのにおいがついているわけですよ」

 周りの社員、この様子を窺い、ある者は中骨に感心し、ある者は若小路をバカにしたように見ている。

若小路『…このジジイめ、これほど嫌がらせしてるのに、肩叩きには応じないつもりか。よかろう、次の手も用意してある!』

若小路「(気を取り直し)そうか、了解したよ。じゃあ早速ですまないんだけどね、仕事のできるところを見込んでひとつ、急な用を頼まれてくれ」

中骨「は? 急な……?」

若小路「四国へ出張だ。ここに今夜の切符もある。誰に頼もうか迷っていたのだが、君がいちばん頼れそうだしねえ」

中骨「こ……これは……」

 驚きながらも切符を受け取った中骨、見れば、愛媛行の夜行長距離バス切符である。

若小路『フフフ…年寄りにはこたえるだろう、夜行バスの長旅さ』

若小路「中骨くん、まさかイヤとは言うまいねえ」

○東京駅前の長距離バスターミナル・夜
 自動販売機から缶入緑茶が出てくる。
 中骨、バスの入構を待っている間、それをすする。
 回想シーン。

若小路「…愛媛にわが社の無人廃液処理施設があってねえ。これは地盤に何層もの遮蔽を設けてあるので液漏れなどありえないんだが、今年になって、近くの川が雨で増水するたびに重金属やダイオキシンが水に混じり、魚が浮くといって地元が騒ぎだした。周りに他の工場がないためどうしてもウチが疑われている。こんなとき現地の非常勤管理スタッフがヘタな住民対応をすれば、会社として思わぬ言質をとられかねんだろう。(ポンと肩を叩いて)そこで君に法務支援を頼むんだ。なあに、あそこは絵に描いたような過疎村で、三チャン農家と老人ホームしかないところだよ。君なら楽勝だろうねえ……」

 と、そこに“愛媛行”を表示したバスが入ってくる。

乗務員「ご利用の方はお急ぎください!」

中骨「ああっ、まだ全部飲んでいないのに…(いそいで飲み干そうとして)、熱ッツツ…!」

○深夜の高速道路を飛ばす長距離バス
 中で仮眠しようとする中骨、騒音と震動でなかなか寝つかれない。

○時間経過・日の出・愛媛の海際にある山村
 無人の停車場。
 バスが来て止まる。
 バスが去る。
 中骨だけ停車場に居る。

中骨「ううむ…道中はしんどかったが、着いてみると心が洗われるような風景だな。よしっ、まずは工場の検分からだ!」

 中骨、遠くに見える廃液処理工場に向かって歩いて行く。
 と、道路脇の茂みのなかから、ポロシャツ姿の怪しい男……実は住民訴訟などで荒稼ぎしている辣腕弁護士、佐治[さじ]勝巳(42)……が現れる。

佐治「(中骨の後ろ姿を見送り)…大手門化学が、とうとう法務部員をよこしよったかいな(と、コンパクトズームで中骨の横顔を撮影し)…にしても、マヌケそうな奴っちゃ。フフフ……」

○時間経過・同日正午
 日が高い。
 工場の門から、無人工場の管理スタッフ数人に案内され、中骨が歩いて出てくる。

中骨「うーん、配管にもサビひとつないし、ここが原因とはとても思えませんね」

管理スタッフ#1「もちろんです! だいたい廃液工場からダイオキシンなんて出ませんよ。誰かが外で煽っているとしか思えない」

管理スタッフ#2「地下深くの基礎コンクリートの上にゴムやビニールを重ね、溜った地下水をポンプで汲み上げて再処理していますから、一滴だって外へは出しません」

管理スタッフ#3「原因はどこか外部にあります。それをつきとめてみてくれませんか、中骨さん」

中骨「分りました。これから少し、調べまわっててみようと思います」

管理スタッフ一同「よろしくお願いします!」

○やや離れた場所
 工場の門前でのやりとりをコンパクトズームカメラで撮影している佐治。

佐治『…動き出しよるわ…』

○川岸
 清流である。
 村道の橋のかかっている前後だけ、護岸のコンクリート堰堤が整備されている。
 そこに中骨が歩いてくる。

中骨「ここから下流にダイオキシンを検出だって? 何かの間違いじゃないのか?」

 と、足元に釣り用のテグスを発見する。
 付近のコンクリートのパネルには(極)[=マルに極]の刻印がさりげなく見える。

中骨「…釣り人が落としていったのか。マナーが悪いな」

 中骨、テグスをまるめてポケットに入れる。

中骨「わが大手門化学でも、捨てると腐るテグスを開発せにゃいかんぞ。これは帰ったら開発部に提案しよう…」

 中骨、橋の上からぼんやりと清流をながめる。
 下流は海に注いでいる。

中骨『(溜息)こんな静かな田舎でのんびりと余生を送れたらな……』

○中骨の回想・区立中央病院の事務室

事務員「中骨さん、先月は検査が少なかったので、102万5555円ですね」

中骨「(札を渡すために数えながら)今月からはもっとかかりましょうか?」

事務員「奥さん発作を起こされましたからねえ。ケアを強化してますから」

中骨「あの…私もそんな高額所得者ではないもので…公費の補助は受けられないものでしょうか?」

事務員「(書類を見て)ご主人は58歳…、で、奥さんは63でいらっしゃる」

中骨「お恥ずかしい…昔めずらしい恋愛結婚でして…」

事務員「このお年では、保険のカバーは僅かですよね。しかし、あと2年して重症の奥さんが65歳になれば、医療費は無料になりますよ」

中骨「そうですか、寝たきりだと65歳から無料なんですか。じゃあ、あと2年…!」

○元の橋の上

中骨『…2年の辛抱だ。それまでは若小路部長からどんな仕打をされても、私は早期勧奨退職には応じるわけには……!』

 と、車が近付く音がする。
 橋の上の中骨のすぐ後ろで、大阪ナンバーの巨大なRVが停車する。
 助手席には豪勢な釣り道具。
 運転席には、オフのサラリーマンといった格好、いっけん菅直人を思わせる佐治。

佐治「(さりげに)いや〜この川は魚影が薄くてワヤですわ。どっかから、公害物質が流れ込んどんのとちゃいまっか?」

中骨「い、いや、そういう噂もあるみたいですが、まだ確かめられてはいないんですよ」

佐治「なんや、あそこに見える大手門化学ちゅうとこの廃液工場が臭いゆうような話ですがなあ、住民の皆さん方に聞きましたら」

中骨「いいえ! 私は東京本社からやってきた者ですが、汚染源は決してあの工場ではございません」

佐治「あ、さいでっか。(薄気味悪く)で、本社さんの方では、住民対策になんぼまでつけまんのや」

中骨「えっ、…なんぼ?」

○大手門化学本社・法務部オフィス
 部長席は不在。
 “ブラックリスト・超極秘”と下手クソな字で手書きされた黒表紙のファイルが寺沢の机の上に置かれ、ページが開かれる。
 そこには、弁護士バッヂをつけた佐治の顔写真が。

花咲「やっぱり愛媛工場にはこの佐治勝巳がくいついているようだな」

寺沢「ちょっと待って、この人、有名な“市民屋”弁護士じゃない」

花咲「何だい、市民屋って?」

寺沢「住民でも株主でも、集団訴訟や代表訴訟を煽動して、自治体や企業から多額の示談金や和解金を取る……ときには何もしないことと引き換えに、現金や証券やインサイダー情報を取る、とんでもない連中よ」

花咲「ええっ? そんな札付きの灰色が相手なら、ウチから誰が出て行っても話はこじれるにきまってるじゃないか」

寺沢「そうよ。それを知っていて部長は、わざと中骨さんに失敗をさせようと愛媛工場へ行かせたのよ!」

 二人、心配そうに顔を見合わせる。

○元の橋の上

佐治「…するとおたくさんは、そっちの交渉権限は委任されておられない、と…。チェッ」

中骨「あなたは、一体…?」

中骨『たしか、法務室のブラックリストにこんな顔があったような、なかったような……』

佐治「申し遅れましたがこういう者です」

 佐治、名刺を出す。
 ポロシャツの襟をかえすと弁護士バッヂ。
 中骨、なにか思い当たる。

中骨「ひょっとして、××河川敷の住民集団訴訟を引き受けた……」

佐治「ええ、あんときは△△化学に和解金20億ばかり支払わせましてん」

中骨「そのあなたがここに何の用で…?」

佐治「ま、立ち話もなんですさかいに」

 と佐治は中骨を自分のRVの車中に招じ入れる。

○応接室のような車内

佐治「…どうでっしゃろ、法務部長さんにこないにお伝え願いたいんです。この村から集団訴訟を起こさせない方法は、この佐治勝巳が存じておりますと」

中骨「はあ、それはどういう意味でしょうか?」

佐治『にぶいオッサンやで、この人も』

佐治「ええと…でんな、つまりや、わたいの相場はこれです(とVサインを出す)」

中骨「えっ、30分2万円の相談料? 私は土地はもってないから相続税対策はありません! それでは…(とあわてて車を降りようとする)」

佐治「(襟をつかんで引き留め)中骨さん、これはビジネスの話でっせ、ビジネス。2億や。わしんところに2億持ってきたら、御社はなんもキズがつかんと済むんや!」

中骨「はあ、どうもご親切は有難う存じます。ですが、それは私が命じられた仕事ですので。人任せにしては上司に何といわれるかわかりません。そんなわけで…失礼します」

 中骨、車から降りて深々と礼をする。
 佐治、呆れて見ている。

佐治「わかったわ。ほな、次は地裁で会うことになるかもしらんな。まあ気が変わったら、いつでも電話してきてや。よ〜く上司とも相談せなあかんで(RVの後輪で中骨に土砂を跳ね飛ばしながら猛然と走り去る)」

中骨「(頭を下げて)いろいろいとご親切に有難うございます」

中骨『フーッ、いろいろな人がいるもんだな。もうすこし相談料が安ければ、生前贈与について尋ねたかったところだが…』

○夜の東京

○若小路の自宅・寝室
 『ウォールストリートジャーナル』かなにかを読みながらナイトガウンでくつろいでいる若小路。

若小路「さて、そろそろ休むか…」

 若小路、スタンドを消して伸びをする。

若小路「今日はひさびさの六本木のクラブで、ちょっと疲れた。…しかしかつての同窓生たちも今じゃすっかりオヤジだったな。どいつもこいつも、生産性の低い日本のホワイトカラーそのもの……。あ〜、いやだいやだ」

 若小路、窓際に立って東京湾の夜景を見る。

若小路『フフフ、いまごろは中骨のじじいめ、田舎の安宿で辞表の下書きでも書いているに違いない。これまでデスクワークばっかりで、市民屋の弁護士と渡り合ったことなどないんだからな。フフフ…こじらせれば、その白髪首で責任をとってもらうまでさ』

 カーテンを閉める。

○同じ頃・愛媛工場の最寄りの町にある安宿の一室
 タタミの上に寝転がりながら、周辺の地図や工場設備の設計図などを熱心に検討している中骨。
 傍らには、すっかり平らげたつつましやかな御膳がのけてある。
 下階の宴会場では、すごいドンチャン騒ぎをやっている様子で、カラオケの音が響きわたっている。
 そこへ、宿の仲居(40)が入ってくる。

仲居「お酒はおよろしいでしょうか?」

中骨「出張中は飲みませんので、すいません」

仲居「お仕事熱心ですなあ。お膳お下げしてよろしいですか?」

中骨「ああお願いします」

仲居「下の宴会場がうるさくてほんにご迷惑さまですわねえ」

中骨「にぎやかですね。毎晩こんなに景気がいいんですか」

仲居「いいえ、極麿さんが××市の助役さんを接待なさるときだけやわ」

中骨「××市といったら、完全民間委託の無公害ゴミ焼却場を建設した…いま全国のモデル自治体になっているところだね」

仲居「お客さんようごぞんじやわ。助役さんは衛生局長のときにその清掃事業を推進したお手柄で出世なさったです。早くも次の市長とかもてはやされてますわ」

中骨「極麿さんというのも、地元の名士なのかい?」

仲居「ホホホ…極麿産業いうて、山奥の方に大きなセメント工場をもってらっしゃる社長さんですの。そこがあの焼却場も請け負いましてん。…ほな失礼いたしまして(と膳を下げて出ていく)」

中骨『セメント工場……』

 気になった中骨、地図でその工場を見つける。

中骨「これか……そういえば、昼間見た護岸コンクリートにも(極)のマークがあったな…」

○夜の旅館全景
 一階でドンチャンさわぎをしている障子越しの影絵。

○宴会場
 一曲歌い終えた極麿社長(50)が上座に戻ってくる。

仲居たち「社長さん、どうぞおひとつ(と酌の嵐)」

極麿「うう、すまんな」

隣りの上座で気乗りのしない様子なのは、××市助役(47)。

極麿「(助役の肩になれなれしく手をかけ、ビールを注いで)どうしたの、元気ないねえ、助役さん。パーっといかなきゃ。あ、それとも早くお床の方を、ですか…こりゃ気がつかなくて(と、誰かを呼ぼうとする)」

助役「(あわてて)いいや、私はもうそろそろ帰らないと…」

極麿「ああそう、じゃ、これお車代」

 と、ムキダシの札束を助役の内ポケットにねじ込もうとする。
 助役、それを拒もうとする。

極麿「(助役の耳もとに小さな声で凄み)…アンタはもう共犯者なんだからねえ。いまさらキレイぶったってだめだよ、次期市長さんよ」

 助役、諦めたように拒んでいた手をおろす。
 極麿の札束、助役のポケットに納まり、極麿、ニヤリと笑う。
 うなだれている助役、豪快に気炎を上げている極麿。

○翌日午前・愛媛
 中骨は背広姿の上にやぼったい長靴のいでたちで、独自に川の周辺の調査を開始。
 途中、土手ですっころんだり、薮の中に迷い込み、トゲだらけのウドの大木が密生しているところでニッチもサッチもいかなくなり、衣服をボロボロにしてやっと開けたところに出たところが小さな牧場で、いきなり馬と鉢合せして仰天したりする[※私は神奈川の山の中でこういう体験を本当にしました]。
 そのあいだじゅう、気づかれないように佐治が遠くからコンパクトズームカメラで監視している。

佐治『証拠がひとつも無うては、こっちかて提訴しても勝ち目はあらへんしな…』

○再びあの橋のたもと

中骨「ああ疲れた、どっこいしょ(と堰堤に座る)」

 中骨、風呂敷包みから弁当を取り出す。

中骨「あっ、仲居さん、箸が入ってないよ……仕方ない、なにか代用になるものは……」

 中骨、周りを見回し、この護岸部分にだけまったく雑草のないのに気づく。

中骨「変だ…この護岸のところだけ、草一本生えてないぞ……除草している様子もないし、いったいどうしてなんだ?」

○やや離れた場所
 佐治のレンズの中で、中骨が何かに気づいたポーズをする。

佐治『……? オッサン、何かに気づきよったらしいで』

○元の橋

中骨「(はいつくばるようにしてしきりに考え込んでいる)…そうだ、うーん、いや、しかし、本当にそんなことが…」

 と、車の音。
 中骨が振り向くと佐治がニコニコしている。

佐治「中骨さん、またここでお会いしましたな。どないしましてん?(と降りてくる)」

中骨「あっ、弁護士の佐治さん……。とうとう真犯人が分ったんですよ。やっぱりウチじゃありません」

佐治「えっ、そりゃ、どないな話です?」

中骨「この護岸用のコンクリートパネルが毒を含んでいたんですよ。ほら、増水したときに川水が運んでくる砂利に表面が削られた後があるでしょう」

佐治「ははあ、あるわな」

中骨「それで削られたところをよくみると、このコンクリートには自然の砂利を使ってないのですよ。これは、2000度くらいで焼かれた鉱物です。たぶん、××市の清掃工場の灰を固めたものではないでしょうか」

佐治「そういえば(極)の刻印……これは、地元の極麿産業製のコンパネやな」

佐治『みかけによらず、冴えとるのぉ、このオッサン…!』

中骨「それで極麿産業は、清掃工場の残灰のうち、最終処分の最も面倒な重金属とダイオキシンはコンクリート製品に混ぜ込んで、こういった工事用に販売しているのかも…」

佐治「うん、なるほど! 大雨で川水が増したときなど、それが水の中の砂利なんぞで削られて溶け出るちゅうわけか」

中骨「……佐治さん、これはあくまで推理です。私が極麿産業に出向いて直接に確かめるまでは、どうか他言は無用に願いますよ」

佐治「それじゃ、まだその話は誰にも…?」

中骨「ええ。いまふと思い付いたばかりですから」

佐治『こいつの話が本当なら、××市の助役と極麿から、口止め料は何億でも思いのままや…!』

佐治「よう分りましたわ。私は用がありますよって、ここで……」

 村を立ち去ったと見せかけた佐治は、工事用の青いビニールシートでRVの後部を覆って擬装兼汚れ防止用措置とし、中骨を山道に待ち伏せ、通りかかった中骨を、車を急にバックさせて土手側に押し付け、殺した(ように見えた)。立ち去るRV。

佐治『この話はワシだけの儲けにさせてもらうで。悪う思わんといてな』

 しかし中骨は、猟師が掘ったイノシシ用落とし穴に落ちたため助かり、拾っておいたテグスと針で外の藤蔓をたぐりよせ、穴からかろうじて脱出する。

中骨『(佐治にやられたとはまったく気づかず)いったいさっきの車は何だったんだろう?』

 極麿産業では、極麿社長と、すべてを承知していながらこの悪事に荷担せざるを得なかった×○市の助役がいた。助役はクリーンイメージを売り物に次期市長を狙っているので、自分のスキャンダルを防ぐためにもうどんなことでもやらなくてはならないのだ。佐治は突然二人の前にあらわれ、「汚染のからくりのすべてを知っている」と、二人を驚かせる。「…まあ東京都でも残灰の重金属は東京湾にこっそりと埋めとる。××市はバブルの崩壊で埋立計画がのうなってもうたんや。ねえ、助役さん」

 助役、ガックリとうなだれる。

佐治「…しかしまあ、なんでも告訴するのが弁護士の仕事思うたらちゃうで」

極麿「というと…?」

佐治「ま、ものは相談やが…」

 佐治は、大手門の子会社にすべての責任をなすりつける提案をして、二人から大金をせしめる肚であった。ところが、それを切り出さないうちに、中骨がノコノコと現れて……。

中骨「もしもし極麿さん、夜分とつぜんお邪魔しますよ。じつはおたくのコンクリート製品の中に重金属を含む残灰が…」

 極麿、いきなり応接セットの下からショットガンを取り出し、ぶっ放して、まず中骨、ついで佐治を縛り上げる。
 中骨、ここではじめて佐治の存在に驚く。

中骨「あなたもここへ調査に……? だったら言ってくれればよかったのに」

 悪事がバレてうろたえ、オロオロする助役。極麿は「こうなりゃ仕方あるめえ。コンクリ漬けにして二人とも滝壷に沈める手だ」と二人の足を1斗缶に突っ込み速乾性のコンクリートを流し込む。
 そのとき中骨、日頃ポケットに貯めているスティックシュガーをまさぐり、後ろ手で缶に注ぐ。僅かな砂糖が混入しても、セメントは絶対に固まらなくなるからだ。
 極麿はパッカー(ゴミ収集車)に二人を放り込み、上流の滝壷に行って谷底へ荷台を傾けて落下させる。二人はいったん水に沈むが、なんとか脱出に成功する。
 しかし中骨は、単に虎口を脱れただけではだめなのだ。与えられた仕事を成功させて帰らなければ、責任を問われて職を失うのは必至だからである。妻を想い、意を決する中骨。中骨は、木片につかまって下流まで下ってまた工場に戻るという。佐治は、自分は遠慮するといって後に残るが、工場に自分のRVを停めたままであることに気づき、仕方無く陸路戻ることにする。
 深夜、証拠を得るために無人の極麿産業コンクリート工場に侵入しようとする中骨。法務部の人間が不法侵入をして良いのかと一瞬悩むがこれも妻のためとフッ切る。
 すると中では極麿社長と×○市助役が言い争っている。助役は自分のしていることが恐ろしくなったのだ。極麿は助役にショットガンを向ける。それを見た中骨は…

中骨『あの助役も悪党だ。殺されても自業自得だ……しかし…!』

 中骨、都市下水用の巨大なコンクリートチューブの中に入り、それを回転させて倉庫に突っ込み、なんとか助役を助け出し、ショットガンは生コンに浸してしまう。しかし助役は外れ弾で足を負傷し、走れなくなる。中骨、助役を抱き抱えて工場の出口へ。

助役「なんで私なんかを助ける?」

中骨「その…停年後の再就職のお願いができるかな、と思って…」

 極麿、秘密を知っている二人をどうしても生かして帰すわけにいかないので、今度は大ハンマーとバールを持って襲いかかる。
 中骨は助役をかばいつつ、フォークリフトを運転して、極麿を生コンの海の中に突き落とす。さらに自分と助役は荷物用エレベーターに乗り込み、滑り台のようになっている高さ十数メーターのシューターから工場入口脇の砂利山に真っ逆さまに転落してなんとか脱出。
 ひと息ついたのも束の間、極麿はパッカーに乗って追いかけてきた。轢き殺すつもりなのは明らかだった。中骨は一輪車に助役を乗せて走る。

助役「私を置いてあなただけ逃げなさい」

中骨「それはできない! あんたは大事な証人だ」

 中骨ら、しだいに崖っ縁に追い詰められる。
 その頃、佐治もたどりつき、こんな現場にいるのはまずいと自分のRVに乗ってさっさと帰ろうとする。だが、例のビニールシートが車軸にからみついてしまい、ちょうど中骨らと極麿の中間に割り込む形で、道路の真ん中でニッチもサッチもいかなくなる。
 そこへ加速してきた極麿のパッカーが。佐治は服が釣り道具にひっかかって脱出ができない。それが中骨らには、自分たちを助けるためのすごい勇気のように見える。極麿、RVを避け切れず、激突してもろとも谷底に転落し、大爆発。佐治はギリギリのタイミングでかろうじてRVから飛び出す。

中骨「佐治さんは私たちの命の恩人だ」

佐治「いや〜…」

 そこに住民と工場の非常勤社員と巡査らもかけつける。

中骨「(住民たちに)川の汚染原因はこのコンクリート製品だったんです! 証拠はすべて工場に!」

佐治『これで住民訴訟の目ものうなったか…あほらし、いかいくたびれ儲けや…(と消える)』

助役「(中骨に)さっき砂利山で何かを胸ポケットに入れましたね?」

中骨「これですか。(と小石を取り出し)珍しい瑪瑙石だったので…ウチのやつへ出張土産にと思いましてね」


第1話PART1 第1話・粗案 第一エピソード
ニュージャージー・プロット 第2エピソードの案の2
「骨」第二話アウトライン 第二話

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